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(ああ、私ならできる。……まだ、道はある…!)


 上空に、まっすぐ真上に吹き飛ばされた…いや、"そうなるように力を操作した"彼女は、最後の力を振り絞る。何も見えない。何も聞こえない。


 自身の身体が、末端から凍っていく気配を感じる。爆発は彼女の装備から保温機能のほとんどを奪っている。装備のあちこちが破け、形が保たれているだけでも奇跡だ。もう、数分も持たない。


 だが、彼女には、確信があった。


 今この瞬間、彼女は、絶対に追撃されることがないということを。あの敵の使う閃光は、魔力のエネルギーを転用したものだ。強力かつ強大ゆえに、その攻撃はあの部位に負担をかける。ゆえに、その直後から数秒は、索敵のための魔力波動を撃てないのだろうと踏んだのだ。


 実際、あのレーザーを放った後、追撃をかければ確実にセツナを仕留められる状況で、敵は動いてこなかった。十数秒の膠着の後に敵がようやく索敵を始めたことを考えると、理由はそれしか考えられない。


 ……彼女の上昇は、止まらない。まるで重力など、忘れてしまったかのように、高く高く、飛ばされていく。


 自身にかかる、力の操作。

 彼女は有ろうことか爆発の威力をそのまま推進力に変え、さらに()()()()()()のである。


 彼女の狙いは、たった一つ。乾坤一擲。全身全霊の一撃を叩き込むため。


 息ができない。音も聞こえない。ただ、寒い。たった一つの情報しか周囲から得られないとしても、セツナはさらに上を行く。


 自身の体の限界。そのぎりぎりまで。


 彼女の体が、ついに限界高度までたどり着く。そこでようやく彼女は一度刀を鞘に納め、懐から瞬間治療薬をとり、口に放り込んだ。すぐさま、彼女の眼が治療されていく。最後の一撃を叩き込むのに、彼女の双眸はやはり必要なのだ。


(━━━━━ッ)


 そこで目にしたのは、絶景。

 煌めき輝く、闇の霊峰。雲に隠れて見えなかった、その全貌が見える。


 空は黒く、昼だというのに星々が映る。陽の光などお構いなしといわんばかりだ。


 吹き上がる魔力が、この霊峰の恐ろしさを物語る。

 今この瞬間、セツナは、踏み入ってはならない領域に足を踏み入れていることを理解した。


 それでも。


 その光景は、命を懸けてでも、見る価値のある光景だと、セツナには思えたのだ。


(そうだ。私は……この光景を見るために。)


 彼女の源流が呼び起こされる。

 初めて孤児院を飛び出したあの日、彼女を突き動かしたのは、輝かしい光景をどうしても見たいという衝動であった。


 炎の大地。蜂蜜の湖。地底の星々。神秘の島。彼女を冒険の世界へと駆り立てたのは、彼女を導く師匠の語る、冒険譚。


 その果てに、彼女はここにいる。


(死ねない。諦められない。必ず、この試練を超えてみせる……!)


 あの霊峰の果て。いまだ誰も到達できていない頂点が、かすかに見える。

 未踏破領域の最奥。世界最後の秘境。


 あの場所にたどり着くまでは、彼女は止まらない……!


 どくん、と、セツナの魂が鼓動する。

 彼女の身の内から、堰を切ったかのように、魔力があふれてくる。

 感情が止まらない。死の淵において、原初の思いを再認したセツナの魂には、衝動があふれていた。


(決着をつけるぞ……オールドギア!!)


 魔力を放出し、セツナは流星となった。

 暗い空から、一筋の輝きとなり……セツナは再び、地上へと落ちていく。


 その身に、奇跡を、英雄の証を宿しながら。


*   *   *


「まさか、本当に……!」


 驚愕は、最高潮に。

 ()()()()()()()()()()()よりも、なお理解しがたい現象が、そこにはあった。


 魔力は、溢れない。

 普通はそうだ。本人の意思に呼応し、魂より生成される魔力は経験によって上昇した位階に左右される。

 そのメカニズムはまだ不明な点が多い。神秘の領域ではあるが、経験則によってすくなくともそうであることは、明白である。たった一つの、例外を除いて。


 しかし、セツナは今、その摂理を覆した。たった一つの例外に、彼女は到達したのだ。


 世界の摂理を覆す、ただ一つの例外。

 強大な自意識が、自身の魔力のみならず、周囲の魔力すら支配下に置く。


 環境に存在する外魔力(マナ)を、身のうちより生成される内魔力(オド)に染め上げる。


 この不条理、この奇跡。これを成し遂げられる者のみが、二つ名持ち(プラチナランク)へとたどり着けるのだ。


『■■■■■■■■■■■■■■■!!』


 超音速で降り落ちるセツナに、オールドギアが反応した時には、すでに手遅れであった。


 それは、オールドギアの、致命的な構造的な弱点。魔力センサーの復旧に、時間をかけすぎてしまったこと。あとほんの数秒、修復が早ければ、セツナの渾身の一撃を回避することはたやすかっただろう。


 それが、明暗を分けた。


 雄たけびのような機械音を上げ、六本のサーベルを反射的に振り上げる。


 拮抗は、一瞬だった。


 セツナの振り下ろした刀が、その六本のサーベル砕き……


「おおおおおおおおっ!!!!!」


 オールドギアの巨躯ごと、まとめて叩き割った。



 魔力を推進力とした超加速。攻撃の瞬間に発動させた身体狂化(2ランクアップ)、さらには加速によって生み出された勢いを、すべて自身の刀の先に集中させて放った一撃。


 後のセツナが、自身の技を振り返り、”第三秘閃・大墜閃”と名付けることになる、彼女の代名詞の誕生であった。


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