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追放常連大魔導 無双の鍵は宴会魔術!! ~あまりにクビになりすぎたので、最強の嫁たちとパーティーを作りました~  作者: 王子ざくり


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父に話をしに行こう

「まず、忘れちゃいけないことを確認しよう。『僕とモエラが結婚する』。僕らが望むことは、それだけなんだ。コッパーとかミジーンとか、モッド将軍とか、色んな名前が出てきて、これからややこしいことになるのは確実なんだけど、『僕とモエラが結婚する』。全てはその望みを叶えるためにやってることなんだってことだけは、忘れちゃいけない」


「逆に言えば、それを忘れさえしなきゃ、どうにでもなるってことなんだけどね」


 師匠が言って、メイドさんが持ってきた紙に関係する国や人の名前を書き連ねた。そしてその間を線で繋ぎ、あっという間に相関図を完成させる。


 その結果――


「まずは、父さんに話をしに行こう」


――ということになった。


 父さんはグイーグ国の宰相だ。その宰相の息子が、将軍の息子の結婚話に割り込んで横取りする。将軍の側にしてみれば、当然『宰相は、どういうつもりなんだ』って話になるだろうし、父さんにとっても寝耳に水のはずだ。


 だから、まずは父さんに話を通しておこうと思ったのだ。


「でもね、イーサン?」とセリア。「あなた、ぜんぜん思ってないみたいに見えるんだけど――『お父さんに結婚を反対される』って」


「ああ、それはね……」なんて言ったらいいんだろう?「父さんは、多分、反対しない。僕が誰と結婚したとしても、父さんは文句を言わないっていうか、言えない――理由は、話せば長くなるけど」


 とにかく、僕にはそういう確信があった。

 それを察してくれたのか、セリアもそれ以上は訊こうとしなかった。


 一方、心配なのはモエラだ。


「イーサンの……お父さん……ちょっと……韻踏んでる」


 僕の両親の話が出た途端、不安げな表情になっていた。僕が話しかけても、それは別のどこかに移動するだけで、不安そうな気配は消えない。


 そんなモエラに、師匠が言った。


「大丈夫だから」

「はい……」

「本当に、大丈夫。行けば、分かる。むしろ心配なのは……」

「?」


 師匠の視線の先を辿って、僕も『?』となった。

 まあ、いい。

 出発だ。


『跳躍の輪』を取り出し、転移の準備をした。

 行き先は、グイーグのゴーマン邸――僕の実家だ。

 正確には、屋敷の裏庭にある師匠の小屋なんだけど。


「どうした?」

「いえ、なんでもないです」


 頷いて『跳躍の輪』に足を突っ込む。


 僕が見てたのは、師匠の作った相関図。そこでは、コッパー国とグイーグ国が線で繋がれ『援助』と書き添えられていた。そしてミジーン国とも線で繋がれ、そちらには『敵対』と。そこで目が止まったのだ。何か、引っかかるべきものが引っかからない――そんな違和感と共に。


 転移は、いつも通り行われた。


 転移先の師匠の小屋で、僕はモエラの手を引き、迎え入れる。続いてセリアと師匠も。差し出された手を引き、こちらへ現れた彼女たちに、求められるままハグした。セリア、師匠、モエラの順で。どうしてそういう順番になったかは説明しない。


 小屋を出て、屋敷へ。


「え?」とか「おぅ!?」とかモエラが声を漏らしてるけど、僕には彼女がどんなポイントで驚いてるのか、よく分からなかった。


 裏口から屋敷に入ると、予想通りだった。

 父さんがどこにいるかは、丸わかりだ。


 時刻は、夜のまだ早い時間。

 でも多忙な父さんにとって、そんなのは関係ない。


 毎週、水曜日のこの時間、父さんは必ず屋敷のあの場所にいる。そして全ての使用人は、その場所を避け、声を押し殺している。


「あっ……」


 たまたま出くわしたメイドさんが、僕たちを見つけて驚いてたけど、それも一瞬。たちまち冷静な表情に戻ると、ハンドサインで示してくれた。父さん、いや父さんたちがいる、その場所を。


 その場所――玄関前のホールを。


「ほら、言ってごらんなさい。どうして欲しいの? 宰相さま」

「う、うぐ。うぐぅうう……ひゃ、ひゃめてえ。僕、もう。ひっ! あひっ!」

「いいの? 止めていいの? 止めちゃっていいの? 言わないと止めちゃうわよ。宰相さまは、それでもいいのかなあ? いいのかな~~?」

「い、いや、めひゃ……い、ひゃ! ひゃぅぅっ!」

「ええ~? なんて言ったのお?」

「い、いひ……めて」

「聞こえな~い。聞こえないなあ。もっとちゃんと言わないと、止めちゃうわよお。ほらほら~」

「いひ……いじめ、て」

「聞こえな~い(笑)」

「いじ、めて! いじめて! もっといじめて! 僕を滅茶苦茶にして! もう! 僕! ガマン! できなあああい! ふああああああ!!」


 壁を殴って、僕は言った。


「父さま! 母さま! ヨアキムが戻りました!」


 僕がいるのは、廊下の影。父さんたちの姿は見えない。でも父さんたちからは、僕の背中くらいは見えたかもしれない。


「「!!」」


 流石に慌てた風な衣擦れの音を聞きながら、僕は理解していた。さっき、師匠が言ってたことの意味を。『むしろ心配なのは……』そう言いながら、師匠はセリアを見ていた。いまセリアは――


「……ネトラレ?」


――青ざめた顔で、呟いた。


 ネトラレ。


 それは、昔ある少年が、武者修行に出る際に使った名前だ。

 その少年とは、フンゾール=フォン=ゴーマン。


 僕の、父さんだった。



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