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第5章 治術師ハギウス

 皆さんこんにちは。カーレンベルクです。このたび前作が完結したため、本格的にファンタジー小説の執筆に取り掛かろうと思います。また、予定していた更新速度も設定しました。おおよそ前作と同じく、最低でも1週間に一話を目安に考えるとよろしいかと思います。各話の後書きに、「次回の更新日は〇月〇〇日の予定です。」と告知させていただきます。しかしながら、あくまで「予定」のため、昨日のように更新日が一日早まったり、もしくは諸事情で若干遅くなったりはします。どうかそこはご理解いただきたく存じます。


 「わしの友人ハギウス。やつはよく街の酒場におる。リューゲルの道化師たちという名の店じゃ。」


 ロットは道を歩きながら、セチェックの言葉を思い出していた。


 聞くところによれば、彼はセチェックより頑固で治癒の魔法を使えるのだという。


 しかしそれをいいことに、酒場の暴漢にしょっちゅう喧嘩を売り飛ばし、殴り合っているらしい。


 この話から、彼はセチェックが友人選びに長けていないのではと思ったが、つい先ほどレオミスとアレシア、そして自分を言いくるめた男だ。


 下手なのではなく、特別な間柄といったほうが適切なのだと彼は考え直した。


 ともかく、彼らはとんでもない男のいる街にたどりついた。


 あれほど小さかった塔が、今では四人の視界に収まりきらないほどにせり立ち、見おろしている。


 街は祭りの最中なのか、多くの人でごったがえし、街の奥に進むほど、にぎわいは増してゆく。


 「いらっしゃい、そこの白い女の子。君だよ君!」


 「え、わ、私?」


 突然、店の屋台車の中年男に話しかけられ、ミレットは戸惑った。


 無理もない。


 異世界のことをまだ何も知らない上に、威勢よく話しかけられることにすら彼女はなれていない。


 「そう、君。かわいい子だね。君にきっと似合うこのひし形の緑ブローチ。今ならなんとたったの十五パズカン!買っていくかい?」


 「ロット、あれほしいな…」


 意外にも彼女はあっさりとブローチの輝きに心を奪われている。


 セチェックから渡された金は五百パズカン。


 無駄な出費はなるべく抑えたい額だ。


 「だめ?」


 そう言うミレットのせがむ表情に彼がドキドキしている間にも、見知らぬ老婆がブローチをまじまじと見つめている。


 「おじさん、僕たちこの町初めてなんです。十二パズカンに負けてもらえませんか?」


 「いいや。お嬢ちゃんのためだ。しゃあない十パズカンだ。もってけこんちくしょう。」


 店主は笑顔でそう答える。


 「ありがとうございます!ところで…」


 ロットは店主にリューゲルの酒場の場所はどこかとたずねた。


 しかし彼はよせと言った。


 「あんなとこ行ったって酒臭いだけだ。それに中じゃハギウスとか言う老いぼれが、毎日のようにチンピラ相手に暴れてら。」


 「その人に用があるんです。」


 店主は、はあという驚いた顔をして、立ち去ろうとする彼らを目で追った。


 「おい、やめておけ。ろくなことがないぞ?お嬢ちゃん聞いてるか?」


 「ブローチをどうもありがとう!」


 彼女は笑って彼に手を振っている。


 「そうじゃなくて。ああ、行っちまった。まあ、いいか。」


 彼はそう言うと、何事もなかったかのように再び商売を始めた。






 酒場は街の裏路地へ一本入ったところにあった。


 店の入り口の近くには破けた服を着た強面の男たちが、所狭しと地面やタルの上に座っている。


 「みんな、目を合わせるなよ?殺されるかもしれない。」


 店の外の光景を見たロットは、三人に秘かに合図する。


 そして恐る恐る店の前まで近づいていく。


 酒場の通りはつきあたりになっていて、どうしても彼らの前を通るしかない。


 ミレットもお願い何もしないでと、乱れがちになる息を正常に保ちながら中に入ろうとする。


 「おい、こんなガキども見たことあるか?」


 ロットがドアのノブに手を掛けた途端、一番近くにいた男が、まるで今気づいたとでも言うように他の男たちにたずねた。


 「いいや。だが俺は知ってるぜ。確かそのガキに金貸したんだよ。一千パズカンほどなあ。返しにきたんだよな?このガキ。」


 「まずいぞ。こいつらありもしない言いがかりでかつあげする気だ。早く入ろう。」


 三人は即座にうなずき彼はドアを開けようとするが、突然木箱がロットの前をかすめて、扉に派手な傷をつけた。


 「悪い。拾ってくれ。」


 投げたのはタルに座っていた男。


