Eps1.寝て起きたら知らない世界
誤字脱字がありましたら、ご報告くださると幸いです。
「頼本君‼何度言ったらわかるんだ‼」
スーパーのバックヤード、大声が木霊し、パートの主婦や学生から遠巻きに呆れられた視線が注がれる。
「お客さんから、また、クレームだよ‼今月だけで何度目だと思っているんだ‼」
「・・・でも、店長、あれはお客様が」
「また、言い訳か‼まず、すいませんと言えないのか‼」
怒られているのは。頼本信人、4月にスーパーに入社し、新入社員として働き始めて半年が経過している。最初は、愛想よく、笑顔でお客とも接することができていたはずだ。しかし、此方のことなど、お構いなしで言ってくるクレームの数々、正論を言い返そうものなら、店長を出せと騒がれ、後で、怒られる。そのたびに、先輩や同期、パートの人から白い目線を向けられている。
「まあまあ、店長これくらいで、こいつも反省しているだろうし、コーヒーでも飲んで落ち着きましょう」
横から先輩社員が入り、その場を諫めてくる。
「・・・まあ、反省したなら、もう帰っていいよ。定時過ぎてるし」
「・・・失礼します」
その場から、足早に立ち去り、ロッカールームで着替えを済ませる。
「お疲れ様です」
会釈をし、背を向けた後ろから声が聞こえた。
「まったく、愛想もないし礼儀もなってない!他の子たちは、お客さんからのクレームもないのに、あいつだけだぞ!」
「確かに、あいつだけですよね。空気読めてないの、まあ、どうせしばらくしたら辞めますよ」
俺は、逃げるように、早足に職場を立ち去った。
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家に着き、冷蔵庫からビールを取り出し、ソファーに座り込む。缶を開け、一気に喉に流し込む。
「ウッ‼ゲホゲホ‼」
勢いよく流し込んでしまったことで、咽てしまった。咳き込んでしまい、落ち着くまで、苦しかった。息を整え、職場でのことが頭に蘇り俯いてしまう。
「・・・俺、何で働いてんのかな」
大学を卒業して、中々、内定をもらえず、やっと決まった今の職場、毎日出勤するのが辛い。自分が正しいと意固地になって、反発してしまったのがいけなかった。気づいた時には、皆から煙たがられ、距離を開けられていた。何とか改善しようと思っても、上手くいかず、から回ってしまう。
「仕事辞めたいな・・・」
口から思わず漏れてしまう。考えてきても、気が滅入るだけだと思い、立ち上がり、パソコンが置いてある机の椅子に腰かける。何か面白い動画がないかと探し、特撮特集と書いてある動画が目についた。
「・・・ヒーローか」
画面に映る怪人に向かっていくヒーローの姿、ふと、子供の頃の夢を思い出した。
「みんなを助けるヒーローになりたいか、ハハ、笑えるな」
失笑してしまい、顔を覆ってしまう。今の自分は、他人を助けるどこか、毎日の仕事に嫌気が差して、空気さえ読めない、厄介者だ。
「・・・なんで、こんなことに」
酒の影響か眠気がする。机に突っ伏し、そのまま、意識がなくなっていく。
(せめて、人に優しくなりたい・・・)
意識がなくなる前にそんなことを考え、寝落ちしてしまった。
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ハッと、目を覚ました。どのくらい時間が経過したか分からないが、周りは、暗いままだった。
「はぁー、シャワー浴びるか」
ため息が出て、仕事に備えるために、立ち上がる。しかし、目に入ったのは、周りに生い茂る木々だった。
「・・・え?」
状況が理解できず、固まってしまう。何が何だかわからず、あたりを見ていると、自分の体が目に入った。
「え、鎧!?」
自分の体を見て驚く、何と、ゲームで見たことあるような鎧がついている。それも、手足、顔も触ったら顔にも固い感触がする。全身、フル装備状態だ。
状況の理解が追い付けない頼本信人の異世界生活は唐突に開始したのだった。
主人公の年齢は、22歳です。