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追放常連大魔導 無双の鍵は宴会魔術!! ~あまりにクビになりすぎたので、最強の嫁たちとパーティーを作りました~  作者: 王子ざくり


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風評被害

 その後も、モッド将軍が話した僕のエピソードで、モエラとメイドさんたちは盛り上がっていた。


 学園では、コネ狙いで近付いてきた野心家の生徒を周囲に侍らかせてたけど、僕一人だけ能力が低すぎてまったく釣り合っていなかったとか。取り巻きには綺麗な女生徒が何人もいたのに、全く手を出した様子が無かったとか。よっぽど意気地が無かったからに違いないとか。


 弁明すると、僕の友達にコネ目的で近付いてきた者はいなかった。僕が公爵の嫡男であることは入学後しばらくの間は伏せられていて、みんなと友達になったのは、それが明かされる前だったのだ。そして僕が周囲の女生徒と恋愛関係にならなかったのは、師匠と付き合ってたからに他ならない。


「意気地が無いというより、きっと誠実な方なんだわ」

「いい加減な気持ちで、何人もの女性と親密になったり出来なかったのよ」

「だったら、誰か1人と誠実にお付き合いすることは? 出来なかったのかしら」

「ほらそこは、1人を選んだら他のみんなを傷つけてしまうから」

「それじゃあ、さっき話に出た『27歳のご子息』と変わらないじゃない」


 そんな彼女たちの会話を聞きながら、僕は冷や汗をかいていた。ますます、姿を現せなくなってしまっていた。問題は、会話の中に出てきた『誠実』というキーワードだ。


 モエラは、僕のことを好きだと言ってくれた。では、僕はどうだろう? 彼女の愛情と釣り合うほどの愛情が、僕にあるだろうか? モエラと結婚すれば楽しいだろうし幸せにもなれるだろう。しかし、それでいいのか? 彼女の愛情と同じだけの愛情を僕も持っていなければ、フェアでないというか、彼女に失礼なのではないだろうか?



 と、そんな気持ちを、キ=テンの宿に戻って話したところ――


「重い! 重いよ。イーサン!」


――師匠に、叫んで叱られた。


「じゃあさあ。イーサンは、私と結婚する時もそんなこと考えたの?」


 と、こちらはセリアだ。


「いや、セリアとは……お互い、同じくらい好きなのが分かってたっていうか」

「も、もう……何を言うのよお……うふふふ」


 2人で頬を赤らめてると、師匠が割って入ってきた。


「くわ~っ!! くわ~っ!! くわ~っ!! 大体、そんなことを言い出したらだよ? じゃあ、イーサンのことを子供の頃から知ってる私の愛情と、最近知り合ったばかりのセリアの愛情は同じなわけ?って話にもなっちゃわないかい?」


「「そ、それは……そんなのは」」


「そうだろう? 比べられないだろう? 比べちゃ駄目なの! いま、ここにあればそれでいい! 愛情っていうのはそういうものなの! ただ相手を幸せにしたいと思い、そのとおりに行動する金と力があって、方法が間違ってさえいなければ、それでいいの! そうすれば、相手が勝手に、そこに愛情を見つけてくれるの! そういうものなの!」


「へー。マニエラって、そんなこと考えてたんだ~」

「師匠って、難しいこと考えてるんですね~」


「ば、馬鹿にしてる!? 私のこと馬鹿にしてるのかい!?」


「そんなことないよ~」

「ないですよ~」


 グリシャムからの報告が届いたのは、その直後のことだった。

 僕は、再びモエラのところへと向かった。


 ●


 正確には『僕』でなく『僕たち』だ。


「え? イーサンにセリアさん。それと……どなた?」


 初対面の師匠に、モエラは戸惑った表情だった。

 だったわけだが――


「マニエラです。『疾風(かぜ)のセリア団』の、と言えば分かってもらえるかな?」


――なんて師匠が名乗ったものだから、石化に近い感じで硬直してしまった。


疾風(かぜ)のセリア団』――師匠とセリアと僕の母さんが組んでたパーティーは、ハジマッタ国の少女たちの憧れだった。それはモエラが言ってたことだけど、彼女の反応を見る限り、どうやら嘘ではなかったようだ。


 いま部屋に、メイドさんたちはいない。

 モエラと、僕たち3人だけだ。

 僕は言った。


「モエラ。君に話さなければならないことがあるんだ」


 いま僕とパーティーを組んでるセリアはともかく、師匠がどうしてここに来ているのか? 分かりやすく説明するには、どうしたら良いのか? そして何より、モエラに結婚の意志を伝えるには?――そのとき考えられる、最適な方法を、瞬間的に、僕は選んでいた。


 セリアの肩を抱いて、言った。


「実は、セリアと結婚したんだ」


 次に師匠の肩を抱いて、言った。


「ししょ……マニエラとも結婚した」


 最後は、モエラを見つめて――


「そして、君とも結婚したい」


――言ったら、モエラは。


「ど、ど………どういうこと?」


 震える手で、わたわたと眼鏡の位置を直し始めた。

 困惑した表情で、目玉を震わせて。

 いけない。

 これでは説明不足だ。


「もちろん、正式な結婚で、実家から――というか、母――僕の母は『疾風(かぜ)のセリア団』のイゼルダなんだけど――その母からも認められていて、本名でも誰かと結婚するように言われていて――」


「え? イゼルダさんが、イーサンの? っていうか本名。って? え、それ、どういう……もうその時点で分かんないんだけど……え? え? え?」


「いや、その、本名というのは――」


 完全に情報の受け渡しに失敗してる僕とモエラをよそに、師匠たちはというと、


「いいよね……肩を抱かれるのって。ハグされたりするのとも、ちょっと違って。うふふふ」

「マニエラ……呼び捨て。マニエラって……ふふふふ」


まったく、知ったこっちゃないって感じなのだった。


 そんな埒のあかない状況の中、ぶるぶる頭を振って目を見開き。

 モエラが言った。


「あの、まずはね。イーサン……あなたの本名から、教えてもらえる?」

「僕は――」


 僕は答えた。

 同時に――がちゃん。


「え~~~~~~~っ!! あの『朝起きてから夜眠るまでずっと寝ぼけたまま』な『言い寄ってくる美少女に手も出せない意気地なし』の『小器用で小さくまとまっちゃってる』ヨアキム様~~~っ!?」


 部屋に入ってきたメイドさんが、持ってたお茶の支度を落として叫び。

 それで逆に僕らは落ち着いて、平静を取り戻すことが出来たのだった。


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