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今日から毎日12時に予約投稿をセットしています。第三章完結まですでに予約投稿済みです。なお、章タイトルが間違っていたので、今更ながら訂正しました。


 アルテミシアのとの道中は、セツナにとってはとても刺激の多いものだった。


「まさか、魔力操作にそんな技が……?」

「ああ。難しいが、足音を極力消すことができる。音に敏感な獲物を狩るのに有効だ。」


 馬車をほとんど揺らさずに跳躍する技術の応用から生み出された、無音の跳躍術伝授してもらったり。


「………難しいですね。」

「すぐにできるさ。私もそれほどかからなかった。」


 強力な探知力の源泉である、微罪な魔力波動の感知に挑戦してみたり。


「……すさまじいな。」

「私のこれは、まだ完全ではありませんが。」


 逆にアルテミシアに、魔力を用いた力の流動について教えてみたり。

 二人の道中は、己が持つ技術の交換品評会のような様相を示していた。


 セツナの持つ技能に、アルテミシアは強い関心を示していた。

 セツナのそれは大抵、師が”冒険者なら必須”と告げ、冒険者を目指す自分なら覚えておくべきものだとして、鍛錬して習得したものだ。


 しかし、冒険者の内部事情などあまり知らないアルテミシアは、それら技能の存在自体知らなかった。転用も多く可能なこの技術は、一朝一夕で習得できるようなものでもないが、アルテミシアはセツナのレクチャーを受けながら、試行錯誤を繰り返していた。


 そんな二人の時間は、矢のごとく過ぎ去っていき。


 二人がようやく満足したころには、村への道程における、最後の転移ポータルが目の前にあった。

 ポータルは小規模ポータルであり、若干の物資の集積を行うだけの小屋と、馬車用の替えの馬をつないでおく小さな厩舎があるくらいだ。


 連邦が有する大規模貿易ルートの末端に位置するこの場所は、ファールス連山、千年雪原、ヘルンの地底の三つの幻想領域の干渉地点であり、脅威があまり訪れない、魔術学的な安全地帯である。逆を言えば、この先、ここを除くすべての場所が……クーユルドの村も含め、Bランクの危険地帯である。


「ではいきましょうか。」

「うむ。」


 しかし、そんな危険地帯だろうと、二人の足取りにためらいなどはあるはずもなく。

 二人は、目的地までの最後の行進を開始した。


*   *   *


 馬車を利用して危険地帯に入るとき、傭兵たちが気を付けなければならないことはいくつかあるが、その中でも致命的になりうる要素が、馬車を引く馬である。


 傭兵は切り抜けられる。だが馬はそうではない。常に落ち着かせなければいざというときにたよりにならない。荷物を置き去りに走り去られる程度ならまだいいが、騒ぎたてて強大な捕食者を呼び寄せられてはたまったものではないからだ。


 身を守ることはできても、積み荷を守れなければ依頼失敗……ということもある。今回は絶対に守らなければならない、というわけでもないが、それはそれとして気が引き締まる思いのセツナであった。


「む。」


 村へ向かう最後の道は、ファールス連山の裾野に存在する森林地帯の奥深くに続いている。

 当然、山から下りてきた魔物の巣窟だ。二人はそれを承知でここに入っているし、常に臨戦態勢に入る準備はできている。


 セツナには何も感じられなかったが、アルテミシアには何か感じられたのだろう。そっと気を引き締める彼女だったが。次のアルテミシアの言葉に、彼女は妙な胸騒ぎを覚えることになる。


「森が静かだ。………これは、まずいかもしれない。」


 静かだというのは、どういうことなのだろうか。

 セツナには理解が及ばなかった。が、少なくとも不味いことは、何となく察している。


 どこか硬い表情のアルテミシアは、すでに背中の弓に手をかけている。


「引き返した方がいいのかもしれないな。」

「構いませんが、村は?」

「村がどうにもならないなら、それこそ私たちにはどうにもできない。

 ……父も、”あの人”もいる。心配はいらない。」

「……あの人?」


 あの人、というのは誰のことだろうか。セツナが一瞬アルテミシアの言葉に思考を傾けたその時。


「「……!!」」


 全身を、途方もない悪寒が貫いた。


 それはアルテミシアも同様であったようで。

 二人はともに馬車を捨て。反射的に雪の中へと身を投げた。


 次の瞬間。セツナたちの馬車があった地面の下から、何かが吹き上がるように飛び出してきた。

 それが何なのかは、すぐには理解が及ばなかった。


 少なくともそれらは悲鳴一つ上げさせることなく、馬車を引いていた馬を貫き、絶命させていた。


 体勢を立て直し、ようやくそれを観察できる余裕はできたところで、二人はその正体に気が付く。


「巨大な……」

「根だと……?!」


 吹き上がるようにして10m以上も飛び出ていたのは、明らかに木の根のようなものであった。

 それらは互いに絡み合いながら、鋭利な根の先で馬車をバラバラに引き裂き、解体していく。いとも簡単に。


「ばかな……!こんな麓に、居るわけがない!」

「これが何か、知っているのですか?!」


 その様相に、ようやく何かを掴んだのか、アルテミシアが驚愕の声を上げる。


「ゲルダ・ザ・ビーストフォレスト……!」

「まさか、命名指定級……?!」


『YIIIIIIIGYAAAAAAA!!!!!!!』


 魔物の”名”を告げられたと同時。森林を震わせるほどの咆哮が放たれた。 

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