2話 統一歴1216年 早春 佐助来訪
正月を迎えて、俺も七歳になった。
冬の間は、収穫した稲や麦の脱穀、精米、製粉作業に加えて、婆さまから包丁の使い方を習って、料理の手伝いもするようになった。大根の皮をむいたりするのはまだできないけど、食べやすい大きさに切るのは得意だ。猫の手にするって習ったけど、猫ってどんな手をしているのかまだ見たことがない。かわいい動物らしいから見てみたいな。
あと、爺さまか婆さまが見ているときなら、火も使っていいことになって、ご飯を炊くこともできるようになった。初めて一人でおかまの火加減をみたときは、焦げ焦げになっちゃったけど、爺さまも婆さまも、最初はみんな失敗するもんだって言って、焦げたご飯をちゃんと最後まで平らげてくれた。最近は、あんまり失敗しなくなってきたし、山の雪が解けて爺さま婆さまが山に出かけるようになったら、留守番の間に、ご飯を炊いておいてあげられるようになりそう。
読み書きも、だんだん覚えた漢字が増えてきたから、爺さまが持っている本を読ませてもらえるようになった。だいたいは昔の人が書いた日記で、笑っちゃうような面白いものや、ハラハラする戦いの本もあった。わからない字がたくさん出てくるから、そういう時は、その字を紙に書いておいて、あとで爺さまに読み方を教えてもらっている。ちなみに、紙は婆さまに習って自分で作っている。
算術も百までの足し算と引き算ができるようになったから、いまは掛け算を習っている。最初に九九を全部覚えなくちゃいけないんだけど七の段が難しくてすぐにわかんなくなっちゃう。掛け算のあとも割り算とか、図形の面積とかもっと難しいことがたくさんあるって爺さまが言ってたから、もっとがんばらないと。
錬成術もだんだん上達してきて、今は、一回の錬成でお茶碗にお米を少なめに盛ったくらいの量の鉄鉱石をつくれるようになった。一年続けても米十粒くらいの量しか錬成できないと思ってたのに、去年の春に錬成術を始めてから一年で十粒どころか百粒分くらい錬成できるようになったんじゃないかな。
爺さまは、二カ月で二倍ずつ増えてるみたいなことを言っていたけど、掛け算はまだ習い始めたばっかりで、九九まではわかるけど大きな数になるとよくわからない。とにかく、たくさん錬成できると爺さまが町に行った時に鉄と交換できるものの量も増えるから嬉しい。爺さまと婆さまは錬成できる量があんまり多くないみたいだけど、俺が、爺さまや婆さまの分まで頑張ればいいだけだし、毎日忘れないようにしっかり錬成してから寝るようにしてる。
春になって山の雪が少し解けだしてから、爺さまに体術を習うようになった。爺さまが言うには、山に入ったら、熊や狼に出くわすこともあるし、いざというときのために、自分の身体を思い通りに動かせるように練習しておくことが大事らしい。
体術の練習は、身体をいろんな方向に曲げたり伸ばしたりしてほぐすことから始める。この動きを爺さまは、柔軟運動って呼んでる。動き出す前に身体をほぐしておくとケガをしにくくなるんだって。爺さま婆さまが山に入る前に身体をほぐしているのを小さいときから見よう見まねで一緒にやってたから、俺の身体も固くはないはずだけど、爺さまや婆さまの身体の柔らかさにはかなわない。とくに、婆さまが本気を出すと、立ったまま片足を後ろにあげたらその足のかかとが頭のてっぺんにつく。グニャグニャすぎて人じゃないみたい。
身体をほぐし終わったら、まずは走り込みをする。家の南側の斜面にある段々畑と棚田のまわりに人ひとりが走れるような道を、雪かきしてつくってあるから、そこを三周走る。爺さまと婆さまは、俺が三周走っている間に十周くらい走る。畑も田んぼも斜面にあるから降りのときはいいけど、棚田の下から登ってくるときはすごく大変で、三周走ると息がゼーゼーいって動けなくなってしまう。爺さま婆さまみたいにここを十周走れるようになったら山にも連れて行ってくれるって約束してあるので、早くもっとたくさん走れるようになりたいんだけど、まだまだ先は長そう。
