勇者の俺はただ、ちんちんが見たいだけなんだ
俺ことゲンエイは、聖剣の加護を授かり魔王討伐の任を受けた勇者だ。
世界の平和を守るため、歩いてきた旅路もこれから歩いて行く苦難の道も、携えた聖剣と共に――――と、以前までは思っていた。
俺の旅路は一人ではない。三人の仲間が側で一緒に戦ってくれる。
「ゲンエイさま、傷をお癒し致しますわ」
俺が怪我をすればすぐに癒しの回復魔法を使ってくれる女性。金髪の美しい聖女、アリア。
「……アタシだって、手当てくらいできるし」
戦いの前線を共にしてくれる女性。赤髪の勇ましくも可愛らしい拳闘士、ガーネット。
「えへへ……。ゲンエイくんゲンエイくん! ボクの魔法どうだった? 役に立った?」
小柄な体躯に幼さが残る顔貌で無垢な笑みを向けてくるが、その笑みの輝きと温かさは太陽のような暖かと同時に愛らしさも秘めている、少年。透き通るような蒼い髪と華奢で小柄な体は子供に思えてしまうが年齢は俺と同じ十八歳で、顔の可愛らしさやしとやかで丁寧な仕草から女の子とよく間違われることも多い魔導師、リーラ。
三人とも、俺の大切な仲間だ。
旅の始まりから啓示を受けて同行してくれているアリアには感謝している。必ず、魔王を倒して平和な世を手に入れると、旅立ちの日に彼女に誓った。
俺に勝負を挑んできて共に力をぶつけ合い認め合ったガーネットは心強い戦友だ。俺は聖剣で、彼女は拳で、共に魔王へ立ち向かい悪を消し去ると、勝負の後に宣言しあった。
助けた人々にも、街行く人々にも、王達にも、俺の望みは皆が笑顔で暮らせる平和な世界を手に入れることだと伝えてきた。
だが――――しかし――――――――俺の望みは何時しか変わった。
と言うのも、リーラに出会ってからは彼のちんちんを見たいという欲求が収まらない。流石に俺は勇者故、こんな考えを直接ぶつけることなどしない。が。恥ずかしがりやの彼は一緒にトイレに行く事も風呂に入ることもなく、一人でこそこそ済ませてしまうせいで、それが逆にこの欲求を加速させる。
始めはただ『ちんちんが見たいな』と思っていたのが、過ぎ行く日々のなかで『絶対にちんちん見たい』に変わった。まぁ、直接は言わず、態度にも絶対出しはしないが。
だが幸運なことに、俺には一つの手段がある。
聖剣は言っていた、魔王を倒したあかつきには、俺の願いを何でも一つ叶えてくれると。少し前ならばその願いは『魔王が居なくなった世に、溢れんばかりの幸福を』だったが、最近は『ちんちん見る』に変わった。
ここ最近、魔王軍と戦う理由も『ちんちんを見るため』強くなる理由も『ちんちんを見るため』強力な四天王を倒す為に必要な要件をこなす際にも『ちんちんを見るため』。
良いか、ここまでくると俺はただ、ちんちんが見たいだけなんだ。その願いの為に俺は何が何でも魔王を討伐するのだ。
あくる日の夜も――
「むにゃ……すやぁ……」
俺の横で寝ているリーラの寝顔を見ながら、決してズボンは下げることなく、彼の寝顔を見守った。
旅の道中でも――
「わっ……! ゲンエイくんの手かたぁい……腕も……! 腹筋見せて!」
では代わりにズボン下げて。などとは言わず、彼が満足するまで筋肉を堪能させた。
戦いが終わった後も――
「ごめんね……ボクを守るためにゲンエイくんが怪我を……。何でも言って! 怪我させちゃったお詫び、何でもする!」
