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追放常連大魔導 無双の鍵は宴会魔術!! ~あまりにクビになりすぎたので、最強の嫁たちとパーティーを作りました~  作者: 王子ざくり


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みんな、ぶっちゃける

『セシリア姫と結婚するのは、わしではダメだろうか? だって、好きになっちゃったんだもん』


 そんなことを言うモッド将軍の声と映像を、別室の僕たちは魔道具で観ている。

 これは……不味い。

 隣に座るモエラの手を握ろうとして、僕は、ちょっと躊躇った。

 躊躇って、そして――


「あ……」


――モエラが、僕の顔を見上げる。

 僕は、モエラの肩を抱き寄せていた。

 彼女の身体が、強ばっている。でもそれは、僕が触れた後からだった。ということは、モッド将軍の発言自体には、緊張していなかったということか。


 ちょっと照れくさそうに、モエラが言った。


「私、年上の……ぶっちゃけ『中年』とか『年配の』って表現するべき年齢の男性に好意を持たれて贈り物を貰ったり、食事に誘われたりすることが多くて、ぶっちゃけそういうのには慣れていて……だから、モッド将軍が私に恋したとか言われても、ぶっちゃけ『いつものアレか……』と」


 モエラ、えらいぶっちゃけっぷりである。

 そんなモエラに、小首を傾げながらセリアが訊いた。


「ねえモエラ。ぶっちゃけ、モッド将軍の気持ちにも気付いてたんじゃない?」


 言われてみればそうだ。

 モエラは、モエラ将軍と会ってるわけだし。


「え、ええ……そうね。ぶっちゃけ、薄々感じてはいた。でも、なんというか、心の棚に乗せていたというか……ギルドの受付でも、貴族出身の冒険者には距離が置かれることが多かったし、私に好意を寄せてくるのは、ぶっちゃけ社会的にうだつが上がらなくて女性との縁が薄そうなタイプの男性ばかりだったので……なんぼなんでも、それは無いでしょうと」


「「それだ!!」」


 と、母さんと師匠が。

 そういえばモッド将軍は未婚で……


「あの人、素人童貞だよ」


 と、母さんが言う通り、恋愛というものと縁の薄い人だった。

 セリアに言い寄ってくる男性の類型に、ズバリ当てはまってしまうのだった。


「もしそうなったらそうなったで、私の立場的に逃れられるわけも無いですから。ぶっちゃけ、考えるだけ無駄というか。でも……」


 そう言うモエラの身体が、ちょっと小さくなった気がした。僕の腕の中に、すっぽり収まってしまうように。視線が感じられた。母さんと、師匠と、セリアから。期待と興味本位が主成分の、じりじりと灼く様な視線だ。それに応えたものかどうか。迷う前に、僕は言ってた。


「大丈夫だ。いまは、僕がいる」


 おお~、と声があがる。

 と、こちらの部屋はこんな感じだったのだが。


 ●


 一方、隣の居間では――


 父さんが、こんな問いかけを放っていた。


「しかし、お前がいくら想ったところで、セシリア姫の気持ちというものがあるだろう。もちろん、我が国との力関係からして、あちらが断りを入れられるとは考え難い。セシリア姫の結婚相手が、お前の息子からお前に変わったとしても、問題なく彼女は差し出されるだろう。むしろ、将軍の息子でなく将軍本人なのだから、向こうにとっては願ったり叶ったりというものだろう。しかし……だからこそだ。セシリア姫の気持ちが問題となってくる」


 息を吐くと、父さんは続けた。


「もちろん、彼女も王族だ。弁えてるに違いない。結婚というのが、恋や愛なんてもののためにするものではないのだということは。結婚にとって、恋や愛なんてものは目的ではない。結婚の先にある獣の内臓めいた惨たらしいおぞましさ、あるいはどこまでも続く、何も無い、まっ平らな、白々とした地獄を直視せずに済ますための黒メガネ、乾いて異臭を放つ口の中を誤魔化すためのハッカ飴に過ぎない」

