願い鈴
昔話にありそうな事に、色づけして書かせて頂いた所存です。
ミライさんは、夢のお告げで聞いた場所へ向かっていた。
昨夜ミライさんがみた夢の中に白い龍が現れ低い声で語りかけた。
『願い事を叶えられる《願い鈴》があれば、私利私欲でない願い事なら叶える事が出来る』……と。
そして白い龍は、こうも云っていた。
『《願い鈴》に願い事を伝えるには、先ず浄化させる事だ。
降り始めの純粋な雨水で《願い鈴》を洗い流し、音色を響かせるのだ』と。
ミライさんは夢に恵まれている性質な為、その夢が『お告げ夢』なのだと本能で感じ取っている。
『《願い鈴》が眠っている場所は梅が咲く小高い丘……
先代の願い主が次の願い主の為に隠してある』
(梅が咲く小高い丘と云ったら、『春風の園』かな。歩いて少しの場所にある)
ミライさんの夢の勘が当たる確率は完全無敵だ。
夢を通して、これまで数々の仮説を当ててきた。
(夢に出てきた白い龍は、これまでにも出てきてくれた。
私が赤ん坊の時から、ずっと現れ続けてくれている)
『春風の園』に到着したミライさんは、梅が咲いている開けた場所をゆっくりした足取りで歩く。
夢の感覚を保ち、現実での感覚を感じながら『願い鈴』を探る。
心のアンテナが何かを感じた。
(あの梅!)
梅の並木の中に一つだけ、少しばかり大きめの蕾が目に留まる。
膨らみ方が何故か気になりミライさんの足は、その蕾を付けている梅の木に近付いていく。
目の前に来ると、その蕾の膨らみがますます気になった。
〈ホー……ホケキョ……!〉
その時離れた場所から鴬が鳴き声をあげ、空気を波立たせた。
「あ……鈴の音色が……!」
〈ポ……ンッ……!〉
鴬が鳴いたからか、ミライさんが声を出したからか分からないが、反応を示したように、梅の蕾が微かに音をたて開いたのだ。
〈チリン……〉
「え……っ⁉」ミライさんの声が、思わず空中に弾けた。
信じられない事だが、開いた梅の中から木の実程の大きさの鈴が出てきたのだ。
(この鈴、もしかしてこれが……『願い鈴』?)
偶然なのか、奇跡なのか、ミライさんが近付いたのを見通して鈴が現れたように思われた。
駆け寄ったミライさんの手が、『願い鈴』と思われるそれを受け止めた。
〈チリン……〉
透明な音色を耳にしたミライさんは、この鈴が間違いなく『願い鈴』なのだと確信した。
(もしかすると先代の願い主さんが鈴を隠した場所から梅が育って、そのまま鈴を飲み込んだのかもね)
それは想像かもしれないが、梅の蕾から鈴が現れたのだから、そんな風に考えるのも良いだろう。
『願い鈴』を見付けたは良いが、必要である純粋な雨水は降りそうにない。
(白い龍が夢でお告げを伝えてくれたんだから、絶対に雨は降るはず……)
ミライさんの眼差しは天へと向いている。
「雨……振って……」
その時、晴れ渡る空から、細かい雨が注いだのだ。
「狐の嫁入り……空が答えてくれた」
ミライさんの手が空へ伸びて、『願い鈴』を洗い流していく。
雨に注がれながらも、ミライさんは不思議と心地の良さを感じていた。
『狐の嫁入り』の雨水で浄化させた『願い鈴』を、ミライさんは小さく振って音色を響かせた。
〈チリイイイイ……ン……〉
雨水に注がれたせいか、『願い鈴』の音色は先程より一際美しいものとなっていた。
音色から私利私欲ではない願い事なら、叶えられるような気がしてくる。
心に想っている願い事を、ミライさんは呟いた。
「この世を生きる全ての命が長く廻り続け、また予期せぬことで失った魂が迷うことなく行くべき場所へと行けますように……」
願いながらミライさんは、『魂』について考えを過らせる。
その考えに紛れ、遠く近くで囁きが通り抜けた。
『無欲なその願い……確かに聞き届けたり……』
(ありがとう……ございます……神様)
梅の香り、風の感触、鈴の音色、夢の声……万物に宿るあらゆる物を感じながら、ミライさんは暫くの間その場に佇んでいた。
『梅の花』と合いそうな『鈴』『丘』等を並べて、一つに致しました。
どうか御言葉をお願い致します。