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探索開始から、47日が経過したころ。
「みつ、けたぁ……!!」
「ふぅ……長かったな……。」
歓喜の声を上げるセツナと、大きく声には出さないものの、喜びをかみしめるワード。
ついに、彼女たちは目当ての鉱石である、ユニタイト鉱石を発見した。
彼女たちがついでとして引き受けた依頼対象である隠形樹は、あのフルタスクボアーとの戦いの後、すぐに発見できた。戦闘中に広範囲の木々をなぎ倒していたフルタスク・ボアー。疲労から一日は放置していたが、少なからず破壊された拠点付近の防護柵やら何やらを直そうとして、近くの木材の加工に着手しようとしたところ、折られた木々の中に、偶然一本だけ隠形樹が紛れ込んでいたのだ。
当然、拠点付近だったので彼女たちも枝を折るなどして、その断面を確認していたはずだったのだが、確認してみると、枝の末端部分の偽装があまりにも精巧であり、半分流れ作業で探していたセツナたちは見逃していたのだ。
確かに言われてみれば……と思うほどに精巧な擬態。慌てて他の木々も再確認したのだが、あったのはその一本のみであった。
発見難易度がAランク、というのも納得かもしれない。枝を折るのが古典的な探索法とされていたが、それはきっと、探すことになれた者にとっては、ということだったのだろう。
失態を引きずってばかりもいられない。むしろ幸運を受け入れた二人は、依頼用の鉱石の採取を済ませて、今度はユニタイト鉱石の探索に注力した。
が、一筋縄ではいかない。この鉱石には効率のよい探索手段などなく、地道に地に穴を掘るなり、森の中に空いた、小さな洞窟の中に入って鉱脈を探すなりする必要があった。
アウルム大森林は、鉱脈が地表付近を走ることが多く、地表に露出していることが多い。目当てではない鉱石は多く発見できるのだが、肝心なものが見つかるまで長く……ようやく、今日、目当てのものを発見できた次第である。
彼女たちがその鉱脈を見つけたのは、森の中を流れる小川の中であった。川の流れは土をえぐる。鉱脈が露出していることも多く、数日前に発見した川を、慎重な探索とともに何日も川上へ上り、ようやく発見したのだ。
ユニタイト鉱石。別名を、結鉱。本来相容れないはずの性質の鉱石二種を合金として運用する際に利用され、混ぜ合わされたものの性質を一定ずつ引き出すことで知られる鉱石だ。
その性質、混ぜ合わされる鉱石を選ばない汎用性から、魔術師や鍛冶師には熱望される鉱石なのだ。
「こんなものですか。」
「だな。ここから下は別の奴だ。」
川の表面に露出している鉱脈を折りたたみ式のピッケルで掘り出しきった二人。バックパックに詰め込まれた大量の鉱石をもって、二人は悠々と拠点に引き返す。
幸いにも、ここで危惧された”脅威”と出会うことはなかった。警戒はしていたが、最後まで姿を現さなかったので、杞憂だったようだ。
* * *
彼女たちが築いた簡易拠点には、ワードが希望して掘り出していた多くの鉱石が転がっていたり、金になりそうな素材が眠っている。あとの彼女らに残された仕事は、これらの仕分けである。
傭兵や冒険者が簡易拠点を築き、長期にわたる探索を行う場合、たいていの場合はかなりの量の素材が集まることになる。理由は単純で、長期探索には金がかかるからだ。持ち込む機材、装備、アイテムはグレードの高いものをそろえるのが常であり、薬品のたぐいも安いが管理の難しい水薬ではなく、高い丸薬や粉薬を持ち込む必要がある。
このかかった費用を少しでも取り返すために、傭兵たちは素材を集め、厳選し、持ち帰って売り払ったり、ついでに依頼を受けるなどして、費用負担を軽減しようとするのだ。
そもそもポータルの利用費用だけで20万ゴールドを要求されるのだ。少しは軽減しないと、探索のたびに破産してしまう。傭兵は実入りも大きいが、出費もかさむ職業なのである。
「しかしアレだな。本職が居ると、魔物の素材の状態が良くて助かるな。
アタシじゃこうはいかねぇ。仕留めるときに無茶苦茶にしちまう。」
「私も始めたての時はひどかったですけどね。少しでも稼げるようにと、ちょっと経験をですね……」
「ははーん、なるほどな。経験が余ってるならそんな使い方もできるってわけかい。」
仕分けながらの雑談。状態が悪いもの、痛んでしまったものを分けたりなどしながら、不意にワードが告げた。
サイケディアの時もそうだったが、セツナは戦闘技巧に長けている。
しかし、これはただの修練だけでこうなっているのではない。彼女は、経験をその技巧に割いているのだ。
”経験”は、ステータスの強化に使われるのが主な使い道だが、ステータスではなく、自身の技能の向上に使われることがある。反復練習の時間を短くする、覚えをよくする、程度のものであるが。
セツナは強敵と戦う環境を作るためにわざとステータスを抑えているが、経験はあまり放置すると霧散するものだ。定期的に使ってやらないといけないため、自身の戦闘技能や、魔物や地形、地域の情報の記憶などに、セツナは”経験”を使っている。
ワードも無論、鍛冶技能の習熟などに経験を一定量割り振っている。この世界の職人と呼ばれる人種は、ステータスとは別にこうしたところに経験を振っていたりする。
「ワードさん、これ判断が付かなかったものです。あとで確認していただけますか。」
「おうよ。んじゃ、あとはこっち見てくれるか。」
「もちろんです。」
当然ながら、専門が違う二人なので、得意な素材も異なっている。
ワードはもちろん、鉱石系や魔物の素材についてはかなり詳しい。経験を振っているのもそうだが、触れる機会が多い。
対してセツナは、鉱石についてはからきしである代わりに、植物系素材や一部魔物の素材についてはかなりの知識がある。彼女は傭兵で、単独での行動も多く、現地で役に立つ物を簡易的に作ることがある。森の中で在れば薬の自作や食料調達だって強いられることがあるので、そのあたりの知識は頭に叩き込んでいる。
セツナは仕分けを担当した素材のうち、どうすればいいのか判断がつかなかったり、そもそもどんなものかわからなかった素材を、ワードに丸投げした。そしてワードも、彼女に自分のわからない素材は丸投げする。
そうして二人がお互いにわからなかった素材たちを交換して、互いに見分してしばらく。
((ん?))
二人は二人して、首を傾げた。