「お、おい……大丈夫か?」

「すまない。ちょっと、最近……な」


 話してる間に興奮し過ぎたのか、父さんの息は荒い。ハンカチを口に当てて、過呼吸気味の状態を抑えていた。


 ●


「へえ……」


 と、こちらの部屋では母さんが。


 いま聞いた内容が父さんの結婚観であるなら、母さんにも見過ごせないだろう。息子の僕にとってもそうだ。『ゴーマン公爵夫妻、実はギスギスしていた問題』である。


 しかし――


「実はあの人、最近、こんなものにハマってるのよ」


 そう言って母さんが出してきたのは、何冊もの本だった。ざっと見ただけでも10冊は超える。一抱えほどもあるそれらは真新しく、どれも最近買い求められたものらしかった。


「あ、これ! この人の本! 私も読んだけど面白いよね~」


 セシリアが指さしたのは、本の題名ではなく、作者名のところだ。どの本も、作者は『キダン=イタ=マトーメ』か『カテイ=イタ=マトーメ』のどちらかだった。


「市井で聞き集めた、夫婦に関する話を集めた本だな。夫婦の馴れ初め話や子育ての話もあるけど、一番多いのは、浮気や嫁姑の諍いといった夫婦の危機についての話だ。そういった話が、体験者本人の独白という形で書き綴られていて、なかなか迫真性のある内容だったよ」


 って、師匠も読んでるんだ……

 母さんが、ニヤニヤ笑いながら言った。


「あの人ってば、これを怪談本みたいに読んでるのよ。本から顔を上げて『世の夫婦というのは、こんなにも多くの危機に晒されているのか』『結婚生活というのは、どこに落とし穴があるのか分からないものなんだなあ』なんて、顔を青くしながら言ってるの。『オマエ、私と結婚して何年経ったと思ってるんだよ』とか『今更そんなこと気付いてるのかよ』って、こっちも言いたくなるじゃない? そしたらさあ……『僕は君を守っているつもりでいた。しかし実際は、僕が……僕たちの結婚生活は、君が守ってくれていたんだね』なんて言い出してさあ」


「………」


 あからさまにはしゃぐ母さんに、セリアが複雑そうな表情になる。

 父さんとの関係は、彼女にとって、まだカサブタが残ったような問題なのだ。


「……ん。ありがとう」


 セリアの手を握ると、彼女は身を寄せて、僕の肩に頭を預けてきた。


「おやおや。私だけ、仲間はずれかな?」


 師匠も、後ろから首に手を回して抱きついてくる。

 その間、居間では、こんな風に話が進んでいた。


 ●


 息が整うのを待ち、父さんが言った。

 

「セシリア姫は、結婚というのが何か弁えているだろう。しかしだ。人間には、馬鹿なことをやって自らを堕とす自由というのがある。貴族も平民も関係ない。どんな人間にも、それはある。そしてセシリア姫がどれだけ聡明であろうとも、いや、聡明な人間であるからこそ、その札を、この機会に切ってしまわないとは限らない。もしそうなったら……まあ、それでもなんとかなりはするだろうが、お前は、それでいいのか? お前の気持ちは。彼女の気持ちを無視するということは、回り回ってお前の気持ちを傷つけることにもなりかねない。ぶっちゃけ、お前、その辺りどう考えてるの?」


 問われて、モッド将軍は答えた。


「分かっている。そんなのは、君に言われずとも分かっているさ。君が、俺を傷つけまいとあえて口にしてないことについてもな。分かっている……分かっているんだ、わが友よ。セシリア姫のように若くて魅力的な女性が、こんな私みたいなハゲの中年男に恋などしてくれないだろうってことは――しかしだ」


 そう言いながら、モッド将軍が取り出したのは、何やら黒い塊。

 人毛で作られたそれは――カツラだった。

 そのカツラを被り、モッド将軍は言った。


「しかし、好きになったのがハゲの中年男だったとしたら、どうだろう?」


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