第15話
「ファビア。私が用意したドレスは気に入らないかしら。それとも、サイズが合わない?」
それは、一か月ぐらい経ったある日の朝食時にリサおばあ様が言った言葉だ。
今日は、学校がお休みの日だったので、制服ではなく普段着。家から持ってきた、ここではドレスだとは胸を張って言えないドレス。
「いえ。凄く立派で特別な日に着ようと思いまして」
こっちを着ろと言われたとは言えない。まあこっちの方が楽だから着ているとも言うけど。
「まあ。子供は成長が早いのよ。特別の日に着るのは買ってあげるから、休日にしか着る事が出来ないだもの遠慮せず着てちょうだい。ローレット、食べ終わったら手伝ってあげて」
「はい。かしこまりました」
傍に立っていたローレットに、リサおばあ様が指示を出す。
これに異を唱えるなど出来ない。もちろん、侯爵夫人も。
「わざわざ作る事もないでしょう。学園での行事は制服でしょうし、今あるので十分よね」
言えたとして新しいのは要らないと言うだけだ。
それに私は、大きく頷く。これについては、大賛成だ。
侯爵夫人にすれば、なぜ私の為に侯爵家からお金を出さなくてはいけないのか。って思うわよね。私もそう思うわ。
「今あるので十分ですわ。お気持ちだけ頂きます。袖を通すのが楽しみです」
一応、着れるのは嬉しいと言っておく。動きづらいから着たくないからで、着てみたいという思いはあるにはあるのだから。
「そう。後で見せてちょうだいね」
「はい。リサおばあ様」
確認するんだ。私が着ないだろうというよりは、侯爵夫人が邪魔するようにローレットに指示して、私が着られないかもしれないと思ったからだと思う。
朝食後、淡い紫色のドレスに着替えた。
驚く事に、ドレスに合わせてローレットが髪を結ってくれる。両サイドを編み込み後ろに束ね、紫色のリボンを付けてくれた。
鏡に映る私は、グッと大人っぽく見える。と言っても10歳より大人びて見える程度だけどね。
「まあ、素敵ね。似合うじゃない。ねえ、エメリック」
「うん。制服より似合っていると思うよ」
「ありがとう」
制服より似合っているか。きっと誉め言葉なんだろうなぁ。ご令嬢に見えるよって言う意味で。
今日は、侯爵夫人がお出掛けしたようで、庭園でリサおばあ様とエメリックとの三人でティータイムを楽しんでいた。
「エメリック様。タカビーダ侯爵令息がお見えになりました」
「あ、来た来た。ここに通して」
「はい」
使用人が玄関へと向かう。
どこぞの侯爵が来たようだ。あ、そういえば前に言っていたお友達かしら? 侯爵家の令息だったような。
「あの私、部屋に戻りますね」
「え? なんで? 君に紹介しようと思ったのだけど」
「私にですか?」
「ほら、前に話したでしょう? 魔法学園に通っている友人がいるって。彼に君の話をしたら是非会いたいって言うから」
「そうよ。それなのにあの恰好ではね」
リサおばあ様が突然ドレスの事を言い出したのは、この為か。
私がエメリック様に近づくと侯爵夫人が煩いから、いない時を狙って。
リサおばあ様が一緒なら、後で文句も言いづらいって事ね。
「失礼します」
「来た! ここに座って」
「お呼び頂きありがとうございます。初めまして。レオンス・タカビーダです」
エメリック様に言われて、彼とリサおばあ様の間の椅子の前に立ったレオンス様が私に自己紹介をした。
慌てて私は立ち上がり、カーテシーをする。
「私は、ファビア・ブレスチャと申します」
「うん。宜しく」
レオンス様は、にこやかにほほ笑むと椅子に腰を下ろす。その後、私も椅子に座った。
彼は、金の髪に瞳でまるで王子様みたい。私の精神年齢が10歳なら惚れていたかもね。
とても魔法学園に通っている令息には見えない。魔法学園に通っている令息達は、結構ガサツだ。
まあ貴族としての嗜みを求められる場ではないからかもしれないけどね。
「会ってみたいと思っていたんだ。噂の子爵令嬢に。そうしたらエメリックの所に住んでいるって聞いて驚いたよ」
正面に座ったレオンス様が、満面の笑みで言った。
ま、眩しいです。その笑顔。
「噂ですか? あ、ダメダメで有名になってます?」
哀れみの目で見られている事を思いだし言えば、違うと首を横に振る。
「そんなわけないじゃないか。私の時も10歳で入って来たって騒がれた。しかも、侯爵家の長男がってね。君の場合は、無属性の令嬢が入学したって。前代未聞だってね」
前代未聞って。そんな大げさな。
それより今、サラッと凄い事言わなかった? 侯爵家の長男って! そっちの方が、前代未聞でしょうに!




