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新章です。ストックが溜まるまで一週間に一度の投稿に戻ります。
この世界には、いくつかの小規模な幻想領域と、大規模な未踏破領域で構成されている。
幻想領域も、未踏破領域も、その原理は同じとされており、時折地形変動が起きる点も一致している。
そして、採掘された資源や伐採・採集された植物資源なども、地形変動が起きると、変動が起きた地点のそれらは元に戻る…という特徴があることから。今日のこの世界の資源事情は、未踏破領域の資源再生サイクルによって賄われている、といっても過言ではないだろう。
そのため、こういった資源採集の依頼の割合が多く、受ける機会も多いのは、当然の帰結なのだろう。
「スノーモンスターの討伐、ですか。」
未踏破領域、ファールス連山。大陸北方に存在する異常隆起した山脈群の総称。その最大標高は3万mともいわれており、ある一定の高度からは、特別な装備を要求されることで知られている。
そんなファールス連山のふもとにある小さな村からの定期依頼を、今回セツナは受けていた。
クーユルド、別名・英雄の故郷。そう呼ばれる村である。
馬車に乗り、馬の手綱を握りながら今回の依頼の経緯について、セツナは思い返す。
今にして思えば、ちょっと首をかしげたい部分もあったように思えた。
* * *
そもそも、発端はセツナの刀、クオンの代金である。
ワードに敬意を払い、セツナは一切値切ることをせず、セツナは前に自身が死にかけた大霊洞で得られた素材類のすべてを売却し、自身の貯金などもすべて支払いに充てるつもりだった。220万ゴールドというとてつもない大金だったが、傭兵としてため込んでいた名声点をすべてゴールドに変換すれば、ギリギリ手が届いたのである。
しかしながら、ワード側から金よりもほしいものがある、と申し出があった。というのも、彼女には鍛冶屋をやるうえでの、元手となる素材類がどうしても欲しかったのである。
セツナとの長期遠征で割と多くの素材をため込んだが、代わりにワードは大霊洞での大規模スタンピードによって発生する、素材の特需(とんでもない量の魔物が死に、素材となるので、一時的に素材の値段が下がる)にありつけなかったのである。もともとそれをあてにしてセントラルに来ていたので、セツナとの長期遠征は、差し引きで見るなら微妙にマイナスであった。
いつかセントラルに店を持ちたい、彼女は、そのために多くの武器を鍛え上げる必要がある。毎度のように自分で素材を取りに行くにしても、限度というものがあった。ずっと彼女が素材を取りに行くのに長期遠征を繰り返していれば、その店ができるのに何年かかるか分かったものではなかったのだ。
そこで、しばらくの間ワードとセツナは、依頼に出る際に入手した素材類を、ある程度ワードに引き渡すことで代金の補填とするという、簡単な雇用契約を結んだのである。
で、その契約に強制力を持たせるため(※1)に、傭兵ギルドを訪れたセツナたち。一応セツナもワードも傭兵ギルド所属なので、こういった雇用契約はギルドを仲介した方がいいという判断からだったが……
ちょうど窓口でその受付をしていたギルドマスターのキヤフ・モナークから、ならばちょうどいい依頼があるといって、この依頼を提示した……といった次第である。
* * *
確かに、ファールス連山は、アウルムの森とは別ベクトルで資源の多い場所だ。
厳しい寒さによって鍛えられた魔物や魔獣の素材は強靭だったり、保温性が強かったりする。加えて魔術の触媒としても、水や氷の属性に適性の高い優秀な素材が多い。
ワードに引き渡す素材としてもぴったりな素材もいくつかある。確かに渡りに船だというような依頼だったが……セツナはほんの少しだけ。
ギルドマスターがまるで自分のために用意したかのように、依頼掲示板にはなかった依頼を提示したことに……どこか、作為的なものを感じざるを得なかった。
* * *
《依頼書》
対象傭兵ランク:シルバー
想定難易度:B~
報酬:1200GP+ボーナスあり
場所:ファールス連山
概要:スノーモンスターの素材の調達
依頼期限:現地到着から二週間
依頼主より:
そういえば、奇跡の花が咲く季節だ。見に行くのは構わないが、決して取ろうとは思わないように。
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※1
その契約に強制力を持たせるため
この世界では契約ごとには、契約魔術を用いての締結が推奨されている。
特に傭兵と雇用主は依頼を受ける際、常に契約魔術による縛りが両者をつないでいる。
毎度のようにギルドのカウンターに書類を持ち込まなければならないのは、この契約魔術による処置を受けるためでもある。