走り終えて一息ついたら、まずは攻撃より防御が大事だからって言われたから、防御の練習をする。地面に描いた円の中から出ないで、爺さまが操る細い棒から逃げる練習。棒が体にあたらないように身をかわして、かわせないときは腕と足の脛につけた竹製の防具ではじくようにして棒を遮る。爺さまが手加減してくれているのはわかるんだけど、まだ全然だめで、棒に気をとられすぎると爺さまに足を引っかけられるし、爺さまの足に注意すると棒の動きについていけなくなる。
一度、婆さまが同じように防御するのを見せてもらったら、爺さまの操る棒をひょいひょいかわした上で最後には爺さまの後ろに回り込んで首に手刀を当ててた。爺さまも婆さまも本気じゃなさそうなのに、動きに目でついていくのがやっとだった。大人ってすごい。俺も早くあんな風に動けるようになりたいなぁ。
一通り防御の練習が済んだら、次は婆さまから棒手裏剣を習う。棒手裏剣は俺の手におさまるくらいの長さで先端がとがった鉄の棒で、俺がつくった鉄鉱石を材料に爺さまがこしらえてくれたものだ。その棒手裏剣を回転させずにまっすぐ投げて的に当てる練習をする。最初は的から五歩分離れたところから始めて、慣れてきた今は十歩くらい離れたところから的に当てる練習をしている。手裏剣は俺の性に合っていたのか、練習すればするほど上達していくから気分がいい。普通は回転させずにまっすぐ投げるところで躓くみたいなんだけど、なんでか俺は最初からまっすぐ投げられた。人には誰しも何かしらの才能があるみたいだけど、俺の才能は棒手裏剣だったみたい。
山の中で、襲ってくる動物に出会ったら、気づかれていない場合はそのまま逃げる。気づかれた場合は、相手が近づいたところで手裏剣を投げてひるませたすきに逃げる。俺はまだ小さいし強い相手と戦っても勝てるはずないから、まずは逃げる手段をいろいろ持つことが大切で、走ること、相手の攻撃をかわすこと、相手をひるませることを目標に修練するように言われてて、いつか一人で山に入ったときに困らないように頑張っている。
山の雪が解けるまで、他にすることもないから、午前中に薪割りや炭づくり、精米なんかの手伝いをして、午後には修練、手習い、料理の手伝いをして、夕飯を食べた後、寝る前に錬成術という毎日が続いている。
しばらくして、晴れた日の午後に、佐助さんが訪ねてきた。蓑をまとって笠をかぶってかんじきを履いた格好でやってきたから、最初は変な生き物が現れたのかと思ってビックリしちゃった。佐助さんは、爺さまの親戚筋の人で、年に何回か爺さまと婆さまの様子を見がてら、町から塩とか布とかを持ってきてくれる。爺さまもたまに町へ降りるけど、あんまりたくさんの物は運べないから、佐助さんが持ってきてくれるものはとてもありがたい。
佐助さんは、二十歳くらいのガッチリした体格のおじさんで、まだ結婚はしてない。いつか自分の子供ができたときの予行練習だって言って、俺のことを自分の子供みたいに可愛がってくれる。いつも干し柿とか、干し芋とか美味しいものをお土産に持ってきてくれる優しいおじさんだから俺は大好きだ。
「久しぶりだな、太郎。ずいぶん大きくなったんじゃないか。」
「うん。去年より一尺(約30cm)は大きくなったよ。」
「それは言い過ぎだろう。三寸(約9cm)くらいじゃないか。」
「ばれたか。柱で測ったら今の背の高さは三尺五寸(115cm)で、一年で伸びたのはぴったり三寸だった。なんでわかったの?」
「まぁ、見りゃわかるよ。今より一尺小さかったら赤ん坊じゃねえか。」
そういって、佐助さんは俺の頭をポンポンと叩いてからワシャワシャとなでてくれた。
「ねぇ、今日もお土産あるの?」
「あるぞ。今日はな、干し柿だ!」
「えっ、干し柿!やったー!ありがとう!お茶入れてくるね。俺一人で火起こしできるようになったんだ。」
「おう。がんばってるな。ありがとよ。」
