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追放常連大魔導 無双の鍵は宴会魔術!! ~あまりにクビになりすぎたので、最強の嫁たちとパーティーを作りました~  作者: 王子ざくり


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それぞれの時間

 そうこうしてるうちに、モッド将軍も帰り――


「なんとか思い留まらせたぞ……『カツラを取ったらモッド将軍』作戦だけはな」


 そう言って、父さんが僕らのいる部屋に入ってきた。空いてる椅子はあるのに座ろうとしない。そもそも父さんは当主なのだから、自らこっちに来るのでなく、僕らを自分のいる居間へ呼べばよかったのだ。でもそうしなかった理由も、なんとなく分かる気がした。苦心してるのだろう。親友の奇怪な計画を聞かされた、その直後の微妙な気分から抜け出せずにいるに違いない。


 そんな僕の考えを読み取ったかのように、師匠が頷く。

 そして、言った。


「いま話しあってたところなんだがね。方針としては『ダラダラ時間を引き伸ばして、モッドがモエラに飽きるのを待つ』という線で行くことになった」


「ああ。それしか無いだろうな」と父さん。


「|『カツラを取ったらモッド将軍』作戦かれのもくろみを阻止してもらえたのは、有り難いよ。カツラでモエラに会った後では、モッドも引っ込みがつき難いだろうからね。我々の方針も、支障を来すところだった――ありがとう。流石だよ、君は」


「そうだ、な……」


 父さんが言葉をつまらせた。師匠の上から目線な物言いに鼻白んだのかと思ったら、違った。驚かざるを得なかった。父さんの目に、みるみる涙が盛り上がっていったのだ。


「済まない……先に休む」


 父さんが部屋を出て、母さんも苦笑しながら後を追って出ていった。

 残された僕たちは、顔を見合わせる。

 セリアが言った。


「嬉しかったんだよ……褒められたから。マニエラ、彼を褒めたことって無かったじゃない」

「そんなことは無いさ。彼のことは初めて会った時から認めてたし、ちゃんと言葉にして言ってただろ?」

「彼がいない場所ではね。でも、直接褒めてあげたことって無かったでしょ? いつも、彼のこと叱ってばかりだったじゃない」


 師匠が言った。


「……そうだな。少なくとも、私たちが彼と冒険してた頃は、そうだった。それから後は――褒めも、叱りもしていなかった」


 そういえば、師匠が屋敷の裏に住むようになって随分経つのに、師匠が父さんと話してるところどころか、一緒にいる場面すら見たことが無かった。屋敷を馬車で出ていく父さんとすれ違ったことはあったけど、僕の傍らにいる師匠を、父さんは一瞥もしようとしなかったし、師匠もそうだった。


 セリアと師匠が、父さんに失恋してから20年。

 つまり彼女たちと父さんが共に冒険していた頃から、それだけの時間が経ったということでもある。


 セリアはエルフ、師匠はダークエルフ。

 二人とも、長命の種族だ。

 同じ20年でも、その長さの感じ方は、人間である父さんとは全然異なってるに違いない。


 それでも、ずっと以前に行われるべきだったことや、伝えられるべき言葉が、いま行われ伝えられた。


 そのことに、変わりは無いはずだった。


 ●


 家令に案内され、食堂で夕食を取り、僕たちは師匠の小屋に戻った。夕食は僕たちだけだったし、小屋に父さんや母さんが声をかけてくることも無かった。


 大きなベッドで、4人で寝た。


 4人では何もしなかった。目が覚めた。カーテン越しの夜空は、夜明け近い。隣で、モエラが僕を見てた。ベッドには、僕とモエラだけだった。師匠とセリアは、どこかに出ていったのだそうだ。


 モエラも、僕と同じで人間だ。


 師匠たちとモエラに違いがあるとしたら、そこなんだろう。師匠もセリアもモエラも、違いなんていくらでもある。でも、師匠たちとモエラを分ける何かがあるとしたら、そこなんじゃないかって思えた。


 僕とモエラには、同じ感覚の時間が流れている。


 そう思った途端、モエラのことが愛おしくて、僕が彼女のことを守らなくてはならない、そんな気持ちが湧き上がってきた。ずっと埋まってたものが、掘り起こされて、外気に晒されたような。なんだか胸の奥が痛くて、切なくなるような気持ちだ。


 モエラは、薄い笑みを浮かべて僕を見てる。


 彼女に重なりながら、愛してるとか、色々言ったと思う。彼女も、同じように色々言った。でも僕より、モエラはなんだか余裕があるみたいだった。


 とにかく、こうして僕とモエラは結ばれた。

 モエラの身体は、柔らかくてすべすべしてて、気持ちよかった。

 行為が終わる頃には、外は、もう明るくなってた。


 ●


 ちょっと、心配していたのだけど……


 師匠たちに、昨夜のモエラとのことを冷やかされたりすることは無かった。師匠もセリアも、行為の後でうとうとした僕が、目を覚ましたら、もう部屋に戻って着替えを始めていた。モエラも、一緒に着替えていた。


 着替えを終えた3人に、順番にキスをして、それから彼女たちに見られながら、僕も着替えた。


 朝食は、父さんたちと一緒だった。


 ニマニマとした顔で僕らを見る母さんが、師匠と視線を合わせては「なによ」「なんだよ」なんてふざけて言い合ったり。


 そんなのを横目で見ながら、父さんが言った。


「今後のことについて、話がある。私が出かける前に済ませたい――朝食の後で、居間に集まってくれ」


 確かに、まだまだ打ち合わせが必要だ。


 僕とモエラが結婚することで、国として進めていた『モッド将軍の息子とセシリア姫を結婚させる』という計画は意味を成さなくなってしまった。宰相派と将軍派の緊張を考えると、今後僕たちがどう動くかについて、十分に考えておかなければならないだろう。


 僕たちが、腰を上げたそのときだった。


 食堂から見える、庭が光った。

 と、同時に宙に穴が開く。

 空ではない。

 庭の真ん中の、塀より数倍高いくらいの宙だ。


 その穴から、するすると何かが降りてきた。


 人だった。背は低い。灰色の、汚れた布を雨合羽みたいに被り、足には遠目にも分かるほど汚れた、ごついブーツ。


 それが、庭に降りた瞬間に一変する。


 肩の高さで切りそろえた金色の髪に、黒いドレス。

 年齢は、10歳くらい。


 その美しい少女――

 いや、幼女を僕は知っていた。


 クサリ。


『スネイル』乗っ取りの際に協力してくれた、僕の妹の親友だった。


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