そうきたか
「クサリに来て貰ったのは、僕をその人物に紹介するため――ですか?」
『スネイル』の金の流れを掌握し、『スネイル』と距離を置いた現在も組織に影響を与え続けている人物――幹部が皆殺しになった現在では過去形で語るべきなのだろうが、新たな『スネイル』首領となった僕にとって、いち早く会うべき人物と言えるだろう。
「クサリさん。僕もその人とは、あなたを通じて連絡を取るべきなんでしょうね」
訊いてクサリを見ると、彼女はなんだか微妙な表情になっていた。
なんとも言いにくそうに、彼女は。
「いえ、直接やりとりして頂いて結構というか、むしろそうして頂けたら願ったり叶ったりというか、是非お願いしたいくらいなのですが……うううむ」
稚く甘い美貌にはそぐわぬ陰影が、彼女の顔に浮かぶ。
有り体に言うなら、世間のしがらみに縛られた中年男のような。
そんなクサリに、助け舟を出したのは母さんだった。
「クサリちゃんが良くても、その人――シンダリっていうんだけど、その人がどう思うかな?って話なのよ。なんていうか……まあ、会えば分かるか。クサリちゃん。ヨアキムをシンダリのところに連れてってあげなよ。シンダリとクサリちゃんが一緒のところを見れば、ヨアキムも一目で理解できると思うよ?」
「そ、そう……ですよね。ヨアキム様は、それで宜しいですか?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
「ちなみに、ヨアキム様は大陸東側で冒険者活動をされていたと伺ってますが……アーキバ国に行かれたことは?」
「アーキバというと、東側中央の国ですよね? 行ったことが無いなあ。僕が活動してたのは、東側でもマーツドやイーチカワみたいな辺境ばかりだったから。アーキバの近くで行ったことがある場所と言ったら、せいぜいコーイワくらいですね。それでも、辺境に変わりは無いですけど」
「そう……ですか」
いったん宙を見上げ、す、と息を吐くとクサリは言った。
「現地では、大変お見苦しいものを見せてしまうかもしれません……どうか、ご容赦下さい」
というわけで、クサリと一緒にアーキバ国へと行くこととなった。アーキバ国のドーンキという街に、そのシンダリという人物はいるのだそうだ。
出発は明日。
「ちょうど明後日、シンダリと会うことになっています。それに同席して頂く形で、ヨアキム様をご紹介したいと思います」
その後は、東側諸国の企みについて話しあった。
知らなかったことだが、クサリによると、これにも『スネイル』が関わっているらしい。
●
その夜、僕はセリアを抱いた。
昨夜と同じ様に、ベッドに入った時は四人だったのだが、夜中に目がさめると、彼女と二人きりになっていた。
聞いてみると、これからはずっとこんな感じになるらしい。眠るのはみんな一緒。でも誰が抱かれるかは、公平に持ち回りになるのだそうだ。
「これから、もっと増えるかも知れないし……増えるだろうし? 全然知らない人だったりする可能性も、高いわけだし」
セリアは、僕の妻がもっと増えると考えていて、師匠もモエラも同じ考え。そして新しい妻は、どこのどんな女性かも分からない。だから今のうちに、誰が抱かれるかで喧嘩にならないような仕組みを作っておこうという話になったのだそうだ。
なるほど、と僕は思った。きっとその仕組には(僕の意思という要素は、全く組み込まれていないんだろうな)という予感とともに。
ところで、セリアは凄く感じやすいタイプみたいだ。
「そ、そんな……あぅうっ! あ! そんなこと! そんなこと無いよお! あぁっ!」
それを指摘すると、最初は否定していたセリアだったのだが。
「はあ。はあ。はあ……やっぱり……そうみたい」
一時間で三回も失神すると、流石に認めざるを得ないみたいだった。
真っ赤になった顔を背け、やっぱり真っ赤になった背中をこちらに向ける彼女はたいそう可愛らしく、後ろからそっと抱きしめながら、その尊さに、僕は性的な興奮をより強くせざるを得ないのだった。
その後の行為が、更に激しく燃え上がったのは言うまでもない。
目がさめて起きたら、あまりの気恥ずかしさに、お互いの顔が直視できないほどだった。
●
というわけで、翌朝。
まずはモエラを、彼女が泊まってるハジマッタ国の屋敷に送った。
「彼女を、よろしくお願いします――これ、皆さんでどうぞ」
そう言って、モエラの世話役のメイドさんたちにお土産――グイーグで流行ってるお菓子とお茶の詰め合わせ――を渡すと、たいそう喜ばれた。
彼女たちは、僕とモエラの関係に対して非常に好意的だ。昨夜のモエラの外泊についても、朝食までに戻って来てくれれば良いからと。自分たちが誤魔化しておくからと、彼女たちの方から協力を申し出てくれた。
「モッド将軍が何かしてきたら、連絡して。僕からも、通信の魔道具で毎晩連絡するから。危ない時は『跳躍の輪』で逃げて、それが無理だったら昨日渡した――」
「うん。あれね」
「あれを使ってくれたら、僕か師匠かセリアが助けに行くから」
「う、うん……ありがと」
何故かもじもじするモエラにハグして、僕は実家の屋敷に帰った。メイドさんたちの、にまにました視線に見送られながら。
それから朝食を済ませて、旅支度を整え。
転移の魔導具――『跳躍の輪』に足を突っ込む直前。
隅の方に隠れてきたセリアが、ととっと寄ってきて。
「早く帰ってきてね――愛してる」
と。
でも、お返しに思わずキスしようとしたら、
「きゃ~~」
と逃げられてしまった。
子供かよ――可愛いなあ。
こうして昼近く、僕は、アーキバ国へと出発したのだった。