俺が家に戻ってお湯を沸かしてお茶を入れている間、爺さまが、佐助さんが持ってきた塩や海産物を受け取っていた。町からここに来るまで二日くらいかかる道のりみたいだから、毎回、佐助さんは一晩泊まってから町に戻っていく。
「はい、お茶どーぞ。」
「おう、ありがとよ。」
縁側に座り、もらった干し柿を食べる。甘い!爺さまも干し柿をモグモグ食べながら、佐助さんと話始めた。
「それで、町の方に変わりはないかね。」
「近江の方からやってくる流民がちょこちょこいますが、それ以外は特に変わりはないですね。半兵衛様が、流民たちを受け入れた上で、堤防づくりやら開墾やら仕事を与えて農地を増やしてくれたおかげで食糧も足りてますし、おかげさまで、賊の流入もほとんどないです。収入に余裕があるからって商人を通じて人手を募ったら、優秀な人達が集まってきて賑わってきてますよ。」
「それは重畳、半兵衛も元気かね。」
「はい。去年、安藤家から迎えた姫さまに夜ごと精気をしぼり取られているみたいですが、それでも夜ごと励めるってことは、元気なんだと思います。」
香草茶とすすっていた爺さまが、ぷっ、と笑って、お茶を吹きだした。
「あの半兵衛が嫁に夜ごとしぼり取られておるか。ふっ、ちょっと顔を見てみたくなったの。」
少し悪い笑顔をした婆さまも、会話に加わった。
「ふふっ。そうでございますねぇ。一度、町に降りてからかってやりましょうか。嫁ごとの話で真っ赤になった半兵衛の顔をみたら冥途の土産になりそうですもの。」
「それは、勘弁してあげてください。まぁ、お二人に夜の営みの話を振られて真っ赤になってる半兵衛様を見てみたくはありますが。」
三人はちょっと悪い顔で笑いながら楽しそうに話している。半兵衛様というのは、町の領主さまらしいけど、俺は名前を聞いたことがあるだけで会ったことはない。話の流れだと、爺さまや婆さまと気やすい関係みたいだけど、山で暮らしている爺さま婆さまとどんな関係なんだろう。
「ねぇ、爺さま。半兵衛様って爺さまとどういう関係なの。」
「そういえば、太郎には言ってなかったな。半兵衛はわしの娘の子、つまり孫じゃ。よくできた孫でのう。頭はいいし、民の為を思った政をする優しくていい男なんじゃが、いかんせん無口で仏頂面での。感情を顔に出さないから、なかなか周りの者と打ち解けなくてのぉ。」
「でも、よく見てたら。緊張するとすぐに耳が赤くなるのよ。」
婆さまが昔を思い出すように少し上を向いて目を細めながら話を続ける。
「それで、それに気づいてから半兵衛をよく見るようにしてたら、若いおなごが近くにくると毎回のように耳が赤くなっててね。そのときまだ8歳だったのに、ませてたのね。」
「他にも何か反応がないかよく見てるとの、嬉しそうなときは必ず眉があがるし、美味しいものを食べると鼻がひくひくするんじゃ、それをみんなで観察しての、半兵衛の感情とそのときの顔の変化の対応表をつくっての、完成したそれを半兵衛に見せたら。耳をピクピクさせながら顔中真っ赤になっての。」
「そうでしたねぇ。本人はすましてるつもりなのに、まったく感情が隠せないのがばれちゃって、ちょっと可哀そうでしたけど、まぁ、あれでみんなと打ち解けましたからねぇ。」
「くっくっくっ。で、すぐに半兵衛様が恥ずかしくなると耳をひくつかせて顔が真っ赤になるのを対応表に加えたんですよね。お二人がつくられた半兵衛様対応表は、今でも家臣一同の必読の書になっておりますし、安藤家からの輿入れのときにも奥方様にまっさきに対応表を渡したおかげで、二人の仲が睦まじくなったのではと思っております。」
3人でケタケタ笑いながら半兵衛様の話で盛り上がって、すごく楽しそう。半兵衛様に会ってみたくなってきた。
「半兵衛様、楽しそうなお方だね。俺も会ってみたいなぁ。」
「それなら、今度、対応表渡しとくから覚えておくといいぞ。ただ、本人はすました顔をしてるのに、感情がバレバレだからな。それを見て笑わないようにする方が大変だ。」
佐助さんが、悪い顔でニヤッと笑い、今度その表を持ってきてくれる約束をした。それまでにもっと文字の勉強をしておかないと!
