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第8章 鏡の中のソルソティルダ


 ― 火をまとった我。左から数えて四つ目にあり、そこから左に数え、九つ目に命を預け、のちに命は憎しみと喜びに分かれる。憎しみは白、喜びを黒とした時、かつての白く美しい私はどれか? ―


 「答えは、この中にはない!」


 「何言ってるんだレオミス。答えがないだって?答えなければ僕たちは先に進めないんだぞ?」


 しかし彼は笑って一体目と二体目の分身の間を指さす。


 「そう、この八体の中に答えはない。こいつはこの中のどれかに本物がいると言ったんだ。それでピンと来た。」


 一体左端に預けられた命はどこへいったのだろうか?


 「まず、命が二つに分かれるところだ。この分かれるっていう言葉に注意するんだよ。一人の人間が、同じ体で同じ時に二つの感情は持てない。そう考えると、新たに一つの命、つまり仮のソルソティルダが一人増えたんだ。」


 「それがどうして一つ目と二つ目の境なの?あんた、考えすぎじゃないの?」


 「いいや、ここからが大事だ。」


 レオミスは得意げに言う。


 「そうなると、一人目か二人目のどちらかが正解ってことになる。でも、最後の文は一体何だった?」


 確か、かつての白く美しい私はどれか、ということだった。


 「喜びは黒で、憎しみは白。今の彼女にとって、憎しみは白なんだ。けど、かつてなんだぞ?ということは、この喜びが白で、憎しみが黒っていうのが本当の文だ。でも憎しみは今は本当の彼女を黒い喜びの影として隠しているんだ。だから一番左のすぐ横に、一人目と二人目の間に潜んでいるんだ!どうだ、これで間違いないだろう?」


 彼は踏ん反りかえってソルソティルダに言った。


 すると彼女は突然大きな悲鳴を上げて、姿を消した。


 だが、すぐに一人になって現れた。


 「よくぞ見抜かれました。あなたがたに光の道しるべを。」


 先ほどとは違って、彼女の声は穏やかになっている。


 きっとこれが本当のソルソティルダの姿なのだろう。


 彼女の言葉によって、洞窟の道は音を立てて開き始め、彼らは再び歩み始める。


 しばらくして、またあの不気味な笑い声がした。


 見ると浅い水たまりに彼女が映っていたため、ロットは危うく踏みつけそうになって急いでよけた。


 「戻れなくなってるわ!」


 ミレットの声に四人は後ろを振り返る。


 いつの間にか先ほど通ってきた道は岩で天井までふさがっている。


 「第二の言葉!」


 「ちくしょう、この女!」


 ハギウスは怒ったが、どうすることもできない。



 ― 我裏切られ、憎しみの黒き心を持つ。やがて黒き心は風にのり、七人の我に根を張る。我ら互いに争い、勝利せし者、これすなわち憎しみを継ぐ者なり。かの者たち、やがて黒き心にむしばまれ、果てり。その中で一人の生き残りあり。もっとも憎しみなき、美しき我はどれか? ―


 「分かったぞ!」


 今度はロットが即答する。


 「答えは、最後に生き残った我だ!」


 「理由は何か?」


 彼女は瞳を大きくしてたずねた。


 「裏切られた最初の我は、七人に分けられた。つまり、それだけ恨みの念が七等分されて軽くなったことを意味している。そしてここの憎しみを継ぐ者なり、という文が嘘で、本当は悲しいはずなんだ。だから、一人生き残った者のみが悲しみという慈悲深い心をもった潔白者ということになる!」


 「…」


 彼女からの返事はない。


 まさか…


 ソルソティルダの牙が見え、ライオンのどうもうなうなり声と、ねこのような細く鋭い目が、五人をギロリとにらむ。


 「ウエエエエーッ!」


 彼女の口からは、巨大な一メートル級のコウモリがせり出してきた。


 「しまったランツだ!こんなところでやられるとまずいな。」


 どうやら答えは間違っていたようだ。


 「メシュイ・ニダネ、うおッ!」


 ハギウスは応戦するが、呪文を唱え終わらないうちにランツのカギ爪で杖をはじかれた。


 「しまった!ウェスウォン!」


 コウモリは杖を取りに行こうとする彼に迫ってくるが、ロットとレオミスがランツを止めようとする。


 「ハギウス!うおおおお!」


 しかしコウモリは羽をバタバタと動かし、彼らを払いのける。


 「うっ!」


 「ロット!」


 ミレットは彼がランツの爪に足をやられたこの気がついて、駆け寄ろうとする。


 「だめだ、くるな!」


 「で、でも!」


 「どいてなさい…」


 ミレットを小さな声で制したアレシアが、黒い杖をかざす。


 「バルビゲニス・ロダイ!」


 「ギャアアアアア!」


 彼女がその呪文を唱えた時、たちまちコウモリは、ロットたちを襲うのをやめ、自分の体を激しく揺らした。


 まるで助けを求めているみたいに左右に飛び回り、最後には口を大きく開いたまま動かなくなった。


 「す、すげえアレシア。どんな魔法を使ったんだよ…」


 レオミスもランツと同じように口を大きく開けている。


 「昨日、教えてもらったの。本当は使いたくなかったんだけど、もともとこうなったのは私のせいなんだし、仕方、ないよね…」


 「そなた、たまげたものよ。ロダを使うとは。」


 すっかり元通りの声になったソルソティルダが言った。


 「ロダって言うのか?」


 「なんとも残忍なわざよ。アッハハハハ!かかった者は術者の意志によって呼吸器を操られ、されるがまま。ロダの偽罪により、呼吸は遅くも速くもできる。場合によっては死に至らしめる事も!アッハハハハハハ!」


 「くっ!」


 「気にするな、アレシア。気にしたら負けだ。こいつは俺たちを惑わしているんだ。」


 悔しそうにするアレシアをレオミスがまたも慰め、彼らは謎に改めて挑む。






 「一人目は裏切られ、戦争により七人は。ああ、ダメだ!分かんねえ!」


 レオミスが髪をくしゃくしゃと書きなでている横で、ロットは考え続けていた。


 「一人目は裏切りにあい、我ら互いに、互いに?互いに!」


 彼が声を張り上げるのを耳にした四人がよってくる。


 「何か分かったのか?このレオミス様もさっぱりだ。」


 「ああ。生き残った者が一人増えた!」


 「なんだって?」


 彼の考えはこうだった。


 裏切られた一人、そして生き残った一人。


 七人の後に互いにとくるのはおかしいと思った。


 「なぜ、それぞれとは言わないんだ?互いにっていうのは二人ひと組でって意味だろう?そう考えると二人ひと組が三つできて、一人だけ争わない者がいるんだ。」


 それに加えて、彼は先ほどの憎しみを継ぐ者の文は真実であることも説明した。


 「争いは憎しみしか生まない。だから争い続けた結果、一人しか生き残れなかった。でもその一人も全く憎しみがないわけじゃない。なぜなら争ってしまって憎しみを継いでいるから、勝利せし者だからだよ。つまり、この文には、うそじゃなくてひっかけがあったんだよ!勝利どころか、憎しみを押し殺して戦いをやめた者。それが最も美しいソルソティルダなんだ!」


 「ああああああああア!」


 正解したのはいいことだが、このつんざくような声はたとえ耳をふさいだとしても耐えがたいものだった。


 「よくぞここまでこられました。次が最後の言葉です。憎しみのソルソティルダも容赦しないでしょう。どうかお気をつけて。」


 彼らの前の岩は崩れ、風の音がする。


 出口が近いようだ。




 

 次回の更新日は11月23日の予定です。

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