ならばちんちんを。などとは言わず、君が無事ならそれで良いとだけ言わせて貰った。
しかし……最近、四天王を打倒し魔王城へと近づくにつれ、何故かアリアやガーネットから夜に呼び出しをされることが増えた。
「その……ゲンエイ様……」
「ふむ、ナニかな」
「……決戦が近づいていることは承知しております。ですが……もう少し、このままで……。できれば、その……戦いが、終わっても……」
「すまない、考え事をしていて聞き逃してしまった。もう一度言って貰っても構わないだろうか」
「い、いえ……! た、たびの終わりも近いですし、二人でこれまでを振り返ってお話したいなと……!」
アリアと夜更けまで肩をくっ付け合って過ごした夜は、色々話した気がするがちんちんのことしか考えてなくて何を話したのか覚えていない。
「ア、アンタさ……最近、ずっと考え事してるっぽいけどさ……。決戦近いし、不安だったり、するの……?」
「モロチン、その思いもあるさ。だが、不安よりも希望や願いの為に戦う意志の方が強い。決して、魔王を前に奥スルことは無い」
「……良かったら、で、良いんだけど……。アタシが、元気出るおまじないしてあげても……」
「やれやれ、潮らしいとは君らしくないな。不安ならば今夜は俺が側に居てやる、落ちんちん着いたら早く寝るんだぞ」
「……うん……」
珍しく口数が少ない彼女は、俺の膝に座りながら控えめに体を預けてきた。彼女が黙ってる間はずっとちんちんのことだけを考え続けていた。
あと少しなのだ。あと少しで思い続けていた願いを叶えられるのだ。
胸に抱いた希望を携え、俺達は旅の終着点であり最終目的でもある魔王城へと足を踏み入れる。
内部で激しい戦いを繰り広げながら、消耗しながら、疲弊しながら、それでも俺達四人は誰も欠けることなく魔王の前に到達することが出来た。
俺達と似た、人間にも思える姿の魔王を前に、俺達は戦った。手ごわかったが、それでもこちらが優勢となって勝利の決着をつけようとした、その時。
魔王は姿を変えて、龍と魔神を掛け合わせたような、強大で恐ろしい存在へ変化した。ガーネットの拳が効かない、アリアの聖なる光りも通じない、リーラの魔法も無効化される。
唯一通用するのは、人々の希望が募って生まれた、俺の持つ聖剣だけだった。
俺が握ってるのは唯の剣ではない、希望の剣だ。俺は魔法なんて使えない、俺は飛びぬけた才能なんて無い、特別な力なんて何一つ持っていない。俺はただ、聖剣を手にした一般人だ。だが、人々の希望を握ったのなら、その希望を携える者として強く在らねばならぬだろう。希望が負けてしまえば、その時が真に人類の敗北となるから。
どれだけ傷を負おうと、だったら何度でも勃ちあがれば良い。眼前に見据えた敵が居るならば、まら膝を付くときではない。
「ゲンエイさま!」
「ゲンエイ!」
「ゲンエイくん!」
激闘の中で、背後から仲間達の声が聞こえてくる。俺が何度血しぶきを上げようと、体の髄に軋みが走ろうと、必ず決着は付ける。
「俺、は――!」
「何故だ、なぜ倒れない! 肉体の限界はとうに超えているというのにィ――ッ!」
「ただ――!」
「聖剣に光りが――!? させるかぁああああああああああ!」
――ちんちんが、見たいだけなんだ。
聖剣に集いし希望の光りは、全て俺が旅路の中で出会った希望の数々だ、願いという輝きの収束光だ!
