1-1
目覚めは母なる小さな海。温かな水が僕を包む。急にその水が無くなり頭を体を締め付ける産道。
これも2回目ともなると、慣れた物だ。
溢れる光と医師達が行き来する忙しない声。
「産まれたぞ!でも、泣かない!逆さにして叩け!」
「坊や……お願い、今度は生きて……」
わかってる。お母さん。今度こそ僕は大人になって見せる!
僕は大きく呼吸した。
「あんぎゃ~!!あんぎゃ~!」
「11王子のご誕生だ!」
「ライル陛下にご報告だ!」
産湯に浸かって汚れを取るとまだアウアウ泣いてる僕をお母さんが大切に抱き抱える。
「あぁ、私の坊や。帰って来たのね。今度こそ守って見せます」
お母さんは、そう言うと僕をお母さんのすぐ側に寝かせた。
片手に僕を包み込むように眠った。
僕にお母さんがわかるように、お母さんには僕がわかる。
お母さんは元聖女で異世界召喚された日本人。ライル父さんと幸せな結婚生活を送っていたけど、それ程力が無い中程度の国だから、大きな国や、農業国などから正妃や側妃を娶らなければならなかった。
だから、第1王子の僕を生んだお母さんは、ありとあらゆる嫌がらせを受けた。
そしてまだ、2才にならなかった前世の僕は庭の噴水で溺死して発見された。
お母さんは毎日、神様に祈った。
もう1度私の坊やに会いたいと。
まるで修道院のような清貧な生活を続けて13年。第11王子の僕を生んだ。
他の王子、王女とは、7才も年が離れている上にもう王位継承権は無いので、そんなに用心しなくてもいいと、僕は思っていた。
甘かったと、思い知ったのは、生まれて1ヵ月した頃だった。
乳母のメイアが、僕を殺そうと沸騰させたお湯に浸けた。
護衛騎士のリサが気付いて、すぐに止めさせたが僕の右側の顔と体には酷い火傷の跡が残った。
僕を治してくれた治療士は正妃から賄賂を受け取っていてわざと顔に火傷を残したのだ。
それからというものお母さんは、僕を守る為にほとんど寝なくなって病に倒れた。
心が壊れてしまい、僕が1才になる前に元の世界に戻された。
体の良い厄介払いだった。
僕はサンセイル地方にある王族の避暑地の別荘に移されて、護衛騎士のリサに見守られながら、平民の側妃の王子とは名ばかりの生活をした。
貧しくはなかったが、下働きの少女達と一緒に早朝に起き、井戸の水汲みから一日が始まり、朝日が上がる前に洗濯。
干すのはリサがやってくれたから、朝ごはんの支度をして食べる。マナーは、執事のゴードンが教えてくれた。
食事の出来が悪いのは、全部僕のせいにされるから、必死に日本語を勉強してお母さんが残してくれた日記に書いてある美味しそうなレシピを少しづつ物にした。
誰よりも早く起きて誰にも文句が言えない朝食を作り、水汲み→洗濯が完璧に出来るようになったら、お昼はリサに剣と魔法を習う事になったが、夏の避暑の間は、下働きの子達と同じスケジュールで他の王子、王女達に仕えた。
顔半分に火傷がある僕はいいイジメの的にされ酷い目にあった。
それを見て優雅にさえずる正妃や側妃達を見てこれが、心が貧しい人達なんだと、思わず感心してしまった。
お母さんの日記には日本のお母さんの実家に帰ったら「科学」の力とやらで異世界転移をお母さんのお兄さんが必ず成功させてくれるはずだと、そして僕の顔に残った火傷の跡を治してくれるという希望が綴ってあった。
「おかおがなおるより、おかあさんとあいたい」
口にすると泣きたくなる。短い睡眠時間を泣いて過ごして、寝ないまま厨房に立つ。
王族が避暑に来ると普段の数倍忙しくなる。
僕は厨房に一日中居ないといけないのに、昼ごはんが終わったら中庭に大人達に引きずって行かれる。
今日は、第2王子の弓矢の的だ。いつもとイジメのグレードが違うので僕は暴れて大人達の手から何とか逃げ出そうとしたが、余計に面白がる大人達。
僕は王子達からハリネズミになるまで、矢を射かけられて必死に逃げて頭と心臓を庇うので精一杯で、まさか、トドメまで刺されるとは予想してなかった。
剣で9人の王子に滅多突きにされた僕は血まみれになって、目の前が真っ暗になった。