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我らは……

 屋敷の裏庭にある、師匠の小屋。


 実は、屋敷にあるのは外側だけだ。

 内側は、そこに無い。


 小屋の入り口が転移の魔道具になっていて、そこを通った途端、どこか別の場所にある部屋に転移させられている。でも、その部屋というのがどこにあるのかは、僕にも不明なままだった。


 それが、いま分かった。


「さあ、行こう!」

「「おーーっ!!」」


 と師匠、セリア、母さんが天井に拳を突き上げた途端。


「うわわわわわっ!!」


 情けなく、僕は悲鳴をあげていた。

 足元が、空になったのだ。

 雲と、それを透かした向こうの大地が、眼下に現れていた。


 床の所々が透明な円になって、そのひとつが、僕の足元にあったのだ。


 空を飛んだ経験は、これまでだってある。そうでなかったら、足元に現れたのが何なのか、理解することすら出来なかっただろう。


 でも、思わず恐怖の声を上げてしまったのは、余りに突然だったのと、この飛行が、僕の知らない何かによって行われている――どうして飛んでいるのか説明無しで、まったく分からなかったからなのだった。


「イーサン、これ見て」


 にやにやだったり、にまにまだったり。

 それぞれの笑みで僕を見る3人を代表して、師匠が机を指さした。


 そこに乗せられた、水晶玉を。


 水晶玉の中心には、何かが封じ込まれている。

 貝殻を何枚も重ねたような形の、白くゴツゴツした『何か』。

「模型……いや、映像?」

 つぶやきに、師匠が頷く。


「これが、いま我々のいる場所さ」


 師匠が水晶玉に触れて蠢かすと『何か』が大きくなった。

 そして向きを変える。

 改めて指さされたのは、『何か』の、さっきまで下を向いてた部分――その一点。

 そこに、小さな突起があった。


 師匠に促され、僕も水晶玉に触れる。

 見よう見まねで指を動かすと、やはり『何か』が小さくなったり大きくなったり。

 向きを最初の状態に戻して、上から見下ろす。


 すると『何か』の下に、映っていた。

 それは、雲と大地。

 いま僕の足元を流れてるのと同じ、空からの景観だった。


 これで分かった。


 僕らは『何か』の中――さっき師匠が指さした、小さな突起の部分にいる。

『何か』は、空を飛んでいる。

 そして水晶玉は『何か』が空を飛ぶ様子を映している。


「――これって、ずっと飛んでるんですよね?」

「うん。そう」


 師匠が頷く。

 思わず、苦笑してしまった。


 つまり僕が知らないだけで、師匠の小屋にいる間、僕はずっと空を飛んでいたというわけなのだ。あのときもあのときもあのときも――師匠と僕が初めて結ばれた、あのときも。


「さあ、準備を始めましょう! 私がぶわーと叩いて、イゼルダがさくさく斬って、マニエラがぐわーっと燃やすって感じでいいよね!」


と、セリア。


「『疾風(かぜ)のセリア団』――いいえ。今は違うのよね? マニエラ」


と、母さん。


「うん。『『疾風(かぜ)の夜明け団』プラスおかん』ってところかな」


と、師匠。だけど――母さんが言った。


「それは、ちょっと頷けないわね」

「『おかん』はいかんかね?」

「韻を踏んだわね……って、違うの。マニエラ。相手が『スネイル』なら、名乗らなければならない名前がある。『スネイル』の、ちょっと分かってるやつなら、聞いただけで座り小便するような名前がね」


 というわけで、いま僕らはいくつもの国境を越え、大陸北側の某国某所――その上空にいる。


 昔から、こういうのはセリアの役目だったのだという。

 理由は、なんとなく分かる。

 屈託の無い彼女だからこそ、伝えられるものがあるのだ。


 たとえば、全く遠慮のない暴力。

 それを行使する意志、とか。


 セリアが言った。

 遥か下方に見える『スネイル』の本拠地に向けて。

 数分間をかけて――しかし、言葉が伝えることは2つ。

 1つは、


『これから、貴様らを、潰す』


 澄んだ声が、空の底へと振り下ろされていく。

 彼女の投げつける、刃とともに。


 言葉の切れ目ごとに、既に数十本。


 加速された質量が、着地と同時に、大地に大穴を穿つ。

 赤、白、黄――巻き上がる炎は、付与された魔術によるものだ。


 そして、最後にもう1つ。

 伝えて、言葉は終わった。


『我らは『月の裏側よりの使者』――かつて『スネイル』を屠りし者』


 次の瞬間――爆風の渦巻く大地へ、僕らもまた、降下を始めたのだった。


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