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呼び島ダンジョン探索の朝はちゃんと起きられた。

 ロビーに出ると師匠の弟子達が出勤の為に集まっている。

 エミリエさんは綺麗に長い髪をまとめて冒険者御用達のシャツとズボン、革の胸当てを身につけている軽装だ。

皆さん、素材は違えど動きやすい格好だった。

 ただ、光さんは見映え重視の探索ウェアだった。さすがチャラ男。

喜多さんは、水を飲みながらバスに乗り込む。今日もドライバーみたいだ。

 僕は伊蔵じいちゃんと最前列に並んで座る。

「おじいちゃんは、胸当ていいの?」

伊蔵じいちゃんはニッコリ笑って自分の防刃シャツの袖口をチラッとまくって見せた。

 そこには、良く磨かれたオニキス(?)のはまったシルバーのバングルがあった。

 ひょっとして封魔具?

「私のパートナーは頼もしいぞ?」

「ダンジョンの中に入ったら出すのですか?」

「下層になったらな。それまでは、ナイフ1本で十分だ」

腰の大ぶりなナイフを叩いて見せた伊蔵じいちゃんこそ頼もしく思った。

 ちなみに僕は防刃シャツとズボンと黒檀で作った短い杖だ。

 杖は師匠のお古だ。剣を持とうとしたら、装備するのは止めろと師匠に怒られた。

 師匠は冒険者の資質が判る「鑑定」が使えるので、弟子にはアドバイスしている。

 黒檀の杖も新しく作った方がいいと言われたが、黒檀がめちゃくちゃ高い!!

ネットで検索した結果、しばらく師匠のお古でいい!と涙目で思った。

 そう言えば封魔具はどうするんだろう?

「伊蔵じいちゃん、皆、封魔具はどうしてるの?」

「パートナーに合った封魔具が出来るまで武器に封ずる。だから黒檀なんだろう?」

杖をつつかれて、そうなのかと納得した。

 師匠のフェニックスを仮封印するのなら、このお高い杖がお似合いだろう。

何でも封印出来ちゃいそう!

30分くらい走ってバスが港の駐車場に停車した。

ドアが開きエミリエさんが1番先に出て誰かを待っている。

 僕らは1番後に降りた。

エミリエさんは僕の左側に来ると腰に差していた黒檀の杖をサッと取って、歩きながら杖を舐めるように見ている。

「封印出来て1週間ってとこね。ここに傷があるから、もろい。攻撃には使わない方がいいわ。じゃ、お先に!」

ほんの引っかき傷が駄目なんだ?

「じいちゃん、新しい杖に変えた方がいい?」

「黒檀の杖なんか、ダンジョンの売店には置いて無いから、大人しくそれを使ってテイムしなさい」

「はい」

ダンジョンの入り口には3階建てのビルが建っていて1階のセルフサービスの食堂で朝食を食べる。

 僕は大好きなワカメうどんにした。伊蔵じいちゃんは朝定食。

 自分で給仕するのが、新鮮で伊蔵じいちゃんのやるのを真似してトレーを取って配膳台に載せて列に並ぶ。

 リハビリセンターは作業用ロボットが持って来たので何かいつまで経ってもなじめ無かったが、ここはコックさん達が出来たて料理を並べてくれる。

「おはよう!最高のパートナーが見つかりますように!」

「ありがとうございます!」

ただ、ワカメうどんのスープに親指が浸かってたけど熱くなかったのかな?

伊蔵じいちゃんが笑ってた。

 席に着いて食べたワカメうどんは熱々であのコックさんスゴいな!と思ったら、早食いなのか、また咽せてるエミリエさんにテーブルに置いてたカラフの水をグラスに入れてそっと差し出すのだった。


 伊蔵じいちゃんもご飯を食べたので、物販コーナーでヘルメットを見ていた。

 伊蔵じいちゃんがイヤに真剣な目で子供用のフルフェイスのヘルメットを品定めしてたので、確かに頭は何か当たったらまずいよね。僕も見る事にしたら、伊蔵じいちゃんがハッとした顔で僕の冒険者証をかっ攫って行った。

 僕は隙があり過ぎる。エミリエさんは杖、伊蔵じいちゃんは冒険者証。僕から簡単に取って行く。……うん、2人は凄い冒険者。仕方ない!

 伊蔵じいちゃんが向かった先にはATMコーナーがある。

 あ、僕、師匠からのお小遣いしかないや。

師匠がもしもの時の為に1ヵ月分の生活費を入れておくけど、足りなかったら、家族に言えって言ってたんだった!

 お金が無い和重さんには言えないから、ちびちび使う予定だった。

ヘルメット、一番安い奴で20万円する。

でも、これは、バイクのフルフェイスのヘルメットと変わらないデザインでダンジョンの中では活動しづらい。

 悩んでいると喜多さんが来た。

「それよりこっちが良い」

自転車のヘルメットにそっくりで目を覆うカバーが出し入れ可能になってる物だ。

しかし、お値段が良すぎる!150万円とぶっ飛んでいる。びびる僕にしれっと重大な告白をした。

「伊蔵さんが言いづらいみたいだから、俺が言うけど、頭の皮膚から髪の毛、右眼は人工物だから、庇わなきゃいけない」

 何ですと?!…髪の毛伸びない訳だよ!右眼は火傷でほとんど見えなかったから感謝してる。ただ…折角綺麗って言われた髪と目は自分の実力では無かったらしい。

 それがちょっと残念。

「わかりました!教えてくださってありがとうございます!」

「だから、これを買え!」

「こっちの20万円のでいいです」

 伊蔵じいちゃん、遅いなぁ。

「お金の心配はするな。伊蔵さんがお小遣いをくれるから、これくらい余裕だ」

「…でも」

なんとなくそれはいけない気がするのだ。

「おおっ!喜多くんすまないな!村雨様が三葉に3億もくれてたから、返金の手続きに手間取っておった!」

 クラッと目眩がした。

「何で1カ月のお小遣いが3億なの?!師匠バカじゃない!!」

思わず吠えた。

「「さすがに1カ月で3億はない!1億だろう?」」

「皆、おバカだぁあああああ!!」

そこに販売店の店員の青年が交じる。

「そうでもないですよ?ハイポーション1本で1千万円しますから、皆さん3本は買って行きますよ?(ただし、大人だけだがね)」

ポンと手のひらサイズのよく知ってる色の液体の入った瓶を渡され、真っ青になる。

 たった250ccで1千万円?じゃあ、僕の浸かってたハイポーション代は一体いくら??

「ああ、病院代は私達夫婦からの投資じゃ。長生きするから、ジジババ孝行してくれればいい」

「え!和重おじさんが出したんじゃなかったの?」

「アイツが宵越しの金を持つか!仕事が真面目じゃなかったら、とっくに籍を抜いておるわ!」

「…多分、親切にしてくれたのは、自分の研究の成果として、だからあの人に夢を求めない方が良い」

 他人にそこまで言われる和重おじさんって?

 ダメ押しの一言を販売店の店員がぼやく。

「ここに借金の取り立て屋が来ましたもんね。アレで和重様は世界的に有名なドラ息子になりましたものね」

「あの時は、すまなかったな。三田くん」

 僕の中の和重おじさんがどんどんダメ男になって行く。

そして伊蔵じいちゃんのダメ押し。

「いいか?研究所の外で声をかけられたら、お金の無心だから、こっちから声をかけるな」

「……」

あの感動と感謝を返して下さい。

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