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追放常連大魔導 無双の鍵は宴会魔術!! ~あまりにクビになりすぎたので、最強の嫁たちとパーティーを作りました~  作者: 王子ざくり


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恋しちゃったんだもん

「急に訪ねて済まん……どうしても、君に聞いてもらいたい話があってな」


 モッド将軍の声を、僕たちは隣の部屋で聞いている。モッド将軍が来宅したと聞いて、さすがにガウンのままは不味いから父さんは着替え、僕たちは部屋を移動して隠れた。その際に師匠が父さんに渡した魔動画通信の道具によって、将軍の声と巨体を視聴しているというわけだ。


「急な話、か。国に関することだったら、私にも一報入ってるだろうから――ヨアキムかな? うちの息子が、また何かやらかしたのかね」


「いや、ヨアキムは良くやっているよ。大陸東側では辛い思いもしていたようだが、そこで腐らず頑張ってたのが、北側に移ってから実った。もっとも、まさかあの『スネイル』を手中に収めるとまでは思っていなかったがな」


「お前にそれを聞いた時は、耳を疑ったよ」


「おまけに、セシリア姫とパーティーを組んでたとは……」


「待ってくれ。それは初耳だぞ」


「話してなかったか? 君も知ってるだろうが、セシリア姫は冒険者ギルドの受付で働いていた。モエラという偽名でな。そこで知り合い、パーティーの結成はセシリア姫の方から持ちかけたらしい。君と奥さんのどちらに似たのかは知らないが、ヨアキムは見栄えは良いし性格も素直だ。セシリア姫も、好感を抱いたんだろうな」


「ううむ……」


 唸る父さん。もちろん、父さんは僕とモエラのことを知っている。唸っているのは演技だ。それより僕が気になってるのは、隣に座ってるモエラだった。ほのかに顔を赤くして、斜め上にある僕の顔を、ちらちら見てる。父さんとモッド将軍の会話のどこかに、彼女をそうさせてしまう要素があったということなのだろう。どこかは分からないけど。


 しかし、驚かざるを得ない。モッド将軍、めっちゃ僕のこと詳しいじゃないですか。そして、褒めてる。めっちゃ僕のこと褒めてる。これまで嫌味を言われた記憶しかないから、不思議を通り越して不気味ですらある。


『目は覚めたかな? ヨアキム君。もっとも君の場合、もうちょっと目を覚ましてもらわないと、人並みですら無いわけだが』


とか


『あ~、ヨアキム君。君はもしかして、雨が地面から空に向かって上がってくとでも思ってるタイプか? いい機会だから教えてやろう。一度起こってしまったことというのは、覆ることが無いんだ。地面に落ちた雨は、二度と天には戻れない。それと同様、君が何の才能も持たずにこの世に生まれ落ちてしまった、そのことを覆すことも、また出来ないというわけだ』


とか


『あ~、透けてる。透けてるぞ、ヨアキム君。君があんまり薄っぺらい人間だから、向こうの景色が透けて見えてしまってるじゃないか。おーい。誰か、あれを製品化してみたらどうだ? 窓に張る布として、きっとバカ売れするぞ!』


 とか。

 一番新しいところだと……


 モッド将軍が言った。


「しかしセシリア姫が、本気でヨアキムに惹かれてしまっては、計画に支障をきたす。だから、今日セシリア姫に会ったとき、さんざんヨアキムの悪口を言って株を下げてやったんだ。本当のヨアキムとは程遠い、低能で意気地のないおよそ取り柄といったものの見当たらない人物としてな」


「ん? ちょっと、待ってくれ。セシリア姫とパーティーを組んでるのは、冒険者としてのヨアキムなわけだよな?」


「ああ。イーサンという偽名を使っている」


「ではセシリア姫にとっては、冒険者のイーサンと公爵の長男であるヨアキムは別人なわけだ。そんなセシリア姫にヨアキムの悪口を言って、どうなるんだ? 彼女が好感を抱いているのはイーサンなわけだから、ヨアキムがどんな低能であろうと関係ないだろうに」


「そういえばそうだな。いやあ。わしはヨアキムのことは好きだし大したやつだと思っているが、その……憎まれ役を演じてるうちに、なんというか、楽しくなってきてしまってなあ。正直、ヨアキムのことだったら、思ってもいない悪口がいくらでも出てきてしまうんだよ」


 なんなんだそれは……

 頭を抱えてる僕を、妻と妻予定者たちが、肩や背中を撫でて慰めてくれた。


 父さんが訊いた。


「ところで、どうして君がセシリア姫に会いに行ったんだ? 予定では今日セシリア姫と会うのはミッチャム――君の養子となりセシリア姫と結婚する予定のミッチャムの母親だったはずだが」


 そうだ。それが僕らにも疑問だったのだ。

 そもそも、どうしてそのミッチャムの母親がモエラに会いに行くことになったのだろう?


「そうだな。ミッチャムの母親――軍の情報将官でもある彼女が面談し、結婚後のグイーグ国内におけるセシリア姫の立ち位置について説明するはずだった。しかしだ……これを見てくれ」


 と言ってモッド将軍が差し出したのは、絵だった。

 描かれてるのはモエラ――セシリア姫だ。


「どう思う?」


 訊ねるモッド将軍に、父さんが答えた。


「聡明そうな女性だ。それに、なんというか……愛嬌が感じられる」


 率直に『美しい』とか『可愛い』とかいった言葉を使わないのは、どういうわけだろう? 不思議に思ってると、母さんが「へぇ……」と口の端を歪めるのが見えた。何がなんだか、僕にはぜんぜん分からない。


 モッド将軍が言った。


「『聡明』『愛嬌』……そうだな。だが、わしにはそんな風には思えないのだよ。わしには彼女が、美しいだとか、可憐だとか、賢そうだとか、そんな風には、まったく思えない。わしにとって彼女は、そんな基準の外側にある。地上に降りた天使。光の導き手。魂の先導者。その絵姿を見て、わしは思った。完璧以上に完璧なわしの理想の女性――命の旅の伴侶がそこにいると。だから、確かめに行ったんだ。ミッチャムの母親を止め、彼女が使うはずだった転移魔術の施設を使ってな。そして実際に会った彼女は、わしの理想通りどころか――逆に、理想を書き換えるほどの! それほどの!」


 言いながら、ぎゅっと目をつぶって震えだす、モッド将軍。

 そんな禿げた巨漢の中年男の、感極まった姿を見ながら――


「………」


――父さんは、言葉を失っていた。


 一方。こちらの部屋では、僕とモエラと師匠とセリアが、


「「「「はあ!?」」」」


 と。

 そして母さんが、


「はーいはい」


 と、足を組み直しながら頷いていた。


 それから、どれくらい経っただろう?

 何度も太い息を吸って吐き、モッド将軍が言った。


「セシリア姫と結婚するのは、わしではダメだろうか? だって、好きになっちゃったんだもん」


「『だもん』じゃねえよ。馬鹿」


 誰が言ったかは不明だが、同感だ。


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