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「ほれ、今からドローンで24時間配信して自分の命を守れ!」
師匠は僕のアイテムバッグをひったくると自動撮影機能付きのドローンをさっさと電源を入れ配信モードにした。
「はい!自己紹介!」
「ううう…、初めまして!冒険者初心者のクローブです!今から、冒険者育英施設に入門します。24時間配信するのでよろしくお願いします!」
師匠は、僕の自己紹介を聞くとどこかに転移して、居なくなった。……不良になってもいいですか?
神殿みたいな建物から修道服をまとった日本人が走り出てきて、真っ直ぐ僕に向かって来た。
「君、師匠は!?」
「逃げました」
「あぁああああ?!また、厄介ごとの予感しかしない!……おいで、ようこそ素行問題者強制収容所へ。私はデートと言います。君は?」
「クローブです!11才です!…ところでここは、冒険者育英施設では?」
「中に入ってから話そうか」
僕の背中に添えられた手の平は、小柄な大人に見合わない力強さだった。
中に入ると寒くて震えた。
回廊が続き、すれ違う人皆、黒いワンピースのような長い裾の上着と同じく黒いズボンを履いていた。
まず、倉庫っぽい部屋に連れて行かれ、素行問題者強制収容所の制服に着替えさせられる。ネックストラップに下げた冒険者証は取られなかったが、アイテムバッグも黒檀の杖も没収された。
いいのかなあ?それ、八岐大蛇入りです。
「ドローンはいいのですか?」
「推奨しています。問題はありません」
「ありがとうございます?」
「いえいえ、素行問題者強制収容所の良い宣伝になりますから、どうぞどこでも映すといい」
デートさんは、楽しげにそう言い切った。
その日は山盛りサラダに硬いプチパンが2つに、ホットミルクがマグカップ1杯という健康な(?)メニューだった。
久しぶりに歯が欠けそうな硬いパンを食べた。
寝るのは大部屋で雑魚寝。ベッド?無い無い!薄い絨毯の上で寝袋で寝る。悪臭がしたからクリーンで清潔にして寝袋を被って寝た。
僕は子供時代のように早起きして厨房に行き、野菜や肉、ミルクや小麦粉などの在庫を調べて肉がほとんど無いというお肉の美味しさに目覚めた僕の心を折る出来事があった。 骨付き肉(肉はうっすらとしかない)をようやくゴミ箱から見つけ、良く洗い腐った肉は棄てて、骨を水で煮てスープをとり、骨を捨て、ざく切りちりめんキャベツといちょう切りにした人参、大人の一口サイズのジャガイモを入れて煮る。別の鍋にバターで小麦粉を炒めミルクを混ぜてトロミを出し塩コショウで味付けしてベシャメルソースを作る。
ジャガイモが煮えたら、ベシャメルソースとミルクを混ぜて肉無しホワイトシチューの出来上がり。
煮込んでる間に食パンのタネを仕込んで魔法で温めて発酵させたので、包丁で切り分け丸めて、湿った布を掛けて生地を休ませる。
10分程経ったら成形して食パンの型に入れる。魔法で温めて2次発酵させて業務用オーブンに入れて焼く。
「型が旧すぎて操作がわからない!」
こういう時は視聴者さんだ!
ドローンを掴み、コメント欄の確認をする。
コメントが流れてない。誰も見てなかった!
《何やってんだ?朝メシ作ってくれたのか!なんだ?これ、焼くのか?》
英語だ!金髪に茶色の目の頬にソバカスを散らした愛嬌たっぷりの背の高い外国人青年がいた。
《はい、210℃で20分焼きたいんです!使い方わかりますか?》
《OK!任せろ!》
ツマミを合わせて、テンキーを押すだけだった。知ってしまうと呆気ない。
《俺、ジルバ!よろしくな!》
《クローブです。よろしくお願いします》
《じゃ、サラダ作るぜ!…野菜どうした?》
《シチューに入れました。お味見しますか?》
《先に食おうぜ!俺、給仕しないといけないから、手伝ってくれ》
《わかりました》
カフェオレボウルの縁ギリギリに入れて《美味しい美味しい!》と夢中で食べるジルバを見て、作って良かったと心から思った。
シチューを食べた後、焼き立ての食パンも食べた。……我ながら美味しく出来ていた。
知らなかったが日本の食パンは美味しいらしい。耳までフンワリと柔らかくほんのり甘い。日本人はそれが当たり前なので気がつかなかった。……僕は異世界人だから余計に、だ。
《掃除に行くぞ!付いてきてクローブ》
「今から掃除です!頑張ります!」
自動撮影機能付きドローンに挨拶してジルバさんについて行く。
井戸水を汲み上げ木のバケツに入れて食堂の掃除をする。古いモップで床を拭き、雑巾でテーブルと椅子を拭く。僕は雑巾がけを任された。
ちなみに魔法を使っちゃいけないみたい。
ジルバさんと交代で井戸水を汲む。
井戸から比較的近いので、運んでも楽だ。
《よお!小さいのにえらいな。俺が運んでやるよ》
悪意を感じるニヤニヤ笑いで言われても、ね。ジルバさんがモップを持って走ってくる。
《おはよう!クレイジーチキン。また、新人イジメか?!コリねぇな!お前も?言っとくけど配信中だから、言動には気をつけろよ!》
《チッ、おい、お前。ダンジョンから肉取って来い!》
へぇ、ここダンジョン近いんだ。
《クレイジーチキン?!言っていい冗談と悪い冗談がある!そんなに喰いたけりゃ自分が行けよ!》
《どうせ、2~3日したら、肉の調達に行かされるさ。新人、いいから行って来い!》
《…わかりました、今から行って来ます》
《クローブ!!》
《ハハハ!お前、聞き分けいいな!一緒に行ってやるよ》
《チッ、仕方ねえ!俺も行く!》
《お前も行くなら、じゃあ俺は止める。頑張れよ!ジルバ》
《テメェ?!嵌めやがったな!!畜生!!》
ジルバさんはモップの柄を握りつぶした。
さ、さすが冒険者!握力からして違う。
《クローブ!!お前、聖属性の魔法使えるか?!》
《聖域も使えます!》
僕は性別不詳になったせいでお母さんが聖女だったときに使えた魔法を継承出来たのだ。
全属性なのは、僕の元々の適性なのだ。
それを聞いたこの施設の偉い人の部屋に連れて行かれて僕は初依頼を冒険者として受けることになった。
遅くなりました!申し訳ありません(>_<)ゞ