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「マイナープレデター。前にアタシたちが森に行った時には姿はなかったよな。」

「ええ。アレは幸運でした。ユニタイト鉱石の鉱脈には陣取っていると思っていましたが、近くによほどいい鉱脈があったのでしょう。」


 マイナープレデター……鉱夫狩りと呼ばれる彼らは、その名の通り、希少鉱石の近くを縄張りとする種族である。鉱石を主食とする魔獣などを主に捕食し、時には坑道を害する強大なワーム系の魔物も群れで立ち向かう種族だ。


 彼らは洞窟などの鉱脈が多い土地に生息する。セツナたちがユニタイト鉱石を掘りに行く際に語っていた脅威は、彼らのことだ。アウルムの森には彼らの部族が存在することが確認されており、やはり彼らの支配領域では行方不明となる傭兵が多発している。


 彼らは多くの能力を保持しているが、特に強力な性質として語られるのが、無音での行動である。

 彼らは空気を揺らすことなく行動が可能であり、まったく気配を悟らせない。

 音響系や魔力波動系など、いくつもの索敵魔術がこの世界には存在するが、彼らに対して唯一有効な索敵術式は”視覚共有系”のみとされ、それら以外は不明な手段で回避される傾向にあるという。


 開けているアウルムの森とは違い、大霊洞は薄暗く、仲間を見失いやすく、死角も多い。


 少人数での探索は自殺行為。最低でも4人のパーティーを組むことが推奨され、互いの背中を守りながら、離れず、互いに声を掛け合っての探索を推奨される。


「で、後二人はどうすんだ。アタシを入れても、あと一人は必要なんだろ。」

「それが問題なんですよね……ワードさん。誰か心当たりとかってあります?」

「ねぇよ。少なくともアタシやおめぇの足手まといになるやつくらいしか思いつかねぇ。」


 今彼らが居るのは、傭兵ギルド据え付けの酒場である。ワードを依頼受諾メンバーに追加するための手続きのついでだ。彼女も暇ではないのだが、彼女は彼女の都合で仕事の日程を調整できるほか、直近に仕上げなければならない依頼は受けていない。加えて言えば、セツナから提示された報酬(オールドギアの残骸)が魅力的だった。


 オールドギアの素材は慢性的な供給不足であり、ワードも仕入れの手段に悩んでいたのだが、一機丸ごと仕入れるとなれば、しばらく素材に困ることはなさそうだったのだ。


「……………セツナ。」

「……いかがされました?」


 そのような会話をワードとしていた折、隣で静かに食事をとっていたアルテミシアが、セツナに声をかける。先ほどから黙り込んでいたので、何かあったのだろうかとアルテミシアに視線を向けて……その目線の向いている先を見て気が付いた。かすかにだが、意識がこちらに向いている。それだけならほかの傭兵からもちらちら向けられているので気にしないのだが……。


「……まさか。」

「聞かれていたぞ。私たちを、ピンポイントにだ。」

「……!」


 びくり、と視線の先に居る……こちらに背を向けているフードを被った人物が震えた。

 同時にセツナは、素直に驚いていた。アルテミシアのように術式の発動を隠されなければ、たいていの魔術行使には気が付ける自信があったのだが、その人物に焦点を合わせて、ようやく盗み聞きされていることに気が付いたのだ。


 繊細さでいえばアルテミシアをはるかに凌駕するだろう。……というより、いかにしてセツナはアルテミシアがこれに気が付いたのか、聞いてみたい所存であった。


「盗み聞きとは感心しないな。………私たちがカウンターで手続きをした前後から、聞いていただろう。」


 アルテミシアは集音魔術で聞いているであろうその人物に対して告げる。開いた口が塞がらないとはこのこと。セツナはワードと目を見合わせ、内心感嘆する。


 件の人物は、震えながらもアルテミシアの言葉に反応して、セツナたちの座るテーブルに近づいてくる。

 その人物を、意外な人物が知っていた。


「おめぇ……ユリオットじゃねぇか!」

「ううぅ、ごめんなさいぃ……!!声をかけられなかったんですぅ!!」


 ぼろぼろフードの下から現れたのは、長い金髪のエルフ耳の女性。背は低いが、そのスタイルはセツナやアルテミシアよりはるかに女性的である。


 そんな彼女は、まるで幼子が親に飛びつくように、ワードに抱き着いては、ぐすぐすと嗚咽を上げながら泣き始めた。



*  *  *



「………なんと、お知り合いでしたか。」

「あ、なんつーか、幼馴染ってやつだ。里にゃ珍しいエルフでよ。アタシらはアールヴヘイム(地底妖精圏)の出身なんだが、はるか昔に地下に流れてきたエルフの末裔なんだとさ。」

「これはまた、珍しい地名だな。」


 アールヴヘイム。別名:地底妖精圏。妖精種や、妖精を起原に持つ人類種たちが住まう領域であり、大陸北西部にある”北部妖精諸島”の地下領域に存在する。きわめて神秘度が高く、里の住人以外は出入りが困難であり、入り口は危険度SSランクの妖精鉱山からのルートか、危険度こそは低い物のそもそも海底に存在するメルヴィル(沈んだ)ヴェイガス(繁栄)からのルート、あとは北部諸島のどこかにあるとされる妖精宮殿からの3ルートからしかない。


 里の住人はほとんど外に出ないとされ、また北部諸島を治める『妖精女王』とのコンタクトの困難さから、国家ではなく未踏破領域としてその地の探索に臨んでいるのか現状である。


 セツナのいつか行ってみたい未踏破領域ランキングでは、堂々の1位であり、実力が付いたらしばらくそっちに遠征するつもりだ。


「あぅ……おはずかしいところを……おみせしました……」

「すまねぇな。こいつは昔から臆病な性格でな。」

「不可抗力でしょう……お気になさらず。」

「………。」


 ワードの胸の中でひとしきり涙を流して、ようやく落ち着きを取り戻したユリオットは、それでも少し居心地が悪そうにしていた。過失、というか友人に声をかけたかっただけとはいえ、セツナたちの会話を盗み聞きした形になったのは彼女としても不本意ではあったらしい。


 そして、セツナは彼女が最後のパーティーメンバーにいいのではないか、と不意に思った。繊細な魔術行使ができるのは得点が高い。魔力波動を検知する魔物も多いため、魔術の行使は基本的に敵の索敵に引っかかるのと同義である。しかし、ユリオットならその心配もぐっと減るだろう。問題は、彼女の自由意志なのだが……と、セツナが考えていると、不意に同じことに思い至ったワードが、にやりと笑みを浮かべた。


 あ、ダメな奴かもしれない。セツナは心の中でユリオットに黙とうをささげた。……彼女の勘は当たる。この流れは、ユリオットに対して気の毒なほど悪い流れだ。


「……だが、都合は良いな。おい、ユリオット。お前、アタシらと一緒に鉱石掘りに行かねぇか?」

「ひっ?!い、いやですぅ!あんな怖いのがうようよしてる場所なんてぇ!!」

「決まりだ。セツナ、アル。……こいつはアタシが何とか説得するから、メンバーはそろったということにしてくれ。

 何、腕は保証する。……こいつの魔術は一級品だ。足手まといにはならねぇよ。な、そうだろ?」


 涙目で抗議するユリオットを、笑みを浮かべたワードがまるで子供を相手にするように対応する。

 セツナとアルテミシアは、苦笑を浮かべながらも二人の会話の様子を見守り続けた。


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