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とりあえず150万円のヘルメットとミドルポーション10本1千万円を購入。
「伊蔵さん!大変です!45階層の主が出迎えに、出てきたんです!」
「今行く!問題無い」
喜多さんと伊蔵じいちゃんの視線が痛い。
それを聞いた師匠のお弟子さんその6からも値踏みするような視線を送られ、僕は伊蔵じいちゃんの影に隠れた。
「ふ~ん。師匠の弟子なだけあるじゃないか」
握手されてそのまま、ダンジョン入り口まで連行される。
堀さんという40才くらいの普通に見える日本人の男性は呼び島勤務19年のベテランらしい。
「本職のテイマーがダンジョンに近づくと下層にいる強い魔物がダンジョン入り口でテイムされるのを待ってる時があるんだけど、さすがに45階層の主とか、ドン引きするわ!サッサとテイムして帰れ!」
メッチャ笑顔で言われた。
ダンジョン入り口に到着したら、帯電してる黒い大蛇がいた。
僕と目が合うと僕を自分の体でまきまきして、長くて細い舌で一生懸命僕の顔を舐める。
「……君じゃない、気がする」
そう言ったのに45階層の巣穴まで引きずって行かれた。
伊蔵じいちゃんと喜多さんが、身体強化して僕達の後を爆走して追い掛けて来てたけど、42階層で魔物達の足止めを喰らい離れてしまった。
「おじいちゃん達に何かあったら、……わかってるよね?」
人骨でいっぱいの巣穴でどうやってコイツを料理してやろうかと考えてたら、大蛇なんて目じゃないくらいの巨大な赤い鬼の肩に乗った伊蔵じいちゃん達が来た。
「孫を返せぇええ!」
赤い鬼にぶっ飛ばされる黒い大蛇。僕?転移して逃げたよ。
触れてたら一緒に転移するから、今まで使えなかったの。
鬼の肩から飛び降りて来た喜多さんにいきなりビンタされた。
「断るときは、ハッキリしろよ!攫われるなんて前代未聞の大事件だぞ?!」
あ、僕のせいで危険なダンジョンになっちゃう?
「ごめ、ん、なさい」
ちょっと面白がってたかもしれない。
心配してた2人に申し訳なくて僕は泣いた。腫れた頬は喜多さんのパートナー、ユニコーンの癒慰に癒してもらえた。
それから下層へと伊蔵じいちゃんの鬼に乗って移動した。
「ここから下層で攫われたら、5秒あれば食われるからな。安全第一で進もう」
伊蔵じいちゃんの鬼に立ち向かう魔物は52層まではいなかった。
52層の主だったのだという赤鬼には息吹という力強い名前が付いていた。
「魔物退治は出来るか?」
「したこと無いから、わかりません」
「ここら辺にいる奴らは力を示さないとテイム出来ないから、倒すつもりで攻撃してみろ」
喜多さんに言われたので攻撃してみた。
「アイスアロー」
簡単に死んじゃった。
「弱い魔物だったんだ」
伊蔵じいちゃんと喜多さんを見たら、口を開けて目を見開いている。
僕が最大規模魔法放った時に見た師匠の顔そっくりだ。
「じゃ、次の魔物行ってみよう!」
56層まで降りて来たけど歯ごたえのある魔物はいない。
56層の一番奥にいた魔物は攻撃したことを謝れる良い子だったからテイムした。
転移陣からダンジョン入り口の転移陣に伊蔵じいちゃんと喜多さんを連れて帰ると2人はダッシュで冒険者ギルドに入って行った。
僕がポカンとしてると堀さんが青い顔して冒険者ギルドから飛び出して来た。
そして僕を抱えると冒険者ギルドにまた飛び込んだ。
冒険者ギルドの中はし~~~んとしていて、息を吐くのでさえはばかる雰囲気だった。
僕を事務所の奥の部屋に問答無用で放り込むと何故か師匠がいた。
「師匠!蛇とかしかいないの?このダンジョン」
「蛇じゃねぇ!あれは龍って言うんだ!っつうか、小僧。聖属性の物を選べって言っただろうが!このバカタレ!!」
いるにはいたが…
「だって怖がって出て来ないのをどうやってお友達になるの!」
「だからって八岐大蛇をテイムするな!!暴れていうこと聞かなくなったらどうすんだ?!」
「ちゃんと謝るのが出来る優しい魔物だよ!」
「はぁあああ~??」
師匠は唸って、伊蔵じいちゃんと喜多さんを見た。
