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「すまない、少しいいだろうか。」

「なんでしょう?」


 翌日、スヴァルバードを出発するため、馬車を受け取りに馬を預けていた温泉に向かうと、声をかけられたセツナ。


 声をかけられた方を向くと、そこには獣人の女性の姿が。

 耳の形から、おそらくは狐の獣人だと、セツナは察する。


 この世界の獣人種は、基本的に人間の体に動物の特徴を有した種族が多いが、見た目でいえば耳の位置が違ったり尻尾があったりなかったりする程度の違いしかない。身体能力や腕力、五感などは人類よりもはるかに高い。


 反面、種族によっては食べられないものがあったり、特定の地形が苦手だったり、遺伝的に不適な要素が生活や冒険の中でいくつか紛れ込んでいるため、少々生活しにくいところもあったり、種族によっては寿命が短かったりもする。


 声をかけてきた狐の獣人は、小麦色の髪と尻尾を持った、セツナよりも背の高い、落ち着いた雰囲気の女性であった。見覚えもなく、声をかけられるような覚えもなかった。


 見たところ、大型の鉄弓を持っており、傭兵のような出で立ちに見える。何かの依頼へ誘いだろうか。

 しかし、セツナの予想に反して彼女からの申し出は、受け入れるにはたやすいものだった。


「実は、貴女の馬車がクーユルドに向かうということを聞いてな。私も故あって、そちらに向かっているのだが、足がなくてな。報酬は支払う。どうかその馬車に、相乗りさせてはくれないだろうか。」


 この世界での主な長距離移動手段は、船舶、馬車、飛竜、転移ポータルの四つだ。ただし、飛竜と転移ポータルはコストが高い。転移ポータルは往復20万ゴールドも必要であり、飛竜は転移ポータルよりは安上がりだが、ファールス連山に近づく場合、危険度SSランクの極限地帯である『飛竜渓谷』の影響を受けやすく、普通飛竜を使っての北への旅は敬遠される。


 馬車は時間はかかるがローカルな交通網としての整備が進められている。現代でいうところのタクシーやバスがこれにあたる。今回セツナはレンタカーを借りているようなものだ。


 飛竜を除くすべての長距離交通手段は、個人では保有が難しい。今回のような僻地へ向かう場合は、普通そこへ向かう定期馬車などに相乗りさせてもらうのが一般的だ。


 セツナがクーユルドへ向かうことは隠していない。馬を預ける厩舎でセツナはこれからの行き先を話した覚えもあるし、関所などに照会をとれば、クーユルドへ向かう馬車の存在は探し当てられる。この時期に定期便がないのなら、セツナに頼るのも納得であった。


 かくいうセツナも、東の果ての神流皇国からセントラルまでは馬車を乗り継いできている。その過程では相乗りもさせてもらっていたこともあった。こうした相乗りの申請を断る理由はない。いくつかの質問や確認さえ取れれば、セツナは馬車に彼女を乗せるつもりであった。


「ええ、構いません。お荷物はいかほど?」

「今私が背負っている程度だ。」

「食料などは?」

「道中で狩りをするつもりだ。」

「おや。」


 クーユルドまでは長距離行軍になる。次の転移ポータルまでは1週間。それを超えればすぐにクーユルドだが、その一週間かかる道のりで、問題になるのは食料だ。

 一応予備の食料もある。セツナは彼女に持ち合わせがなければ、相応の代金と引き換えに食料を提供するつもりではあったが、狩りをするというのは新鮮な響きである。確かに、幻想領域である千年雪原と隣り合ったコースを進むセツナたちだ。魔獣と遭遇する可能性はなくはないのだが……


「この辺りはファールス連山の幻想領域から這い出てきた魔獣が多くてな。間引きがてらに狩りをしながら進むんだ。この辺りの狩人は、みんなそうする。」


 どうやら、狩りをしながら進むというのは、土着の文化らしい。確かにそれなら長距離移動の際に食料を携帯しなくてもいい。これくらいの僻地なら馬車なしで村から村へ移動するようなこともあるのだろう。


 もちろん、狩りをしながら進むというのはいくつかのリスクをはらんでいる。だが、セツナはこの地に住む人々が、どのようにそれを回避しているのか、ちょっと気になった。


「では、そのように。できれば、狩りの様子とか見せていただいても?」

「構わない。……ああ、そうだ。自己紹介が遅れていたな。

 私の名はアルテミシアだ。アルとでも呼んでくれ。」

「私はセツナ、セツナ・レインです。これから数日間、よろしくお願いしますね。」


 北の地への旅に道連れが一人。この時の二人には、まさかあれほど長い付き合いになるとは、思ってもみなかった。

 


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