 「話しかけるな。行こう。」


 それでもドアを開けようとするロット。


 「拾えくそガキがあ!」


 「いやあ!」


 かんしゃくを起こした男に、ミレットは悲鳴をあげ、ロットも動けなくなる。


 しかしそばで剣を抜く音がする。


 レオミスがルイトポルトとアルンデルを構えていた。


 「レオミス、よすんだ!」


 「分かってる。勝てないかもな。だからハギウスの助けがいるんだろう?」


 彼はここで暴漢たちを食い止めるつもりらしい。


 「だかお前だけじゃ力不足だ。僕も一緒さレオミス。二人は早く中へ入って助けを呼んできてくれ。」


 名残惜しそうに二人は外にいるロットたちを見ながら、気持ちを抑えて中へ入っていった。






 早くハギウスを探さなくては、ロットたちが危ない。


 煙で充満する店の中を、柄の悪い男たちの汗臭さにさらされながら、老人の姿を探す。


 「よお女。きれいだな。名は何てんだ?ん?」


 突然後ろから見知らぬ男に声をかけられた。


 白く変色したあごひげに、口からは酒の匂いと、目の端にはそばかす、それに黄色い目やにがたまっている。


 「私たち、急いでいるんです。ひゃ!」


 男はアレシアが話している最中に彼女の腰のあたりをさすってきて、その手は徐々に下のほうへと移っていく。


 「ちょっ、ちょっとやめて!」


 「おお、この若いしなやかな腰。それに、フフ…」


 「やめなさいってば!」


 その時、彼女の髪が魔力の風圧で舞い上がり、常人を逸したくぐもり声が店中に響きわたる。


 「な、なんだ?なんだあの女!」


 アレシアの瞳孔は、血に飢えた吸血鬼のように赤くなっていた。


 「あ、う、うわああああ!魔女だ!」


 あまりに突然の出来事に混乱する男たち。


 それを刺激するかのように、アレシアが闇の杖、ブローデン・ハインツの黒い鳥を構える。


 「この中にさあ、ハギウスっていないかなあ?」


 一人の若い男が、彼女の後ろを指さす。


 よく見ると店の死角に席があり、そこに老人が足組みしてパイプを吸っていた。


 男たちはアレシアが近づいていくと、口々にあいつもついにおしまいだとうわさをはじめる。


 どうやら毎日喧嘩をしているという話は本当のようだ。


 「あなたがハギウスね?どう?黙ってないで答えなさいよ。」


 しかし彼は彼女の声など聞こえていないかのように、悠々とパイプをふかしている。


 「ちょっと、聞いてんの?ぶつわよ?」


 「そんなヒヨコな腕で何ができる。女はいつだってそうだ。かよわさを武器に男の足下見やがって。」


 そう言ってハギウスはアレシアの足下につばを吐いた。


 「ちょっと魔法が使えるからっていい気になるなよ?あごの骨砕かれて泣きを見たいか?男がその気になりゃ、女なんて五分で倒せんだ。だがここの連中はどいつもこいつも、鼻の下のばしたクソどもばっかでこまる。こんな小娘にこびへつらって、情けねえ。」


 その言葉を聞いて、たちまち男たちは下を向く。


 「愚痴が長くなったが、俺に何の用だ?」


 アレシアは魔法が使えるようにはなったが、肝のすわったハギウスの態度に圧倒された。


 「セチェックって人から、旅の手助けを。それと…」


 大きい態度に出てしまった分、彼にロットたちを助けてくれとひざをつくのはつらい。


 しかしやらなくてはならない。


 「アレシア。言わなきゃだめよ?それとも私が言おうか?」


 「いいわ。私が言う。」


 ここでミレットに言わせてしまえば、それこそ負けて逃げたようなものだ。


 「セチェックだ?あいつめ、また俺に面倒を押しつけやがって。」


 今からアレシアが頼もうとしている事はもっと面倒だ。


 こうなったらその気になっているうちに言うしかない。


 彼女は苦手な食べ物を強引に飲み込んでしまうように、一気に事のてんまつを告げた。


 「友人が、暴漢に、外にいる男たちに絡まれているんです。お願いです!助けて!」


 彼はしばらく返事をせずに座っていたが、不意にアレシアの下げた頭を堅い物で軽くつついた。


 「痛っ!て何してんのよ!」


 「ははっ。見たか。俺の武器、癒しのウェスウォンだ。」


 木でできているにもかかわらず、杖は青くそまっている。


 「ついてきな。あいつらには俺も迷惑してんだ。お仲間を助けたいんだろう?」


 「えっ、あ、うん!」


 意外とさっぱりした性格のハギウスに、彼女は嬉しくなって、つい店中に響く大きな声を出した。


 



 次回の更新は明日です。(11月16日)

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