希望の輝きが上げる音は、俺の叫び声も掻き消して強大な閃光を放つ。
――閃光の後に映る景色は――魔王城の壁をぶち抜き、空に掛かっていた暗雲さえも吹き飛ばし、天からの光りが俺達に温かく勝利を告げているようで――――だが。
肉体の限界を迎えた俺は、空を見続けることが出来ずに、勝手に体が地面へ落ちる。全身に力が入らない、意識すら保っているだけで精一杯だ。
「ゲンエイさま――!」
仲間達は俺の下まで駆け寄ってくれる。それでも、俺の体はまともに動いてくれはしない。
「アリア、回復魔法を!」
「無理です、魔力が……! それに、この傷や体の状態では……回復魔法も……っ!」
「うそ、でしょ……? アタシたち、勝ったのよ……! ゲンエイが……魔王、倒したのよ! ゲンエイが掴み取った人類の勝利なのに……こんな、こんなことって……っ!」
「ゲンエイくん、しっかりして! ゲンエイくん!」
「…………さい、ご、の望み、を……聖剣……たの。む」
禄に口も動かない、薄れた意識では言葉を紡ぐだけでも精一杯だ。それでも、まだ、だ。
薄れ行く意識の中――皆が涙を流し、俺を取り囲んでいる中――――俺の声を聞いた聖剣は、輝きを放ち宙へと浮かんだ。
『よくやりましたね、ゲンエイ。約束通り、貴方の望みを一つ叶えてあげましょう』
「……そ、それって……! ゲンエイさま、お体の回復を聖剣さまに!」
「おれ、は」
「しっかりしなさい! 早く、死んじゃう前に、早く! 願いを言って!」
「言、うん、だ。おれ、の、願いは」
「よかった……これで、皆一緒に帰れる――」
「リーラのちんちんがみたい」
「「「……ん?」」」
『……ん?』
「……ん?」
おかしい、ハッキリといったはずだが聞こえなかったのだろうか。ならばもう一回言わなければな、死んでしまう前に。
「もう、一ど、言う、ぞ。聖、剣――リーラのちんちんがみたい」
『ああいえはい、聞こえては居ましたよ』
「~~~~っ! ゲ、ゲンエイ、くん! ふざけてないで!」
「俺は、本、気、だ。リーラのちんちんを見るため、に、ここ、ま、で戦ってき、た」
「何でアンタ一部だけスラスラハッキリ言えるわけ」
「あわ、あわわ、り、リーラ、さま! おち、おちち、おちん、あの、アレ、出してくださいまし! 聖剣さまが叶えてしまう前に!」
『私にも叶える願いを選ぶ権利はありますよ』
「ゃだ……はずかしぃ…………けど…………ゲンエイくん……!」
顔を真っ赤にし、涙眼だった目をキュッと瞑って、リーラは意を決したようにズボンを下げながら――腰を突き出して、ソレをぷるんと見せた。
「おぉ……これ、が、リーラのちんちん……まさにちんちんたるちんちんだ……」
「……つるつるで……かわいらしいのです、ね……」
「小さかった頃の弟のと同じね……。アンタほんとにゲンエイと同い年なの?」
『聖剣ならぬ性剣ですね。あっはっは』
「な、なんでこんなことになってるの! もーいーでしょ! ゲンエイくん! 聖剣さんに体治して貰うようお願いしてよ!」
――――あぁ……どうしてだろう。往年の目的を果たしてしまったからだろうか…………全てをやりきって未練が無いように、残っていた力さえも体から抜けて行く――戦いの目的を、リーラのちんちんを見ることを、達成したのだ……もう、心残りはありはしないさ……。
「さら、ば……だ……――」
「えっ、待ってゲンエイくん! 最後にボクのおち……アレ見てなんでそんな満足そうな顔してるの!? なんで逝こうとしてるの!!」
「あら……? もしかして、ゲンエイさまにはそーゆーご趣味が……?」
「嘘でしょ……? あ、でも確かに言われてみればリーラに接する態度が柔らかかったような……。アレ見たくて戦うとかドヘンタイじゃないの」
「む? 断じて違うが? 純然たる意志で見たいと思っていたのだ、俺が変態ならば旅路の中でズボンを脱がしていたことだろう。……それ、だけは……理解して……欲しかった……さらばだ、皆……」
「……も、もしかして、ゲンエイくんって……ボクのコト、好き……なの?」
「当然だろう。リーラも、アリアも、ガーネットも、俺は皆が大好きだ。三人が居なければ、この旅路の中で何度も挫け、ここにたどり着く前に俺は死んでいたことだろう。ゆえに俺は、三人とも大好きだ。……それ、だけは……理解して……欲しかった……さらばだ、皆……」
