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 その日一日を、セツナたちは思う存分、観光に使うことにしていた。


「故郷にはこのような店はなかったな。ここはどんな店だろう。」

「美容品の店ですね。傭兵は見た目にも気を使うことが多いので、利用する機会はままあるとは思いますよ。」

「そうなのか?」

「護衛依頼などはそうですね。身分の高い方を護衛する際には、見た目の美醜なども条件にされます。アルなら、その条件はフリーパスだとは思いますが。」

「う、うむ。……だが、知らない者から評価を受けてもなぁ……」

「違いありません。」


*   *   *


「あ、少々お待ちを。私、定期購読を滞納しすぎていたので……」(「週刊・魔法理論」購読者)

「……定期購読?」


*   *   *


「おお、高いな……」

「装身具の店ですね。……おお、私の全財産の数倍はありますね……」

「だが、不思議と目を奪われる美しさだな。」

「良い鍛冶師が作ったものには、人の目を引き付ける不思議な引力を持つものもあると聞きます。

 きっと、高名な方が作ったものなのでしょう。」


*   *   *


「おう!そこの美人の嬢ちゃん二人!見たところ傭兵かい?どうだ、良い話があるんだ、お茶でもいっぱいどうだ?」

「………この街にもいるのだな。こういうのは。」

「むしろここが一番ですね。行きましょう。」


*   *   *


「おお、近くで見ると、首が痛くなりそうだ。見上げるのも一苦労だぞ。」

「商業ギルドのセントラル本部、ですね。この辺り、店も品位が高いものばかりでしょう。

 これだけ高い建物は目立ちます。ギルド本部は利用頻度が高いこともあり、世界でも有数の一等地でしょう。」

「ここに店を出すには、相応の格が必要なのだな……」



*   *   *



「聞いてはいたが、毎日がお祭りのようだな……んぐっ……故郷ではこんなに人であふれることなんてないぞ。」

「それは同意します。あぐっ……ですが、世界のどこを見渡しても、ここ以上に人であふれている場所はありませんよ。」

「むぐむぐ、みゅ~~♪」


 都市の人口は多いため、有事の際には避難が滞る可能性がある。こうした事態を避けるため、都市の要所のいくつかの場所には避難場所として広場が設けられており、平時では広すぎる都市を進む際の休憩所や、住民の憩いの場として機能している。


 セツナたちが居る東区画にある広場は、そんな意図で設計された広場の一つだ。

 店で買った食べ物を広場の端にある椅子に腰かけ、頬張りながら噴水を眺めている。


 二人の馬車はすでにギルドに預けている。内容物の積み下ろしは依頼済みであり、しばらくすれば滞りなく依頼主(ワード)に届くだろう。


 日ももう落ちかけている。一日で回り切れるほど、セントラルという都市は狭くない。四分の一も二人は見回ることはできなかったのである。


「名残惜しいですが、今日はここまでですね。また今度、今度は西区画を巡りましょうか。」

「地図によれば、技術区、というやつか。」

「ええ。」


 セントラルは東西南北の大通りに沿った区画に、それぞれ多くの店や建造物が存在するが、そのすみわけがある程度なされている。東は商業区。西は技術区、北は居住区で、南は集積区だ。無論、それぞれ完全なすみわけがなされているというわけではない。


 商業区にも鍛冶屋はあるし、居住区にも飲食店はある。理由は、それぞれのギルドの存在だ。

 商業区には商業ギルドが、技術区には魔術師ギルドが、居住区には傭兵ギルドの存在があり、セントラル大通りという一等地に店を出す理由の一つは、ギルドからの距離が近く、サポートや恩恵を受けやすいことにあるからだ、


 今回セツナたちが巡ったのは東区画。そこで買い物を楽しんだり、新たな技術で作られた魔具などを見に行っていたのだ。


 なお、余談としてセツナが前に赴いた超巨大商業施設・メビウスは南の集積区の外縁に存在する。これはメビウスはもともと巨大な物資集積場であったものを流用したためである。


「では戻りましょうか。明日はアルの傭兵登録を済ませなければなりませんし。」

「む……緊張するな……セツナには道中、教えてもらったのはそうだが……」

「まぁ、試験については毎日受けられる簡単なものです。肩の力を抜いていても問題ありませんよ。」


 日が沈み切る前に、傭兵ギルドのある北区画へ戻る二人。

 そう。何を隠そう、アルテミシアはまだ傭兵としての登録を終えていない身。

 セツナは傭兵であり、冒険についていくにしても、生活のためにはアルテミシアも傭兵になったほうが効率がいいのだ。


「……だと、良いのだが。」


 ただ、アルテミシアにとっては生まれて初めての試験である。他者に自身がどのように客観的に評価されるのか、見当もつかない。緊張するのも無理はないことだ。


 そうこうしているうちに、傭兵宿舎にたどり着いた二人。

 傭兵宿舎、とは言うが。同行者の宿泊も傭兵が申請すれば認められる。セツナたちは夕食をギルドの酒場で済ませると、翌日に備えて早めに就寝することにしたのであった。



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