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「ぜぇいッ!!」


 目の前に立ちふさがるロックエレメンタルゴーレムを、一撃の下で引き裂く。これだけの騒ぎなのだ。好戦的な魔物は自分の方から集まってくる。中心部だったならまだましだったろうが、ここは外縁部。魔物の掃討が行き届いていない地形だ。


 ……知性の高い魔物であれば近づくことなどありえないだろうが、本能で動く魔物、特に、周りの生物を同種かそうでないかにかかわらず無差別に攻撃するエレメンタル種やエレメンタルゴーレム種などは、もはや入れ食い状態と言えた。


 彼らは核を砕けば活動を停止する。その核を砕くことそのものは簡単ではあるのだが、核は無傷でとらえるのがベストであり、彼らの核は高価で取引される。……核を保持したまま彼らを倒すというのは、ある種の矛盾をはらんでいる難事業だ。そして、そんなものに手を出す暇は、セツナにはなかった。


 一刀。魔力を纏わせた刀で一撃両断。Cランク程度の脅威度である彼らがセツナを止められる道理はなかった。……特に、今はセツナは過去最高の死地に追いやられたがゆえに、過去最高に集中できている。逃げること、邪魔を切り捨てること、すべてがスムーズに事が運ぶ。


 身体強化にも慣れてきた。出力を少しづつあげてはいるものの、後方の魔物の進行にも慣れがある。彼らの速度が上がっていくのと、セツナの出力が上がるペースは、ほとんど一致していた。


 魔力の消耗は、ほとんどなかった。

 今のところ消耗しているのは精神力と、ヘッドライトに回す魔力くらいだ。肉体にも疲労はたまりつつあるが、今は論じていられない。セツナは後でどれだけの地獄を味わうとしても、今を生き延びることを優先していた。


「っ?!!」


 何度目かの警笛の後、セツナは正面にほかの人間の気配を感じた。

 笛の音を聞いたのは良いが、逃げる速度が遅い。このままでは、スタンピードの本体と合流してしまう。感じる魔力量も低く、とても対応できるようには思えない。


 しかし、避けようにもその場所までは一本道のようで、横穴などはなかった。なんという不運だろうか。洞窟を走り続けていると、やがて追いついてしまう。

 見えたのは、パーティーだった。3人の男性パーティー。それぞれが大荷物を抱えながら、離脱している最中だったのだが……セツナよりも一つランクの低い、Cランクの傭兵と思われた。この道は一直線で、その先はまだ暗くて見えない。


 轟音とともに魔物を大量に引き連れてきているセツナを見てこの世の終わりのような表情を浮かべている。……本来なら、このまま見捨てて突き進むのが、正道なのだろう。


「やべぇっ?!!」

「いそげいそげ!!」

「無理だ!早すぎるッ!」


 だが、彼女は一瞬たりとも葛藤しなかった。ここまで魔力を温存してきた、その使い道がようやく訪れたのだと、思った。


「失礼、しますッ!!!」


 セツナは、足から魔力を放出した。激烈な加速。弾丸のように魔物どもから距離を離し、三人の青年たちに詰め寄る。その接近を、彼らは反応できない。セツナは一時的にSランクに肉薄するほどの加速力をたたき出したのだ。3つも位階が違えば、彼らの動きなど、セツナには止まっているも同然である。


「ぬぅ、ぁぁああッ!!!」


 そして気が付けば、セツナによって三人とも、前方の壁際まで、全力で投げつけられていた。走るよりも、投げたほうが早い。30mは距離を稼げただろうか。三人とも絶叫しながら、前方へ弾丸のように飛ばされる。死ぬことはないだろうが、多少のけがは勘弁してほしい、とセツナは思った。


 びきりと、左肩に鋭い痛み。無理な姿勢からの投げであった。これ以上動かせば、左肩は壊れてしまう。のちの消耗を考えると、これ以上のダメージは許容できない。しかし。


「ぜぇいッ!!!」


 ━━関係ないと、言わんばかりに、次の瞬間、セツナは抜刀し、地面をあらん限りの魔力と実力を持って叩き斬った。


 魔力を極限まで運用し、地面にたたきつける。”魔力斬”と呼ばれる基本的な遠距離攻撃。”斬撃”の性質を強化して飛翔させる、初歩の技である。


 しかし、欠点として……大量の魔力を消費する。身体強化などとは違い、性質上魔力を打ち出すのと変わりないためだ。


 轟音とともに、引き裂かれた地盤とともに、セツナとその背後の魔物たちが落ちていく。まるで滝の流れのように、壊された一帯から魔物たちの重みに耐えられずに次々と後方の魔物たちが居る床も抜けていく。


 青年たちが投げられてから起き上がったころには、セツナが何をしたかを悟り、彼らはその犠牲に報いるために、痛む体を引きずりながらも先を急いだ。

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