「ま、待ってくださいましゲンエイさま! も、もしかして、わたくしに向ける好き、とは……」
「純然たる恋愛感情だが? 俺の初恋は君だ、アリア。だが、この旅路で、しかも仲間内で浮かれた色恋などしてはいけないと、この思いに蓋をして仲間として接してきた。……それ、だけは……理解して……欲しかった……さらばだ、皆……」
「待って待ってゲンエイ。アタシは?」
「ガーネットか? そうだな……正直に言おう、お前の健康的な肉体や激しいスキンシップは男の俺に毒だった。しかし、仲間にそのような目を向けてはいけないと思い、俺は邪な心を向けず仲間として接してきた。……それ、だけは……理解して……欲しかった……さらばだ、皆……」
「……ボク、は……?」
「戦う理由、生きる希望、俺を照らす光。思えば魔王にトドメを刺した光りの九割は俺のちんちんが見たいという希望の願いだった気もする。リーラ、君のちんちんは世界を救ったちんちんだ。ちっちゃくても、立派なちんちんだ。……それ、だけは……理解して……欲しかった……さらばだ、皆……」
あぁ、そろそろ……俺の命、は……灯火が、消えて……。
『あの。願いまだ叶えてないので早く言って貰って良いですか。じゃないとこちらで勝手に決めますよ』
「……そう、だな……。世界のあまねく人々へ……溢れんばかり、の、幸せな、日々を……」
「せ……聖剣さま! ゲンエイさまは、本当に、本当に勇者たるお方なのです! ただの村人だったゲンエイさまは、貴方さまを握ったあの日から、昔から……ずっと高潔な勇者様だったのです!」
「きっとあんな願いを最初に言ったのは意識が混濁してただけで、コイツの心は今の願いに全部集約されてるわ! でも、世界を救った奴が皆の幸せを願って自分だけ死んじゃうだなんて……私は嫌!」
「お願いです! どうか、ゲンエイくんを治してください! お願いします、どうか……どうか……!」
『……ゲンエイ。生きていた方がリーラのおちんちんをもっとみれますよ』
「やれ、や、れ、だ……ちんちん、にも、世界の幸せに、も、優先順位は、ある……。ちんちんが第一んちんだ。聖剣、体の全快に願いを変更する」
「ゲンエイくんどれだけボクのあれ見たいの!?」
「何度でも、だな」
「……わたくしも……分かります……」
「まぁ、可愛いしね……」
「んぇ!?」
『これで丸く収まりましたね。んまぁ、リーラの股に収まってるのは突起ですが。では――』
「これ聖剣さんの方が性剣なんじゃ……」
『――ゲンエイよ、生きて人の世を楽しみなさい』
――――体が光りに包まれて――心地良い光りに包まれて――俺の体は元に戻っていく。それはまるで、聖剣が別れの選別をくれているかのように――――。
――――
――
魔王を倒したあの日から、世界には平和が訪れた。
俺は勇者として故郷の国中、そして世界中の国中から祝われる。だが、周りからは女性からのアプローチが、それこそ俺は英雄色を好むと思っているかの如く、次々アプローチが来る。
その件を、同性であるリーラに相談したら、『結婚して身を固めるのが一番だと思うよ』と、言われたので――――晴れて、俺はアリア、ガーネット、リーラをお嫁さんに貰って挙式を上げたのだった。
「……? ……!? ……? …………!?」
タキシードを着た俺と、そしてウェディングドレスを着たアリア、ガーネット、リーラは、大勢の人たちから祝われて幸せの福音を与えられる。
「それでは、新郎新婦のケーキ入刀です!」
「え、あれ!? ボクなんでコッチ側なの!?」
『四人ともおめでとう。ケーキを斬るなら私を使ってください』
「聖剣さんなんかふつーにいるしー! あの日消えたと思ったのにふつーに居るー!」
『まあまあ、リーラ。貴方は性剣を持ってるかもしれませんが、夜はゲンエイの鞘になること間違いないです……あ。お嫁さん同士なら貴方も少しは剣のほうに回れるかもしれませんね(笑) 搾り取られそうですけどあっはっは』
「人の希望が集うっていうより人の欲望募って出来た剣じゃないんですか?」
『聖なる剣からも祝福を~夜の旅路も健やかに~』
嘗てちんちんを見たかった俺は、愛する三人を得たことによって願いが変わった。三人の全てが見たい、全てを感じて、一生共に居たい。
今日の結婚式は、新しい旅路への第一歩だ。また、俺達は四人一緒に旅をしていこうな。ずっとずっと、どこまでも。
――お し り――