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「……よう、できたぜ。」
「………。」
眼の下に、深い隈を刻んだワードから差し出されたそれを見て、息を吞んだ。壮絶な鍛冶の末、ようやく仕上がったその刀。製造過程を見ていたとはいえ、セツナは改めてそれを渡されるというときになって、手がわずかに震える。
彼女は今まで、その刀しか振るってこなかった。自分への戒め、あるいはわがままとして。
師からもらい受けたそのひと振りをただ使い続けた。
そのひと振り。彼女の半身ともいえるそれ。
その魂が込められた刀が、今彼女の手にある。
手になじむ。重さも、もちろん刀身の長さも違う。感触は違う。新たな刀なのだから、それは当然だ。
当然のはずなのに、柄を握り、試しに抜いてみても、どこにも違和感を感じられない。
セツナが前に持っていた刀よりは一回り長く、そして一回り細い。その刀身は淡い青色がにじみ、立ち上る青炎を想起させるような波紋が映し出されている。
「銘は、どうする。あんたが決めるのかい?」
「……そういうものは、刀鍛冶が決めるものでは?」
「通例はな。だがそいつはアタシの打った刀だが、アタシが魂を吹き込んだもんじゃねぇ。
それから先、そいつは何度も生まれ変わるだろう。お前さんの成長に合わせてな。
だが、その魂は変わらねぇだろうよ。なら、ソレに名をつけてやるべきだ。」
再び、刀に目を落とす。
そういえば、自分のものに名前を付けたことなど、ついぞなかった。
駆け出しのころからともにあり続けたこの刀も、名前などない。店売りの……言ってしまえば、安物の剣だ。セツナはこれに愛着は持っていたが、呼び名を考えることはなかった。
……刀を鞘に戻しながら、良い機会かもしれない、と思い直す。
これから先、ワードの言う通り、セツナはこの刀の魂を、何度も引き継ぐことになるだろう。
器となる刀の生みの親ではなく、ともにあり続けるその魂にこそ、名をつけるべきだと、ワードは言っているのだ。
「………。」
「……名は決まったか。」
「ええ。……銘は、『クオン』とします。」
「その心は?」
「終生の相方となるように、込めた願いです。最も大切なものに、末永くともにありたいという願いを込めるのは、いけないことでしょうか。」
意外なことに、セツナは迷いを見せなかった。名を決める。その段階になって、奇妙なほど簡単に、あるいは……あっさりと、その名を決めることができた。
しかし、その名が悪いものではないとセツナは感じていた。大切なものへの名前は、本来時間をかけて悩むべきものなのだろうが。その響きは、この刀にふさわしいものであると感じたのである。
(もはや二度と、手放すことはないでしょう。二度と、二度とあなたを失うようなことはしません。
……この命に代えても。)
心の底から、決意を新たにする。
傭兵や冒険者としての心構えは、今はどうでもよかった。
この相棒ともう一度ともに歩めることだけが、今の彼女にとっての喜びだった。
* * *