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第1章 四人の仲間

 読者の皆様、こんにちは。今回の更新では前作の章が短めであったため、読み応えがなく、物足りなさを感じた方もおられると思います。そのため、もしよろしければこちらの物語もお気軽に読んでご満足いただければと思い、ご用意いたしました。ファンタジーの更新予定につきましては前作が完結次第、設定するつもりでございます。


 ここはドイツのとある街、レゲンツベルク。


 この商業が盛んではあるが、まだまだ奥深い未開発の森が残る地域に、四人の幼馴染が住んでいた。


 男女それぞれ二人ずつの子供たちで、全員じきに十五の青春時代を過ごす歳になる。


 一人が勇敢かと思えば、もう一人は引っ込み思案だったりする個性ある四人は、いつも同じ顔ぶれで、退屈な時を過ごしていた。


 そのため近頃は、童心に戻って冒険をしようなどという声が高まり、彼らは今日も森へと遊びに出かける。






 「早く来いよ。」


 樹の群れをかき分けて、一人の茶髪の少年が後ろを振り返り、声をかける。


 名を、ロット・シュラーフェン。


 四人の中ではリーダー的存在で、温厚だが人をまとめるのが上手だった。


 「待ってよ。ミレットのことも考えなさいよね。」


 そう怒りっぽい声を出して現れたのは、ブロンドにウェーブのかかった髪を揺らしているアレシア・メゾルリンデ。


 生まれつきのお転婆な娘で、男たちに対してはなるべく見栄を張ろうとする、負けず嫌いな性格である。


 「すまない、ミレット。」


 「ううん。大丈夫。心配してくれてありがとう、ロット。」


 アレシアに手を引かれて不安定な足場を登ってきたのは、まっすぐにのびる黒い髪と、おっとりとした優しい声が特徴のミレット・ラッツェンレヒト。


 控えめな性格のため、いつもアレシアと一緒にいる。


 今となってはアレシアはミレットのお姉さんのような役になっていた。


 「ところで、レオミスを見なかったか?さっきから姿が見えないんだ。」


 二人はロットの質問に首を振る。


 しかし、突然そばの茂みが揺れて、毛虫まみれの少年が叫び声とともに彼らの前に這い出してきた。


 「きゃあ!」


 意外にもミレットにしがみつくアレシアを見て、彼は大声をあげて笑う。


 「もう、私が虫が嫌いなこと知ってるくせに!やめなさいよね!」


 「ははっ、ごめんごめん。もうしないよ。」


 ニタニタと笑って反省とは程遠い口調で謝ったのは、いたずら好きで金髪がまぶしい、レオミス・フォン・オッテルリンクである。


 幼いころからではあるが、今でもその稚拙な態度が抜けない困った少年だ。


 「で、今日は何をするの?」


 あらたまった声ながら、アレシアがレオミスを白いジトっとした目で見た。


 「そうだな。今日学校で噂を聞いたんだ。」


 「こ、怖い話はダメだよ?夜おトイレに行けなくなるわ。」


 ミレットが不安そうな顔をしているが、彼はそんなことはお構いなしだ。


 「実はな、この森には昔、そのまた昔に造られた、古い教会があるそうだ。」


 「教会?そんなもの見たことないけど、ハンスのつくり話だろ?」


 ロットの言うハンスとは、レオミスの友人であるハンス・インガーマンラントのことだ。


 たくましい体つきだが、少し小太りで、何よりの面白いもの、新しいもの好きである。


 ハンスは退屈だと感じると、すぐに二セの噂を学校中に流して、どこまで広がるかをよく試していた。


 「今回は違うさ。落ち葉掃除をしているじいさんから聞いたんだよ。あのじいさん、よりによって登校時に声かけてきて、こっちはあとでジベルガーに反省文を書かされたんだぞ?」


 「ジベルガー先生は良い人よ?」


 「ミレット。優等生にしか分からないこともあれば、落ちこぼれにしか見えないものもあるのよ。」


 隣でアレシアがくすくすと笑っている。


 「続きはどうなるんだ?」


 「おっとそうだった。」


 レオミスは咳払いをすると再び話し出す。


 「その教会は今から千年も前に、ドイツ騎士団によって建てられたものらしい。だが、その教会に入ることができた人物はいなかった。もちろん、木工師たちもだ。中には何か秘密があるんだよ。俺達で謎解きしないか?どうやっても開かず、壊れずの教会をさ。」


 三人の表情はさえなかった。


 「壊れず?ダイナマイトでも吹き飛ばせないのか?」


 「ああ、そうさ。すごいだろう?」


 レオミスは目を輝かせていたが、ロットは帰ると即答した。


 どうやっても開かないどころか、壊せもしないところに、どんな方法で入ろうというのか?


