降下作戦
今回登場する魔術
『魔の先導者』
魔術の矢で、指定した人や物の場所を教えてくれる。
『イモータル・ワーカーズ』
死体を操って、作業させる。
自律的に動くので、いったん発動したら、特に指示をする必要はない。
部屋の中央に、穴が空いていた。
そこからセリアが剣を投げつけ、既に眼下の景色には、無数の大穴が穿たれている。剣に付与された魔術で、ある場所は燃え上がり、またある場所は凍りつき。それを見下ろしてた僕たちも頷きあい、穴から空に身を投げ出した。
降下する――『スネイル』の、本拠地へと。
耳元で鳴る風切り音。
『着ちゃって着ちゃって!『身体密着型結界』!』
しかし事前に張った結界のおかげで、寒さも風の痛さも無い。
「先に行ってるよ~~~」
セリアが、結界を変形。空気抵抗を減らして降下のスピードを上げる。
その両手には、ガントレット。
これも結界の効果で、ガントレットには数百キロの質量が与えられている。
高度が下がったのを確かめ、僕は新たな魔術を起動した。
「教えて教えて『魔の先導者』!」
魔術の矢が現れ、指定した対象を指し示す。
矢の数は数百――たちまち数千にも及んだ。
『スネイル』の本拠地は、棄てられた古城だ。これを中心に多数の砦を配置し、いわば人工のフィールドダンジョンを形作っている。
師匠が叫んだ。
「おいおいお~い。これは予想以上なんじゃないか!?」
僕が出した魔術の矢は、師匠にも見えている。魔術で得た情報を、共有しているのだ。同じく聴覚も共有しているから、こんな状況でも会話が出来る。
「城攻めで出たんでしょうか?」
「いや。この分布は、砦が作る動線に沿っている。ここを攻めてきた人間のものだろう。それと、あそこ――あそこが、集積場だね」
「じゃあ、行きますか?」
「行こう行こう」
僕と師匠は、声を揃えた。
「「殺ったれ殺ったれ!『飽くること無き殺人者』!」」
空から、銀の線が降り注ぐ。
それが繋がってくのは、魔術の矢が指した先。
ぼこぼこと地面が盛り上がり、土塊が除けられて。
そこから、人影が立ち上がる。
魔術の矢が指してるのは、死体だった。
そして『イモータル・マーダーズ』は、死体を操作する魔術だ。
竜神狩り(第6話参照)のとき使った『イモータル・ワーカーズ』と似てるけど、死体に指示した作業を行わせる『イモータル・ワーカーズ』に対して、『イモータル・マーダーズ』はもっと単純。
死体に、ひたすら人を殺させるだけの魔術だ。
これまでどれだけの人間がこの城を襲い、この城に攫われ、この城で殺されたのだろう。とにかくこれで僕らは、数千の不死の軍勢を味方に付けたことになる。味方とはいっても、下手したら僕らも殺されちゃうんだけどね。
さて――では、もう一度。
「教えて教えて『魔の先導者』!」
再び、魔術の矢が現れる。
今度はずっと少なくて、300をちょっと超えたくらい。
検索対象は、生きた人間と動物、それから魔物だ。
今度は師匠だけじゃなく、母さんやセリアとも情報を共有する。
と――どかん!
轟音とともに、生者を示す矢が半分以下まで減った。
巻き上がる埃と土塊、そして石片。
古城が、半壊していた。
セリアの着地――高速度で叩きつけられた、ガントレット。その大質量が、尖塔から地下まで貫きながら、その余波で古城を揺さぶり砕いたのだ。それを見下ろしながら、僕らはゆっくりと旋回し、城の周囲へと分散する。
「教えて教えて『魔の先導者』!」
3度目の魔術の矢は、師匠が出した。
僕が出したのとは、色を変えて視覚に投影される。
対象は『スネイルの幹部、もしくは一定以上の魔力の持ち主』。
「じゃあ、それぞれ潰しながら、合流ってことで」
と、セリアの声。
それに僕は、こう返した――他人の、パクリなんだけどね。
「さあ、殲滅戦の始まりだ」