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「ずいぶん溜まってきた、といったところでしょうか。」
そろそろ死骸の山の規模が大きくなってきた。と言えるだろう。
大量に積まれた食事の山を求めて、セツナを襲うばかりではなく、多くの魔物がその主導権を得るために互いに争いを始めている節もある。
もはやこれはセツナ一人を目標とした戦いではなく、詰みあがる栄養を得ることを目的とした戦いになりつつあった。
セツナ一人が持ち運べる量はすでに大きく上回っており、あたり一面、そこら中に魔物の死体が転がっているのである。
「っと、そろそろ始めませんと。
……強いのに察知されると、少し不味いかもしれませんね。」
頭上を通り過ぎる氷の弾丸を避けながら考える。これ以上続けるのも悪くはないが、あまり長引かせすぎると、強大な魔物を呼び込む恐れもある。ここは序地であるため、魔物はどれだけ高く見積もってもSランクだが、命名指定級やそれに準ずる魔物が現れないとも限らない。そろそろ動きどき、である。
「よし、では……!」
身体強化を発動し、自身の膂力を引き上げる。多くの死体が折り重なり、山のように積まれたそれの一部分を、セツナは思いっきり引き抜いた。
「おおっ、なかなかこれは!ふっ、ほっ!!」
忘れがちだが、セツナは位階が上がっているため、想像を超える膂力を持っている。セツナはBランクでは馬車を片手で投げ飛ばせる程度だが、Aランクともなればその5倍以上は片手で投げ飛ばせるレベルとなる。
無論、しかるべき地盤や準備があってこそ、ではあるが。その膂力を用いればこそ。セツナは重さ約1トンは超えそうな魔物の死体の塊を、両腕で持ち上げたのだ。
当然集中的に攻撃を受ける彼女だが、すべての魔物が、というわけではない。
……それよりも多くの魔物の死体が周辺に転がっているため、彼女が持ち出した程度の量では動かない魔物も居るというわけなのだ。
より多くのエサがある方に目を向ける。生物の本能としては何より正しいその動きを、セツナは利用した形になる。
「くぅ!一筋縄ではいきませんか!!」
思いっきり一度死体の塊を放り投げ、敵の攻撃の回避と対応に専念する。
両腕がふさがっていては、どうしても足だけで回避しなければならないが、身体強化中でもそれは難しい。普通の地面ならまだしも、ここは雪の深い場所。踏み込みに力を入れれば入れるほど思うような動きが難しく、回避の難易度を大きく上げていた。
一度対処しきって、落ちてきたそれを両腕で支えるようにしてキャッチ。再び走り始める。かなりしつこく追いかけてくる魔物も居たが、先ほどまでよりははるかにましであった。
「?!」
キャッチして着地したその瞬間に、目の前に現れたのはウィンタードレイク。白い体色の蛇のような魔物である。回り込まれたわけではない。この場所に元から潜伏していた個体のようだ。その大きな口を開けて、セツナがその顎にとらわれるのを、今か今かと待っている。セツナの勢いはどうあがいても止まることはない。このままいけばウィンタードレイクの口の中へ真っ逆さまだ。
「このっ!!」
セツナにできる対応は少なかったが、ここでは迷わずリソースを切っていく。着地した際にかかった脚への負担を度外視して、もう一度跳躍。ウィンタードレイクのわずか頭上を行き、かかと落しをお見舞いして頭蓋を蹴り割りながら、それを踏み台にさらに跳躍した。
「うっ…!でも、ッ……!」
脚に走る鋭い痛み。力の操作で負担を流しきれなかったのである。いつものセツナであればまだしも、今は重すぎる荷物を抱えている。いくらステータスを強化しているといっても、体は普通の人間サイズだ。抱えた重さと、そのかかる負荷に対して、それを支える脚というのが単純に細すぎたのである。
脚部への負担は戦闘においては避けるべきだ。これを避けないことには長時間の戦闘はできない。
今までは自分自身や少量の荷物を抱えた程度で動き回っていたが、これからはそうもいかなくなるのかもしれない。
良い機会だし、良い鍛錬だ、と心の中で一人つぶやきながら、セツナはその難行を続ける。魔物も数は少ない割には割と執拗に追いかけてくる。そろそろ迎撃してもいいなとも思ったが、ゼンからの修行であることを考えると、それはためらわれた。
ただひたすら、逃げの一手。セツナは魔物たちを振り切るまで、小さな身には重すぎるように見える大荷物を抱えながら、雪原を走り続けた。




