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僕は気が付けばお湯が入った大きな瓶の中にたゆたっていた。

 裸で恥ずかしい。だって、瓶の向こう側から何人ものお母さんと同じ黒目黒髪の大人達が見てる。

 僕はそっと自分の男の子を手で隠した。

「*********!!」

「*******!!」

大人達が喜んでいる。サッパリ言葉が判らないが、その中の1人が僕の入った瓶を抱き締めた。泣いている。

「よしの、********」

由乃よしのはお母さんの名前だ!泣いている男の人を良く観察してみる。

 ゴードンと比べて凹凸が無い顔。でも、お母さんにスッと通った鼻とアーモンドみたいな目の形が良く似てる。

「和重?」そう言ったつもりが泡になって消えた。

「*************!」

大人達が大きな声で瓶を抱き締めた男の人の肩を叩く。

男の人はますます泣いて瓶を抱き締める。

ふと、隣にも僕の入ったくらいの瓶があるのに気がついた。

そこには、小さすぎる赤ん坊が入っていた。

一体ここはどんな場所何だろう?

あ、そう言えば体が痛くない?

……治してくれた?顔の火傷が無い?!

どうして?!

この泣いてる人が和重かずしならここはお母さんが産まれた世界?

『お母さんに会いたい』

話しかけたら和重が僕の入ってる瓶に白い板と細くて長い棒を入れる。

和重が瓶の外で白い板に細くて長い棒で字を書く。


こんにちは。わたしはよしののあにのかずしです。


僕の予想が当たっていた!

僕は白い板に急いで書く。

【お母さんはどこにいますか?和重】

和重は質問を質問で返して来た。

【何故?亡くなったんじゃなかったの?】

どういうこと?!

【お母さんは僕が1才になる前に「日本」に送り帰されてる】

僕と和重はしばらく白い板を使って会話した。

それによれば、約5年前に異世界転移の魔法が使えるようになり、日本から僕の産まれた世界に使節団が派遣されて、僕を生んだ時にお母さんは死んだと説明された事。

日本からの異世界召喚を止めさせた事。

異世界召喚しても還らせるのが出来なかった事などを聞いて僕の事を渡すように言ったけど、ライル父さんが応じなかったらしい。

 1度だけ、僕がどんな暮らしをしているのか、今の暮らしに不自由してないか、聞くつもりで僕の所に行けば僕が死にそうになっている。

 そこで和重は誰にも気付かれないように僕を日本に連れ帰り何十ヶ所もの手術をして祈るような想いで、最新技術の医療ポッドに入れたらしい。

中に入れてある温かい水はハイポーションで、完全に治らないとポッドが開かないようになってるようだ。


翌日からポッドの中に日本語が放送されるようになった。

あいうえお順でいろいろな映像を目の前の大きなスクリーンに映し出す。

アサガオは花。金魚は魚。フキは食べ物。楽しい!

僕が料理が得意だと解ると全部映像が食材になった。日本語は発音が難しいけど僕は和重おじさんと早く話したくて真面目に勉強した。

元々、僕は話すと火傷が引きつって話しづらかったのであまり話さなかったから、新しい言葉を覚えるのは、本当に楽しかった。

日本語独自のオノマトペも使い方が解るとお母さんが日記に書いていた意味が深く理解出来るようになった。


そして2週間が経ち、ようやく僕は医療ポッドから出られた。

僕が医療ポッドに入ってたのは半年間。自分で上手く立てないのでまずはリハビリから始めると言われた。

 僕は日本で初めてのハイポーション培養液の実験体としてありとあらゆる試験を課せられた。

一研究員の和重おじさんのお給料では、ここまでの医療は受けられないから、甘んじて検査を受けてくれと頼まれて、まぁ、良いかと被検体になりました。

 日本語の教育と並行して様々なデータを取られる。

その中でも理解力、行動力、生活能力、運動神経に長けているのを褒められた。

 運動神経かあ…。よかったら矢を射かけられてハリネズミになることもなかったのにな。

まあ、9人が狙ってたからかもしれないけれど。

 リハビリセンターから出られたのは、1年後の寒い雪の降る日だった。

 日本語の他に、数学、理科、歴史、国語、英語を高卒レベルまで叩き込まれ、剣と魔法も厳しい修行を積んだ。

 寝る時間以外、全て勉強と修行、リハビリ、各種検査などに費やされた。

 個人情報などの流出は無いと言われてホッとした。

 リハビリセンターの入り口にはお世話になった先生達や、看護師さん達が見送りに出て来てくれた。

 嬉しい時に贈るプレゼントや花束を僕が持って行けるように家一軒分が入るアイテムバッグもプレゼントしてくれた。

 多分、師匠が作った物だろう。

 師匠は剣聖で大賢者というすごい人なのだが、僕の世界とは違う異世界に勇者召喚されて、魔王を倒した時に不老不死の呪いと異世界を渡る魔法を手に入れた寂しがり屋さんだ。

 地球上で勇者召喚の転移陣が作動すると、追いかけて行って被害者を連れ戻す役目を自分に課している。

 もちろん僕を保護してくれたのも師匠だ。

日本という国はさかのぼる事、21年前に初めて富士の樹海にダンジョンが確認され、オークなどの2足歩行型魔物がスタンピードを起こした樹海の変は、歴史の教科書にも載っている現代史でも、大きな事件だ。

 師匠が異世界から帰って来たのがちょうどこの事件中で、自衛隊が手こずってた魔物の行進を大魔法1発で全て終わらせたという。

樹海は半分焦土と化した。

 その時の報酬で世界各国に大きな別荘が建てられるくらいお金持ちになったらしい。

 まあ、それは置いといて、世界各国政府がダンジョンがウチにも出来たと発表して、第1回世界平和協議会が開かれ、冒険者の育成する学校が各国に出来、師匠はその草案作成に半年間寝られなかったとぼやいていた。

 ダンジョンから大気中にマナと呼ばれるようになった魔素が広がってそれを体に取り込んだ人間達が魔法やスキルに目覚めて野良冒険者になるバカ野郎達が真っ先に死んで行った。

 この事案から冒険者は冒険者学校を卒業しないとなれない国家資格になった。

 特例措置として師匠の弟子は修行から半年で冒険者国家資格を取得し、それから5年間、瀬戸内海にある無人島、通称「呼び島」で、ダンジョン内警戒に当たることが義務付けられているらしい。

 そんな大事を昨日言われても、ね?ちょっと怒ってるんだよね、僕。

 和重おじさんとは話せたけど、僕が師匠に修行させてもらったのは、内緒だったらしくて和重おじさんが倒れそうな顔色をしていた。

「由乃の事は任せてくれ!呼び島での任務、気をつけて、な?」

「和重おじさん、ありがとう!頑張って来るね!」

「良いパートナーが三葉みつばにも見つかると良いな?」

「まだ、11才の僕がお嫁さんは早いよ!」

「いやいや、聞いてないのかな?」

何?!婚約者でもいるの?!

和重おじさんは苦笑して僕の頭を撫でた。

「まあ、呼び島に行けば判る。運命をつかんでおいで」

ハッキリ言おうよ!どういうこと!!

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