それから、囲炉裏端で佐助さんが持ってきたお酒を飲み始めた爺さまと佐助さんと残して、俺は婆さまと一緒に夕飯の準備を始めた。今日の夕飯は佐助の持ってきてくれたアジという海の魚の干物だ。マスとかヤマメみたいな川の魚はたまに食べるけど、海の魚は初めて。どんな味なのかなぁ。楽しみでニマニマしてしまう。俺はおかまで米を研いでご飯を炊く係。もう慣れてきたから、手際よく準備を進められた。
日が落ちてきたころには夕飯の準備が整って、四人で囲炉裏を囲んでご飯を食べた。初めて食べたアジは、川の魚に比べて味がぎゅっと濃くてフワフワしていて、すごく美味しくて、アジの半身だけでご飯を二杯も平らげてしまった。夕飯のときも、佐助さんが町の話をいろいろ教えてくれた。
「あのな、町は中山道という東西をつなぐ道沿いにあってな。町中で、南へ向かう伊勢街道と、北の北國街道へ向かう道にもつながってるんだ。だから、各地からやってくる商隊でにぎわってるんだが、商隊と一緒に荒くれものも入ってくるんでな、そういう輩が町中で悪さをしないように、関所をつくったり、警ら隊をつくったりしてな、いろいろ対処してるんだ。」
「へぇ。それじゃ、半兵衛様も大変そうだね。」
「そうだな。最近、隣国から流れてきた喜兵衛さんという人が町に居ついて、半兵衛様の政を手伝ってくれてるんだ。この人がなかなか優れた人でな、商人が町で金を落としてくようにいろいろな施策を考えてくれたんだ。あと、十兵衛さんって人が、町を守る関所を改善して狼藉ものが入ってこられないように守ってくれてるんだ。それで居心地よくなって町に居つく商人も増えたもんで、町の人の数もだんだん増えてきてな、今は四千人くらいはいるんじゃねぇかな。」
四千!?百を十個あつめた数が千で、千が四個集まった数が四千だよね。人の数が四千?想像できない。どれだけ大きい家に住んでるんだろう?
「四千ってすんごくたくさんだよね。たくさん過ぎてもうよくわかんないよ。」
「太郎には、四千は、まだ早かったか。数はいくつまで数えられるんだ?」
「俺は百までなら数えられるよ。百の次が百一で、その次が百二なのもわかるんだけど、数が大きくなると、だんだんこんがらがっちゃってわかんなくなっちゃう。」
「いや、まだ七歳なのにそれだけ数えられるなら十分だ。喜兵衛さんとこの息子の源二郎は同じ七歳だけど、二十まで数えられなかったぞ。」
「ほんと!俺と同じ歳の子供がいるの?会ってみたいなぁ」
町には、同じ歳の子供もいるんだ!四千も人がいたら、同じ歳の子供もたくさんいるのかな?話してみたいなぁ。
「源二郎は人懐こくていいやつだから、会ったら仲良くなれると思うぞ。あと、源二郎には三歳上に源三郎っていう兄がいてな、あいつは真面目で頭が良いいからって、もう半兵衛様や喜兵衛さんの仕事を手伝ってた。」
「お兄さんの方が源三郎で、弟が源二郎なの?」
「喜兵衛さんの家では、長男の名前に関わらず、次男の名前は『源二郎』か『源次郎』にするのが決まりなんだってさ。紛らわしいよな。」
名前の付け方なんて考えたこともなかった。俺の名前は爺さまがつけたのかな?聞いたことないや。俺にもお兄さんか弟がいるのかな?このさい兄弟じゃなくてもいいから他の子供に会ってみたいなぁ。
「ねぇ。町には他にもたくさん子供がいるの?」
「おぅ。たくさんいるぞ。親に捨てられて宿屋の下働きをしていた伊豆の小四郎、五郎って兄弟がいてな。喜兵衛さんが隣国からこっちに移動してくる道中で、二人を気に入って、一緒に連れてきたんだ。いまは町に住んで、喜兵衛さんの息子たちと一緒に手習いを学びながら、たまに使い走りみたいな仕事してる。たしか小四郎が九歳で、五郎は太郎と同じ七歳だったかな。おれが良く話すのはそんなもんだが、他にも商人の子供とか、農民の子供とかうじゃうじゃいるぞ。」
「うじゃうじゃ!俺はまだ爺さまと婆さまと佐助さんにしか会ったことないから人がうじゃうじゃいるっていうのがよくわかんないや。畑に蟻がたくさんいる感じ?」
たくさんの子供が、きれいに列をつくって次から次へとやってくるのを思い浮かべてみた。
「蟻みたいに綺麗に列つくって並んだりしねぇよ。俺が干し柿を持ってるのがばれると、それこそ子供らがうじゃうじゃ集まってくるぜ。」
