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この部分の設定を知りたい、というコメントがあれば、あとがきに追記していきたいと思います。
「以上ですべての手続きは終了しました。よい探索を。」
「ありがとうございます!それでは、失礼します。」
返された傭兵ギルドライセンスを懐にしまうセツナ。応対したのがギルドマスターで、余計な話は何一つなく、きわめて迅速に手続きが進んだ。人は見た目には寄らないというが、齢12ほどに見える桃色の髪のギルドマスター……キヤフ・モナークは、ここに来るまでに見てきたどのギルドのギルドマスターよりも”格が違う”と感じた。
世界の中心、三大ギルドの長ともなれば、あれだけの化け物になるのか、とセツナは思う。どおりで治安がいいわけだ。酒場であってもどこであっても、あんな化け物が少なくとも三人はいるような街で騒動を起こせば……まあ死ぬ。それが平然と窓口対応していたのだからなお驚きだ。他のギルドマスターが窓口業務をしているところなど、見たこともないのに。
セツナが申請したのは他でもない、セントラル地下領域……通称”大霊洞”への探索だった。序層であってもBランクの危険度のある大霊洞だが、セツナはその基準をクリアしている。セツナの身体機能の平均位階はBランクだ。どれくらいかといえば、片手で馬車を投げ飛ばせる程度の人外である。
冒険をするだけなら世界各地に困難な未踏破領域はあるが、彼女は実力をつけるために、まずはここを選んだのだ。
デビルズ・ヴォイド、ウィガル大炎砂原、アウルム大森林、イーストガイア、ファールス連山、ほかにもある。セツナの生まれた地から最も近い未踏破領域はイーストガイアだが、あの土地は国を一晩で滅ぼせるような怪獣が跳梁跋扈する極限領域だ。実力不足も甚だしい。しかし、いずれはその地でも冒険したい、と考えている。
彼女の夢は”冒険者”である。幼いころ、時折ふらりと孤児院に立ち寄る冒険者の土産話が好きだったのだ。子供心にあこがれた冒険の日々。その冒険者の手で、あこがれの現実を見せつけられたこともあったが、それでも夢は消えなかった。それならばと、その男は彼女の師となり、道を示したのだ。
まずは、このセントラルで冒険者になる。セントラルは世界の中心で在り、多くの傭兵が集う土地。ここでの”冒険者”試験は最も精度が高く、信頼度がある。晴れて冒険者となれば、傭兵ギルドの外局にあたる冒険者ギルドからの手厚いサポートが受けられるようになる。セツナとしては是非ともなりたかった。
オールステータス、Bランク。セントラルに行く前に、まずはそこまで、自力で鍛え上げろ。その言葉を忠実に守り、日々を修行に捧げ……そして今、彼女はここに立っている。夢への道を着実に歩み続けているのだ。
無論のことながら、彼女には資金が無尽蔵にあるわけではない。探索に従事し、実力を上げるのもそうだが、生活費は稼がなければならない。セツナは受け取った探索許可証を自分のポーチにしまうと、依頼受注掲示板へと向かった。即日やるつもりはないが、何かしら都合のいい依頼があればついでに受けて探索に行こうか……くらいには思っていた。
掲示板は、ランクごとに張り出しが分かれている。今は朝一番でもない、仕事の取り合いが起きない時間帯だ。……つまり、割のいい依頼はほとんど残っていない。幸いにして仕事が枯渇することはギルドではありえない。人手はどこかしらが求めている。傭兵ギルドとは体のいい国際的な派遣会社という認識で間違いはなく、内容さえ選ばなければ日銭自体は稼ぐことができる。
セツナの傭兵としてのランクはシルバーだ。ここに来るまでの長い旅の間、道中で日銭稼ぎに依頼をこなしていれば自然とそのランクに到達した。実態がほぼ日雇い労働者に変わらないアイアンランクやブロンズランクとくらべれば、仕事は選ぶことができる。
なお、ギルドを通しての依頼は”名声点”……ギルドポイントで支払われる。ギルドへの貢献でしか手に入らず、換金はできても依頼達成でしか増加しないポイントだ。このポイントで傭兵は各種サポートをギルドから受けられるようになる、この世界では画期的なシステムである。
得られる名声点は、依頼の難易度もそうだが、当然依頼者が支払う依頼料によっても増減する。極端に低い名声点のものは、それだけ依頼者が困窮しているという証でもある。
依頼は傭兵のランクごとに振り分けられており、原則としてほかのランクの依頼は受けることができない。上のランクの傭兵にとって下のランクの仕事は楽すぎる。仕事を奪ってしまうことにつながるからだ。
というわけで、セツナが見ているシルバーランクの依頼掲示板。多くがはぎ取られてはいるものの、何が残っているだろうとみていると……セツナは妙な依頼を見かけた。
「……………?」
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対象傭兵ランク:シルバー
想定難易度:B
報酬:1400GP+ボーナスあり
場所:セントラル大霊洞
概要:魔晶石[品質不問・50個]の納品
依頼期限:無期限
依頼主より:
とにかく大量にお願いします。
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シルバーランクにしては、良い依頼だ、とセツナは思った。魔術師ギルドあたりが依頼主だろうか。シルバーランクの依頼の相場は期間にもよるが、数日かかるものであれば、普通1500GPである。相場よりも少々安い値段だ。しかしボーナスもあるという。品質のいいものを集めていけば、報酬は跳ね上がりそうだ。
この依頼以外のものは、皆これよりもかなり効率が悪い依頼だった。
この依頼の報酬が特別良い、というわけではないのだが、ここに至るまでこの依頼が残り続けているのには何らかの理由があるのかもしれない。セツナは新参であるし、むやみにこのような依頼を受けるのは、よくないかもしれない。残っているその理由が少し気になったセツナは、周辺の傭兵に、声をかけて聞いてみることにした。
☆位階
この世界では位階によってその実力が決まる。
基本的にすべての位階をそろえるようにして自身の実力を伸ばすことが推奨されているが、まれに敏捷性だけランクが二つほど高いなどの育て方をしている者もいる。
魔物は基本的には”平均位階”が脅威度として示される場合がある。しかし、ある特定の性質に限り位階がけた外れに高い魔物も存在する。
人間が位階を高めるには、ある種の”経験”を積む必要がある。
位階は、一つ違えばかなりの強敵、二つ違えば致命的なほどに厳しい戦いになるのが通例とされている。