ちなみに伊蔵じいちゃんはずっとすすり泣いてるし、喜多さんに至ってはゴミ箱を抱えてずっと吐いてる。
「で?何やったらベテランの冒険者がずっと異常状態になるんだ!?説明せい!」
師匠は僕を睨んだ。
僕にも言い分がある。
「師匠が、気が合わない友達との付き合い方を教えてくれたんじゃないですか!まず、威圧して、たこ殴りしてマウント取ってどっちが上か教えてやれって!」
「それは不良冒険者との付き合い方だ!誰がパートナーにそんなのしろって言ったよ!!」
僕と師匠は頭突き出来る距離でにらみ合う。
「一生付き合うんだぞ?!八岐大蛇なんかテイムしてどうすんだよ!!」
「そうですよね、どうしましょう?」
「……わかってくれたか?!」
「こんな弱い魔物、テイムしても使い途ないですよねぇ」
師匠のこめかみに血管が浮き出た。
「だから、違うんだよ!!!気にする所が!!そんなにイヤなら戻して来い!!」
「あ、それ駄目です!ダンジョンに戻したら八つ当たりするって言ってます」
「「「「どうすんだよ!!それ!」」」」
いい大人4人が地団駄を踏む。
「仕方ないから愛してあげます。フフフ」
「バカタレが……。杖を貸せ。補強する。しないよりマシだ。名前は漢和辞典引いて、よく考えてつけろ」
伊蔵じいちゃんはパソコンを引っ張り出して黒檀の杖(特注)を検索してるし、堀さんは喜多さんとお話中。
何階層で何が幾つテイム出来たか世界冒険者機構に毎日報告しないといけないようで、頭を悩ませているみたいだ。
しかも、56階層の主がテイムされたのは21年の歴史の中で2回目で、1回目の師匠の時は24時間の監視をしない代わりに世界冒険者機構の顧問になっている。
……ということは?
「僕、24時間監視が付くんですか!?」
うわぁ~。王子時代みたいな事になるのかな?嫌すぎる!
「顧問になるのは、テイムしたのが災害指定魔物だから、監視は絶対付く!まあ、俺らの気合い次第になるけどな」
まだ、吐き気が治まらない喜多さんは、何か言おうとして吐いた。
仕方ないからキュアを使ってあげた後、念の為ヒールを掛けたら、やっと生き返った。
堀さん、喜多さんは、ギルドマスターの部屋に入って行き5時間出て来なかった。
その間、杖を補強している師匠にどうやって八岐大蛇をテイムしたかお話し。キューブレコーダーで録音された。
「【美味そうな子供が来た。暇つぶしに喰ってやろう】って言われたから、ああ、この魔物も人の命を何とも思わないんだ、って思ったら、なぶり殺しに合ったの思い出して、つい八つ当たりしました」
「なるほど、魔法はどんなのを使ったんだ?」
「最初はウインドカッターで首全部飛ばしたら、呆気なく死にそうになったから、八つ当たりがこれくらいで済むと思うなよの意味を込めて、パーフェクトヒールで治してはいろんな倒し方を試してたら、100回超えた頃かなあ?魔力が半分近く減ったので倒そうと思って攻撃しようとしたら、チャージに時間のかかる技だったから、【もう、暴れません。人間食べたりしないと誓いますから、どうか許して下さい。貴方の忠実な僕になりますから、これまでの無礼をどうかお許し下さい】って謝ったから、何だ!いい子じゃない、って思ってテイムしたのです」
師匠は僕をじろりと睨んだ。
「毒の血と毒のブレスはどうやって防いだ?」
「結界張ってたけど、毒の血が足元に流れてきたから、面倒くさいけど血が流れそうな傷だったら、傷口を凍らせたり、高温で一気にあぶったりしてました。凍らせる方が花が咲くみたいで綺麗だったから、途中からは凍らせてました」
「……ブレスは?!」
「そんな攻撃あったかな?……なかったよね!でも毒の対策としてエリアハイヒールとホーリーエリアの常時発動をしてたんで、あっという間に魔力無くなっちゃって驚きました」
「……100回以上もパーフェクトヒールかけていたぶれたら、上等だ。あぁ、いい酒飲みたい」
「現実逃避したらいけませんよ?」
「誰がさせてんだよ!!お前の初任給で俺は飲む!」
「ええ?迷惑です!」
「うっせぇ!迷惑かけられてんのは俺らだ!俺に出来るなら魔法でお仕置きしたいくらいだ!!」
キューブレコーダーの電源を落とした師匠は無言で僕にげんこつした。