第20話
早いもので魔法学園に通い一年が経とうしていた。期末テストが控えているある日、あの二人組の先輩令嬢が私を校庭の隅に連れ出した。
私にレオンス様に近づくなと言って来た日以来、何も言って来る事はなかったのに何かしらね。しかもこんな場所で。
「あ、あなたのせいでリースお姉様とレオンス様の婚約が解消されたわ」
「え? 婚約破棄に?」
「そうよ! どうしてくれるのよ」
ちょっと待ってよ。どうしてそれが私のせいになるの?
挨拶したぐらいで婚約が破棄になるわけないでしょう。しかも私が彼と挨拶をしているって誰かが告げ口しなければ、知り様もない。
まあ、何度かココドーネ侯爵家にいらして、四人でおしゃべりしたりはしたけど。
リサおばあ様に呼ばれたのに参加しないわけにもいかないじゃない。
それに二人っきりで会った事などないわよ。
「なぜに私のせいになるのかしら? 誰かが相手の方に言ったのですか?」
「え? し、知らないわよ。でも原因があなたしか思い当たらないわ」
何言っているのかしらね、この子。
傍系に詳しい話などするわけないじゃない。きっと親が話しているのを聞いて、私が原因だと思ったのでしょうね。
子供が余計な事に首を突っ込むのではないわよ。
「詳しい話をあなたの親が聞いているとは思えないわ。原因は他にあるのでしょう」
「何よこの子、偉そうに!」
「だ、だいだいそう思われる事をするからじゃない」
思われる事って挨拶しかしてないじゃない。
「あの質問いいですか?」
「え……」
「お二人は、レオンス様に会った時、ご挨拶はなさりませんの?」
「べ、別にそんな事、あなたに関係ないではありませんか」
「あら、私はダメでお二人はいいのですか? その理由はなんでしょうか」
「う、うるさい! もう絶対に許さないからね!」
「覚えておきなさい!」
え~。何それ。
二人は、怒りながら去っていく。
って、どう許さないのかしらね。
「いた。よかった」
「あれ? レオンス様」
走ってこっちへ向かって来る。
「何かあったのですか?」
「いや、二人が君をどこかに連れて行ったって聞いたから」
「あぁ……」
凄い剣幕で訪ねてきたものね。
それをなぜに彼に言うのかは疑問だけど。
「あ、いや、知り合いに君に何かあったら教えてって伝えてあったから」
「はい!? なぜに」
そんな事を頼む仲ではないと思うのだけど。
「あ、勝手な事をしてごめんね。監視されているようで嫌だよね」
「そ、そんな事はないけど」
「彼女達が、君に何かするのではないかと思ってね。私のせいで何かあったら大変だから」
なるほど。一応、彼女達が私と仲良くなろうとしているわけではないと気づいていたのね。
「そうなのですね。ありがとうございます。彼女達は、その……レオンス様とご令嬢の婚約が破棄されたのは、私のせいだと言ってきて」
「え? なぜ君のせいになるの? それに婚約は解消だよ」
「うん? 解消?」
そうだとレオンス様は頷く。
「話し合いで婚約はなかった事になったって事。一方的になかった事にされたわけではないよ」
「そうなんだ」
「まあ、こうなるのではないかとは思っていたけどね」
「え?」
驚きだわ。11歳の子が、大人より状況を把握していたみたいね。
「変な事に巻き込んでごめんね」
「いえ。でもどうして5つも上の令嬢と婚約する事に? 21歳だと2人目以降の子を産む歳だと、リサおばあ様が言っていたのだけど」
「何それ。君にそんな話をしているんだ」
っは! しまったぁ。内輪でこんな事を話していただなんて言っちゃったわ。
「まあ私のせいなんだけどね」
「レオンス様のせい?」
「属性持ちだとわかって、親族の集まりで魔法博士になるんだぁって言ったものだから、周りは家督を継がないと思ったらしく、婚約の話が上手くいかなかったみたいなんだ」
あぁ、集まりで子供同士でそんな話になったのね。まあ属性持ちなら自慢したくなるわよね。
「両親は、魔法博士になどさせる気もなかった。8歳頃までには大抵、婚約者がいるものらしい。焦った両親は、婚約者がいない彼女と婚約を結んだ」
「そんな事、気にしなくてもいいのにね」
そう言えば、レオンス様がクスリと笑う。
「わかっているようで、わかっていないね」
むむむむ。
笑わなくてもいいじゃないか。
「ごめんごめん。バカにしたわけではないんだ。大人びてるなぁって思っていたけど、やっぱり子供なんだなって」
いやそれ、レオンス様にも当てはまると思うのですが。
私は中身は子供ではないので……。




