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第三話 長蛇の列

●3.長蛇の列

 「合島君、どっちのレジが早いかな」

冴場は、レジの長蛇の列を眺めていた。

「どうでしょう。人のいる方もセルフの方も、同じぐらい混んでますけど」

「合島君、並んでいてくれ、俺は車でセキュリティー・ソフトの営業先をピックアップしておく」

「所長、それはないでしょう。あたしが車で待ちますよ」

「あぁ、待てよ。まさかと思うが…」

冴場はレジの店員がカードを何回も抜き差ししている様子に視線が行っていた。

「もしかしてデジタル妖怪ですか」

「これほどまで決済に手間取るとは、ペイシーフの可能性がある。買い出しは中止して、スーパーの事務所に行ってみよう」

冴場が列から離れると、合島もカゴを持ったまま、後に続いた。すぐ後ろに並んでいた老婦人が感謝しながら、一人分前に進んでいた。


 「レジの人手が足りないので、応援に来てくれないか。そうか…わかった」

店長はスマホの通話をオフにすると、呼び出し中の固定電話の受話器を耳に当てた。

「店長の田中だけど、至急応援に来てくれないか」

田中は自動応答の留守電に呼びかけていた。

 田中は事務所に冴場たちが入って来たので、面倒臭そうなを顔をしていた。

「店長さんですか、我々はサイバーセキュリティー会社の者ですが、御社のレジシステムに不具合があるようです」

冴場は名刺を渡していた。

「不具合、あぁ、そうですか。でも経費節減でセキュリティー・ソフトは新規に導入するつもりはありません」

「別に売り込みではないのですが、現状を解決できると思いまして、あぁ今回はお代は頂戴しません」

冴場は、レジ周りの監視カメラの映像が映るモニターを見ていた。

「タダ、タダほど、怖いものはないですけど…」

「店のコンピューター端末はあれですか。早く手を打った方がお店のためになりますけど」

冴場はキーボードが置いてあるデスクに向かいかけた。

「バイトの手配も緊急では無理だと思いますよ」

合島が珍しく口添えをしていた。

「怪しいと思ったら、今すぐにでも警察を呼んでください。我々は逃げも隠れもしません。えぇとまずこれを…」

冴場は立ったままキーボードを操作し始めた。

「あぁ、わかりました。現状が解決できるんですね」

田中はそう言いつつ、スマホでどこかに電話していた。


 冴場は素早くキーボード叩き、マウスを目まぐるしく動かしていた。数秒後、モニターに人型のデジタルパターンがちらりと見えた。

 「捉えたぞ。これは間違いないペイシーフの仕業だ」

「所長、それではシーケンス…。車にあるノートパソコンを取ってきますね」

「急いでくれ、合島君が戻ってくるまで、俺が捕まえておく」

冴場の言葉に田中はわけがわからないという顔をしていた。

「あのぉ、ペイシーフというのは新たなウィルスですか」

田中は小声で聞いてきた。

「いや、デジタル妖怪です。ペイシーフは正規の決済を妨害し、トランザクションを不正に操作します。例えば、

支払いが完了したと見せかけて実際には失敗させることで、ユーザーを困惑させるのです」

冴場が説明すると田中はポカンとしていた。

「それでレジに長蛇の列ができたのですか」

「はい。あぁ、うちの会社ではウィルスなどを洒落でデジタル妖怪と呼んでいますけど」

「そうでしたか」

田中は少し安心したような表情で冴場を見ていた。


 「合島君、接続が完了したら、すぐに最新の暗号化シーケンスで退治してくれ」

「はい。それではシーケンス・ガンマ・バージョン5を実行します」

「最新はバージョン5だったか。とにかく頼む」

「弾かれました」

「ん、そうか。それなら俺が一時的にオフラインにするから、その隙に混乱したペイシーフに実行してくれ。今だ」

冴場の言葉に返事はないものの、合島の手は素早く動いていた。


 事務所の監視カメラの映像を見る田中。レジの店員のカード読み込みがスムーズになり、客がキャッシュレス決済で、スマホをかざすと、すぐに反応ている映像がそこに流れていた。

「あぁ、冴場さん、レジがスムーズに流れ出しましたよ」

田中はほっとした表情になっていた。ちょうどその時、警官が事務所に入ってきた。

「店長、お困りのことはありますか」

「…いいえ。こちらの人たちのおかけで解決しました。ただでしたよね」

「もちろんです。我々の実績作りですから」

冴場は店長の他、警官にも聞こえるように言っていた。

「しかし、原因は何でしたか」

田中が冴場に聞こうとすると合島はニヤニヤしていた。

「まぁ、一種の例え話として聞いてください。このウィルスつまりデジタル妖怪のペイシーフは、外見は人型で、全身が漆黒のデジタルパターンで覆われており、電子機器の回路やデータストリームが絶えず流れているように見えます。目は冷たい青色に光り、手にはスマホやタブレットを操るかのような透明なスクリーンが現れるます。キャッシュレス決済端末やスマホから決済情報を盗み取ったり、QRコードや通信を通じて、ユーザーの決済情報にアクセスすることができます。本物の決済アプリやサイトを模倣し、ユーザーが入力した情報を悪用し、偽の決済画面を表示して金銭を騙し取ったりもします。また正規の決済を妨害し、トランザクションを不正に操作し、支払いが完了したと見せかけ、実際には失敗させてユーザーを困惑させたりします。厄介なのは、自身の分身をデジタル空間に送り込み、複数のキャッシュレス決済システムを同時に攻撃することができる点です」

冴場が滔々と語り出すが、田中も警官もポカンとしていた。

「所長、長くなりそうですから、その辺で…」

合島は田中たちの様子を見ていた。

「あぁ。もうちょっと、ペイシーフは、キャッシュレス決済の普及と共に生まれた新しいデジタル妖怪ですがルーツはそろばんの妖怪とも言われています。結局これは、人々が利便性を追求する一方で、安全性を軽視している現代社会への警鐘として存在でもあるのです。一番の弱点はオフラインでの取引や現金取引に干渉できないところです。対策としては、キャッシュレス決済システムのセキュリティを強化し、最新の暗号化技術を導入し、特に二段階認証や生体認証を活用することが推奨されます」

冴場はまだ言い忘れたことはないかと考えていた。

「そうですか。わかりました。私は巡回がありますので、こちらで失礼いたします」

警官は敬礼をすると、さっさと事務所を出て行った。残された店長の田中は複雑な表情を浮かべていた。

 「それでは、我々も失礼します。またデジタルトラブルがありましたら連絡してください。今度は有料となりますが、効果の程はおわかりだと思います」

冴場たちが事務所から出て行こうとすると、田中はやっと終わったという顔をしていた。


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