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「ふっ!!」


 自身に向けて殺到する枝葉たちを、一息で切り伏せる。

 ワードの鍛えた名刀・クオンは、その圧倒的な性能もさることながら、宿った刀の魂の影響からか、完全な呼応をセツナに返してくれる。


 武器への信頼。自身の命を預けるに足るそれは何よりセツナを精神面で支えてくれる。一つ間違えれば体中を穴だらけにされるような場所に身を投じることにすら、今のセツナは恐れることはない。


 ウッド・パラサイターは、元来自身と寄生した樹の付近に存在する樹々を操作する魔物である。

 寄生を行うという性質はきわめて厄介だが、樹木に寄生する関係上、その場から動かない、動けない。

 対処法は簡単で、一番は周りの木々ごと焼き討ちすればいい。性能は上がっているとはいえ所詮は木なので、魔術的な炎を叩き込んでやれば森林火災のリスクと引き換えに、確実にこいつを処分できる。


 しかし、それは通常のウッド・パラサイターであればの話だ。


 この命名指定級……”ゲルダ・ザ・フォレストビースト”はきわめて広大な領域への浸食能力を手にしている。

 加えて、命名指定級でありながら、その場から動かないこの魔物が長きにわたって討伐されないことはありえない。何かしらの手段で、この魔物が移動が可能であることは考えるべきである。


 セツナとアルテミシアには、この暗黙の了解がすでに両者の間に存在していた。


 そして、それをあぶりだす手段も。


「よし、やるぞ!」

「お願いします!!」


 アルテミシアの矢が放たれる。先ほどと同じ、簡単な発火術式を込めた矢だ。空中で魔法陣を展開し、その魔法陣を潜り抜けさせるように矢を放つことで、通り抜ける矢を発火させるのだ。ついでに、その火は作用を強化させている。


 先ほどとは違い、枝葉も根も斬られている樹々では対処のしようがない。身をよじらせて消そうとするも、やがてその炎は樹々全体に及び、そしてそれらは他の木々へと飛び火していく。


 今、ウッドパラサイターは困難な局面に直面していた。


 自身の手足、端末となる木々は無限ではないが大量にある。時間さえあればそれらを前線に押し出して押しつぶすことは可能だ。しかし、今森の木々の中で暴れまわっているセツナには、今自身がどれだけの攻撃を叩き込んでも死ぬ気配が見えない。


 理由簡単だ。ウッドパラサイターはSSランクの魔物である。しかし、木々に寄生する性質の関係上、その脅威度は付近の木々の質に左右される。凍土の木々ではあるが、神秘性のないこれらではせいぜいがAランクが限度だ。これがファールス連山中腹の、本来この魔物が居るべき場所の強い木々で在れば、脅威度はSSランク……場合によってはSSSランクにまで跳ね上がっただろう。


 しかし今はそうではない。セツナにどれだけ葉の刃を、根の槍を、蔓の鞭を、枝の弾丸を打ち込んでも、ことごとくを引き裂かれ、いなされ、叩き落される。


 放置していれば端末を切り倒される。

 仮に放置せずにセツナに対してリソースを消費しても、リソースが足りなくなった端からアルテミシアの火矢が飛ぶ。


 最初の一斉射撃で仕留めきれず、次にアルテミシアを攻撃できるように準備をしようにも、その時間を与えてくれない。


 ジリ貧という言葉がこの上なく適合する、二人の包囲網。

 反撃の機会を待つべく、力を蓄えるのとセツナの攻撃への対処を同時に行いながらもこれをしのぎ切るのは、至難の業であった。


「っ、と。まだまだですね。」

「順調だが、まだ追い込み切れていない。」


 対するセツナとアルテミシアだが、セツナはともかくとしてアルテミシアに余裕がなかった。


 疲弊を気力で隠してはいるが、最初の枝の雨を防ぎったあの魔術の消費魔力はかなりのものであったため、余裕がこれっぽっちもなかったのだ。


 火矢の残数はわずかであり、アルテミシアに向けて再度一斉攻撃を仕掛けられれば、セツナではアルテミシアをかばいきれない。彼女は彼女自身が切り抜けられているという時点で異常であり、それに加えてアルテミシアをかばえというのは、無茶にもほどがあるというものである。


 しかし、アルテミシアはこの戦闘において攻略の鍵を握る人物といってもいい。セツナとしてはアルテミシアが居なければ詰めを行うことができない。彼女が戦闘不能になるまでに、なんとしてでもウッドパラサイターを”削り”切らなければならなかった。


 ウッドパラサイターがアルテミシアを仕留める算段を整えるか、あるいは二人が先に仕留めるか。

 互いが互いの喉元へ突き出すナイフを研ぎ上げ、先にとどめを刺した方が勝つ。


 互いの命をどちらが先に奪うか。

 これは、そういう争いであった。


「なぁ、セツナ。」

「……なんでしょう。」


 しかし、いくらカギを握るのがアルテミシアといっても、この状況を見ると、セツナは一人でもこの森から切り抜けられるだろう。……村への道筋は知らなくとも、ある程度近づけば助けを呼べる。


 ……アルテミシアをかばいながら進むのは無理でも。

 セツナ一人なら、助けを呼びに行けるはずだ。


 少しだけ芽生えた罪悪感。自身のために、他者を殺すくらいならと、アルテミシアは告げる。


「……私を見捨てて、村へ助けを求める、という手もあるが、どうだ。」

「遠慮します。私、自分のために他者を諦めるような真似は、あまり好まないものでして。」


 だが、セツナは、アルテミシアの暗い感情を払拭するように言葉を返した。一分の迷いもなく。


「では、続きと行きましょう。

 ……この戦い、我々は一蓮托生です。どちらが欠けても、アレはどうにもできない。そうでしょう?」

「……ああ、まったくその通りだな!!」


 アルテミシアは残り少ない魔力を回しながらも弓を構え、セツナは再び刀を構えて森の中へと進撃する。

 二人で生きるための戦いは、正念場を迎えつつあった。

 

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