 「そう言わずに。アレシアは行くだろう?」


 彼女の返事もやはりノーだった


 彼は最後の頼みでもするような目でミレットを見る。


 「私、えっと、その。わ、わわわっ、ど、どうしよう…」


 ミレットはいつも何かに迷いがあるときには、わの文字を連発するくせがあった。


 これは彼女の憐み深い性格から来るものだったが、彼がそこに便乗してくることを知っていたアレシアはミレットにだまされないようにと忠告するのである。


 首を横にふったアレシアを見て、ミレットは気まずそうに彼に言う。


 「ご、ごめんねレオミス…」


 あきらめるもんか。


 今回はなぜか一歩踏み出して、すでに帰ろうとする三人を再度説得するレオミス。


 この教会の情報は、お昼代を友人に渡してまで得たものだ。


 そうやすやすと引き下がるわけにはいかない。


 「見るだけでもいいからさ?ちょっとだけだよ?何もなければすぐ帰るって約束するからさあ、いいだろう?」


 「何言ってるんだ。時間の無駄だよ。」


 「なあ、せっかく集まったんだ。行こうよ?それこそ時間の無駄なんじゃないか?」


 何だって、とでも言いたげな目をしたロットが振りかえる。


 「だいたい、四人で何かしようって言ったの誰だっけ?」


 ついにロットはレオミスのところまで戻ってきて、ため息をついて彼の肩に手を置く。


 「分かった。見るだけ見てみよう。でも今さらハンスのほら話だったなんて言ったら、分かるよな?」


 「分かるよ。俺死ぬの?そうだろう?もしくはリンチに遭うの?ロット待てよ。」


 彼は冗談まじりにわざとおどけた顔で、分かると言ったあと、前をずんずんと進んでいくロットを怒らせてしまったのかと必死に追いかけ、のちにアレシアとミレットの二人も続いた。






 「やっぱりよそうよ?」


 気弱なミレットを差し置き、三人は前へと進んでいく。


 やはりと言うべきか、退屈な毎日に飽きている若い人間にとって、冒険は三度の飯や睡眠に等しいのだろう。


 あれほど嫌がっていたアレシアでさえ、わくわくすると言って興奮気味の声を出している。


 「こっちだ。」


 レオミスは手書きの地図を見ながら、やがてある方向を指で示す。


 「あった。ここだよ。教会だ。この古びた木の染み具合ときたら…」


 「あんた、頭の中が私のパパそっくりね。本当、歴史のことしか頭にないんだから。」


 アレシアの愚痴を軽く流しながら、レオミスは教会の前に立つ。


 扉は木でできていて、かんぬきがしてある。


 これほど原始的な造りなのに、開けられないとは…


 ロットが押しても扉はびくともしないまま時は流れた。






 「だめだ。開かない。もう遅いし、そろそろ帰ろう。ミレットもそのほうがいいだろう?」


 「ええ。パパとママが心配するから、もう行かないと。」


 「つまんないなあ…」


 だだをこねたレオミスは八つ当たりのつもりで木の枝を適当な方向に投げた、が、枝は何か鉄の堅いものにガンと当たった。


 「なんだ?」


 このあたりに排水溝は流れていないはずだ。


 「レオミス、行くわよ?」


 だが彼は何かに吸い寄せられるように地面を見つめて手招きする。


 「来てくれ。すごいものを見つけたんだ。」


 彼の言うすごいものとは一体何なのか?


 ロットたちもそれを見て、今回は釘づけになり、文句の一言も出なかった。


 「なあにこれ、すごいわ。」


 アレシアは装飾がきめ細かく施されたどぶ板のような鉄の塊を持ち上げようとした。


 「お、重い…」


 「待て。何かの絵のようなものが書いてある。」


 土ぼこりやサビが激しく、うっかりしていると見落としてしまうくらいだったが、ロットは確かに色づけした跡が鉄板にあるのを見て、汚れを手で払う。


 「おい、見ろよこれ。ドイツ騎士団の盾だ!」


 灰色の鷲が翼を広げた後ろには、黄色の十字架が描かれている。


 おそらく、目の前にある教会と同時代のものだろう。


 「はははっ!すげえ、俺たち大金持ちだ!」


 大はしゃぎのレオミスだったが、ロットが止めに入る。


 彼は盾の端にある部分を指した。


 そこには一か所だけ文字のようなくぼみがあった。


 「さっき教会を調べていたら、これと同じ形の文字の出っ張りを見つけた。もしかしたらそこにはめるのかもしれない。」


 「これってルーン文字だわ。」


 「ミレット、知ってるのか?」


 彼女はロットにうなずく。


 「とにかくはめてみましょう?誰かさんみたいにお金が目当てじゃないもの。」


 「悪かったな。」


 レオミスはアレシアにどうせ自分は卑しい奴だとひがむように言った。






 「ここだよ、ここ。早く盾を貸してくれ。」


 彼らは教会の向かって左側の壁の壁のでっぱりに向けて盾を持ち上げる。


 手で届く高さとは言え、重い盾を持ち上げる作業はまだ子供の彼らにとって大変なことだった。


 「レオミス、あんた力入れてんの?」


 入れているとばかりに彼は必死に顔を赤くして答える。


 「もうちょっとだ!あとちょっと。今だ!」


 バアン!


 盾をはめた瞬間、扉のほうで音がして、彼らはすぐに正面に駆け寄る。


 かんぬきは二つに割れ、老朽化した扉はわずかに吹く風にさえ、ミシミシと音を立てて揺れていた。


 「待って。」


 入ろうとするロットの手を、アレシアがつかんで止める。


 中からよどんだ空気が立ち込め、嫌な予感が絶えることはない。


 進んでしまったら、二度と出て来られない気がすると、彼女はそう思った。


 「心配ない。行こう。でも嫌ならやめよう。アレシアが無理することないよ。」


 「いや。」


 「えっ?」


 「やっぱり行く。こんなチャンスめったにないわ。」


 怒ったように彼女は中に入っていく。


 そばで呆然とするロットにレオミスが女心は分からないと合図していた。





 


 


 


 

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