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章挿入のために普段とは違う時間帯に投稿しています。この章では章終わりまでのストックが溜まるまでは、不定期投稿としています。



「……ハハハッ!!そりゃあすごいな!それで二人して生き残ったってわけか!」

「でも、最後にはあなたに助けてもらわなければ、あそこで私たちの命運は尽きていたでしょう。

 ……感謝しても、しきれません。」

「それにしても、セツナはすごいな。話が上手い。私は追体験していたかのようだった。」

「だな。嬢ちゃん、語り手の才能があるぜ。引退したら詩人にでもなってみるか?」

「詩人ですか……引退後の自分については、まだ想像もつかなくて。」


 にぎやかな話は、半日にわたって続いた。

 セツナの冒険話。アルテミシアの初めての街での話。二人の経験したあれこれを話、最後にあのウッドパラサイターとの戦いをセツナが語ったのだった。過去の話は思いのほか盛り上がった。カインも、二人の冒険話から自身の駆け出しのころを思い浮かべていた様子であった。


 森での戦闘の後だからか、アルテミシアが”かわいそうなくらいだ”と称するほどにほとんどの魔物は身を潜めていた。三人の歩みを止める者はおらず、村への最後の旅路は、この道程の中では最も穏やかなものであった。


「そろそろ見えてきたな。……あそこだ。」

「どれどれ……おお、これは。」

「クーユルドか、懐かしいな。しばらくここを拠点にしてた時期もあったぜ。」


 そんな時間も気が付けば矢のように過ぎ去り。

 村へ通じる道にある小高い丘の上から見えたのは、雪の中にたたずむ村であった。

 しかし、村というには建築物が多いような気もする。


 街ほどではないが、村というには大きいような……そんなイメージである。


 雪の中にたたずむ石造りの街並みの中に、人々が往来しているのが見える。雪が深々と降り積もる中でも、住民たちの営みが止まる様子はまるでなかった。


「行こう。まずは宿を取らないとな。私の実家は宿をやっているんだ。」

「ん?宿?クーユルドで宿といやぁ……なんか引っかかるな。」

「ともかく行きましょうか。…ギルドのショップで装備と防寒着をそろえないと、いつ薬の効果が切れるかわからないので。」

「だな。」


 立ち話もほとんどない。三人はそろって村へ通じる道を降りて行った。


*  *  *


 宿の前にまずはギルドに立ち寄った一行。カインはSSランクの命名指定級討伐の報告を行い、セツナもその報告のレポートを簡単に仕上げていた。

 傭兵の報告書は書面での提出が求められることが多い。二人して小一時間ほど魔術式タイプライターの前で報告書を作っている間、アルテミシアは一度実家に戻ることにしたため、そこで一度別れたのである。


 セツナとアルテミシアには発見と討伐に貢献した一定の活躍が認められ、報酬が出ることになった。カインだけでは討伐はできなかったので当然の報酬であったが、セツナとしては複雑な気持ちであった。


 とはいえ、カインに譲渡しようにも当人はこの程度の報酬ではあまり気持ちは動かないだろう。何かしら別の形で借りを返すことにして、この場は受け取っておくことにした。


 その後、セツナはその金で馬車と装備を新調することにした。ワードに打ってもらった(クオン)以外は低級品だったため、まったくと言っていいほど耐久性が足りなかったためだ。幸い、ここクーユルドは幻想領域に隣接しており、実力者も大勢いるため、魔物素材を使った装備がとても安い傾向にある。


 要求ステータスがBランクあり、性能も上位の品を、セツナはセントラルで購入する相場の約1/5ほどで入手出来てしまった。なお、装備については先輩傭兵であるカインのアドバイスも入っている。


「………これは、なかなかの装備ですね。」

「だろ。そいつはお前みたいなスカーミッシャーには結構おすすめだ。俺も実際使ってたぜ。」


 冬熊、ウィンターベアーはAランクからSSランクまでの強さの分布を持つ”ウッドイーター”と呼ばれる樹を主食とした魔物群うちの一種である。彼らは幻想領域の影響を受けた植物を喰い、その強靭な繊維質を毛皮や表皮に獲得している種族だ。


 防刃・防突・防温を備えた強靭な繊維を織り込んだ冬熊装備は、その装備の重さゆえにBランクの筋力がなければその動きに制限がかかるが、その重さに見合う性能を持った装備である。トレンチコートに厚手の皮で作られた鎧。金属は装備に使用されていない。この環境で通常の金属では直接肌に触れようものならダメージになるときがあるからだ。


 白いフード付きのトレンチコートに身を包んだセツナ。いつもは黒い衣装を着ていることが多いため、セツナにはこれはなかなか新鮮な体験であった。


「似合ってんじゃねぇか。」

「ありがとうございます。良い装備を教えてもらえて、本当に助かりました。」

「まぁ、そいつは今だからまだ使えるって程度だがな。ランクを上げりゃもっといいのがゴロゴロある。Sランクに上がれば装備の質は跳ね上がるぜ。」

「それは楽しみです!」


 これまでもこんなに上等な装備を身に着けたことはないと思っていたセツナだが、上等な装備にラインナップが増えるとなると、ワクワクしてきたセツナ。まだBランクでやるべきことが終わっていないのでランクを上げるのはやめているが、それが終わればAランクを飛ばしてすぐにでもSランクまでの経験を消費したいと考えるセツナであった。


「さて、俺はここまでだな。」

「おや。ここでお別れですか。」

「まぁな。苦戦しているアンタたちが()()()()()()()()()すっ飛んできたんだが、俺、ヘルンの地底に依頼があってな。」

「ヘルンの地底ですか。未踏破領域に匹敵する超高難易度領域と聞きますが……」

「おう。どうにも羽を持った魔物が発生したらしい。観測所からの依頼で、とにかくそいつが上がってくるまでにぶっ潰せって話でな。」


 そして、カインはここで別れを切り出してきた。ここまでは義理でついてきていたが、本来彼は雲の上の存在、世界最強の一角である。もともとは別の依頼があってここに来ていたはずで、その依頼をこなしに行くのだろう。それを止める権利も意志も、セツナにはない。


 なお、ヘルンの地底とは、ファールス連山の西端部に存在する、深さ約20000mの大断層である。断層の底は幻想領域となっており、魔物が発生しては食い合い、互いに育つ蠱毒のような環境となっており、凶悪な魔物が多数闊歩する超危険地帯だ。


 ウエストエリアとノースエリアの重要な交易路であり、拠点ともなっている『ヘルン機構巨橋』が断層を横切るように存在しており、橋の上に町ができ、橋の上に断層の底を覗く観測所が存在する。


 観光名所でもあり、力自慢の傭兵や冒険者が直下2万mへのダイブに挑戦する屈指の冒険名所といえよう。

 カイン・セルゲイという傭兵は、このヘルンの地底における最長滞在時間と一度の滞在での最多数討伐記録を保持している猛者中の猛者。個対群の究極のエキスパートである。ある意味、セツナの戦闘スタイルの先輩ともいえよう。


「じゃあな。アルの姉ちゃんにはよろしく言っといてくれ。」

「わかりました。ご武運を。……この借りは、いずれ必ず。」

「期待して待ってるぜ。」


 そう言い残して、彼はギルドから去って行った。

 セツナは、そんな彼の背中を見送りながら、いつか必ず彼に追いつく、その決心を固めた。

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