違ったみたい、蟻が大きな虫の死骸にあつまってる感じか。あれっ、頭の中で佐助さんが死んだ蛾になっちゃった。見たことないからうまく想像できないや。
「いつか町に行ってみたいなぁ。」
たまに町に行く爺さまにいつか連れて行ってもらえたらいいなぁ、と思って爺さまを見ると、爺さまに言われた。
「町に行きたいんだったら、まず山を歩く体力をつけなくちゃならん。それに、町に行っても馬鹿にされないだけの知恵をつけんといかんの。修練を積んで、山を歩けるようになって、割り算まで計算ができるようになったら、今年の秋には町に連れて行ってやろうかの。がんばるんじゃぞ。」
「えっ、今年の秋に!やったぁ!俺、ちょっと算術の練習の続きしてくる!」
俺は、隣の部屋に置いてある爺さまがつくった算術の教本を取りに走った。
「ご隠居様、いくら太郎でも、秋までに割り算は厳しくねぇですか?(俺もまだちゃんとできねぇのに…)」
「まっ、目標は高い方がいいからの…」
「えぇ、それくらいこと太郎なら夏が来る前にやってしまえそうですけどねぇ。」
「……。(この二人に育てられた半兵衛様が完璧超人になった理由がわかった気がする。甲斐姫様の方は、あれだけど…。太郎、がんばれよ…)」
俺は、佐助さんに見てもらいながら大きい数の引き算の練習をして、確かめ算の仕方を教えてもらった。こんなに簡単に間違いがわかるなら早く教えてくれればよかったのに!って言ったら、爺さまは、ほとんど間違えないから確かめ算なんて知らなかったんだって。町にいったら他にもいろんな人からいろんなことを学べるのかなぁ。はやく町に行ってみたいなぁ。
計算の練習が一段落したところで、眠くなってきたので、いつものように錬成術で鉄鉱石をつくってから床に入った。
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太郎が寝た後も、佐助が太郎が錬成してつくった鉄鉱石を手に取って、あきれた表情で眺めていた。
「ご隠居様、太郎の錬成術、この歳でこの量はすごいですね。」
「そうじゃの。最初は太郎のおねしょを直すつもりでやらせただけなんじゃが、太郎はおねしょをするのが相当恥ずかしかったのか、毎晩真面目に神気を使い切るまで錬成してての。それが錬成の量が増えた原因かもしれん。」
「ですけど、これが太郎だけの才能なのか、ちょうど今の太郎が錬成の力が伸びやすい年齢なのか、他の童と比較してみないとわかりませんねぇ。私達もしばらく毎晩神気がなくなるまで錬成をやってみたんですけど、ほとんど錬成できる量は増えませんでしたからねぇ。」
「夜に賊や獣が進入してくるのを警戒する必要があるから、二人とも完全に眠ってしまうわけにもいかんしの。」
年寄り2人の返答に、佐助が思案を深めながら、ずっしりと重い鉄鉱石を床に置いた。
「なるほど、安全が確保できている状況でもなければ、夜に神気を使い切って深く眠ってしまうわけにはいきませんからね。しかし、錬成できる量がここまで増えるのであれば、太郎のこのやり方を捨ておくわけにはいきません。町に戻ったら、童、大人、年寄を数名選んで同じように毎夜、寝る前に神気を使い切るやり方で錬成に取り組ませてみます。」
「そうしてくれるかの。もしこれが太郎だけでなく、他の者にも使える方法なら、他国に漏れるのは危険じゃ。鉄鉱石から鉄がいくらでもとれるようになったら武器もつくり放題じゃからの。」
「ですね。まずは確実に情報の守れる者に限って取り組ませてみます。」
「錬成術が、戦いとは関係ないのであればいくらでも広めてよいですけど、人の世から争いはなくなりませんからねぇ。」
三人は、よだれを垂らしながら穏やかに寝息をたてる太郎を見て気を緩め、再び気を引き締めてから、近隣諸国の情勢ついてさらに話を続けた。
※地球の関ケ原あたりと同じような地形と考えてください。水色は川と池で、緑が濃いところの方が標高が高い土地になります。町には丸い外壁があるわけではなく家が立ち並んでいて、田畑が広がっている地区の大体の場所を表しています。
※この物語では、1尺は30cm、1寸は3cmと考えてください。
鉄鉱石だけでは武器つくれないのでは、と思うかもしれませんが、そこら辺の話も、いずれ出てきます。