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追放常連大魔導 無双の鍵は宴会魔術!! ~あまりにクビになりすぎたので、最強の嫁たちとパーティーを作りました~  作者: 王子ざくり


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結婚しよう

 いったん場が落ち着いてしまえば、後は話が早かった。


「へぇ……」


 と、師匠が声を漏らす。長い付き合いだから分かるけど、それは師匠が何かに感心したときに出る声だ。それほどに、僕から事情を聞き出すモエラの手腕が巧みだったということになる。あれだけ錯綜した状態というか、とっ散らかった僕の話から、ここまで情報を整理するのは、曲者ぞろいの冒険者たちを捌いてきたギルドのベテラン受付嬢の彼女でなければ、困難だったに違いない。


「つまり……あなたはグイーグ国の公爵のご子息のヨアキム様で、イーサンというのは偽名。セリアさんとマニエラさんの2人と結婚してるけど、これはあくまで冒険者のイーサンとしてで、お母様――『疾風(かぜ)のセリア団』のイゼルダさんからは、ヨアキムとしても妻を娶るように言われている――で、私と結婚したいと?」


「そう。ヨアキムとして、君と結婚したい」


 僕が言うと、モエラは訊いた――師匠に。


「マニエラさん。あなたがイーサンに冒険者の修行をさせたのは、どういった理由からでしょうか? 正直、彼は将来の宰相として学ぶべきでないことまで学んでいるように思えます。それに見合うものとして、あなたは何を期待されたのですか?」


 師匠が答えた。


「それはね、彼を『金魚鉢に手を突っ込むような人間』にさせたくなかったからだよ。私が教えた『始原の魔術』は、それだけで何でも出来るんだ。金も人も好きなように動かせるだろうね。金魚鉢に手を突っ込んで、好き勝手いじくり回すように。でも、それって違うよねえ? そんなことしたら、金魚鉢がそこにある本来の意味は失われ、金魚鉢の住人にしてみても、そんな無体をする人間は不要だ。つまり、お互いがお互いにとって、意味の無い存在となってしまう。イーサンにはね『始原の魔術』による力押しは禁じてるんだ。『始原の魔術』を前には出さず、しかし『始原の魔術』を使って事態を解決していく。そうすることで、手を突っ込むんじゃなく、水を入れ替えたり餌を与えたりっていった、人間としての正しい金魚鉢との関わり方を、手に入れて欲しかった――それが、彼が人間として生きていくためには必要だったから。おそらく君が言った『将来の宰相として学ぶべきでないこと』っていうのは『下々の高さに沿いすぎた視点』みたいなものなんだろうけど、これはそれも含めた話でね。そして彼は、それを手に入れつつある――と、こんな答えで良かったかな?」


 師匠の話を聞きながら、僕は、セリアを見た。モエラを見た。メイドさんを見た。それで理解した。いまの師匠の話を理解できてるのは、どうやらモエラだけらしいことが。


 モエラが言った。


「分かりました。お話をお受けします。イーサン――いえ、ヨアキム様。私を、あなたの……妻? 伴侶? 女房? なんて言ったらいいのかしら――」


「公認セックスパートナー」


 誰か知らないけど黙れ。


「お嫁さん」


 そう言ったメイドさんに頷いて、モエラは言った。


「――私を、あなたのお嫁さんにして下さい」


 そんなモエラを見てたら、僕は、なんだか出来なくなってしまっていた。

 単純に『はい』と言うことが。

 僕は言った。


「モエラ。僕は君が好きだ。でもそれが、君の望む『好き』なのかは分からない。僕は、いずれヨアキムとしても誰かを娶ることが決まっていて。そして、君が望まぬ結婚をすることになりそうだと知ったとき、僕は思った。『だったら、僕とモエラが結婚すればいいじゃないか』って。そう思った時、僕は――わくわくしたんだ。わくわくして、きっと、嬉しかったんだと思う。眼の前に、そんな可能性が現れたことが。その通りだった。いま君に結婚を受け入れてもらって、分かった。その通りだったんだって。いま、僕はとても嬉しいんだ――改めて言うよ。僕の、お嫁さんになって下さい。モエラ。君が好きなんだ」


 ●


 というわけで、僕とモエラは結婚することになった。

 といっても、それは僕とモエラと師匠とセリアの間だけでの承諾だ。


 セリアの結婚話の、出てきた『元』には、まったく話が通っていない。


『元』とは、彼女の父親とモッド将軍。

 別の言い方をするなら、コッパー国とグイーグ国だ。


 この両者に認めさせなければ、僕らの結婚が成立したとは言えないだろう。今回の結婚話の背景を放置したら、いつか禍根となる恐れが大きい。


「私は、聞いてない――ただ、グイーグ国の人と結婚することになるとしか」


 言ってモエラはメイドさんたちを見るのだが、そちらも首を振るだけだ。

 まあ、いい。


「実は、僕らの方で調べたんだけどね」


『スネイル』を使って、得た情報だ。グリシャムからの報告書を見て思ったのは、僕らの『スネイル』襲撃が、戦いではなく取引と呼ぶべきものだったんじゃないかということだ。


 報告書から窺える『スネイル』の情報収集能力、社会への浸透ぶりは、もし本気でどちらかが息絶えるまで戦ったなら、相当な消耗戦になっただろうことを教えてくれた。僕らと『スネイル』の間で行われたあれは、お互いが傷つき過ぎること無く良好な関係を築くための取引。戦いは、その過程で行われた交渉に過ぎないのではないかと――そんなことを師匠に話したら、師匠は『ま、取引っていうか戦争っていうのはそういうものなんだけどね』と。


 さて、そうやって得た報告書に何が書いてあったかというと――


「戦争だよ。コッパーとグイーグ。これは、それぞれの国がかかずらあう戦争から始まった話なんだ」


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