第9章 もう一人の彼女
読者の皆様、こんにちは。突然で大変申し訳ないのですが、このたびをもって、本作品を終了させていただきたいと思います。理由は次のような事態が発生したためです。
一 作者が本作品の迫力のなさを痛感し、物語を手直しする際、本作品の世界観が失われてしまうと判断したため。
二 また、物語の展開に詰まってしまったため。
以上のような理由から、一応は連載中という形で更新しておきますが、(もしかしたらまだ執筆できる日がくるのではないかという想いからです。)次話がいつになるかは保障できません。今まで本作品をお読みになってくださった皆さま、本当に申し訳ございません。この経験を生かし、次作には十分に注意を払って執筆していく所存です。そのときは皆さまが納得のいくような物語を用意してお待ちしております。読者の皆様にこのような結果になってしまった事を、深くお詫び申し上げます。すみませんでした。
「第三の言葉!」
ロットたちが彼女の前に現れた途端、最後の試練が始まった。
― 我、八人ともソルソポロンの娘なり。しかしこの中に一人だけ黒き心を持つ者あり。かの者、悟られぬよう心を隠し、王に最も近づき、愛を授かりし者。七人の娘、嫉妬し、死の反目で殺しあうとき、最後に愛によって勝利せし者は誰か? ―
心なしか、彼女の表情に曇りが見られる。
「八人の娘ね?その中に一人だけ悪い人がいて、王様の愛を受けた。ここまではいいと思うわ。」
しかしミレットがそう言ったとき、洞窟内部が小刻みに音を立てて揺れ始めた。
地震だろうかと思ったが、そうではなかった。
足元を見ると、潮だまりように孤立していた水たまりが徐々に水深を上げてきている。
「アッハハハハ!早く答えぬか?でないと水没してしまうぞ?だが焦って答えを間違えれば水かさの増す速度が速くなる!アッハハハ!」
「くそ!ひきょうだぞ!」
「レオミス。争っている時間はない。とにかく考えるんだ。」
「分かったよロット。考えればいいんだろう!」
水はその間にも潮だまりとつながって、彼らの足首まで来ていた。
「落ちつくんだ。七人の娘が殺しあって一人が生き残る。ん?後の一人はどこいったんだ?」
「早く早く!」
アレシアの叫び声からも分かるように、水はすねのあたりまで来ている。
「そうか!最初の一人は争っていない!二人いるんだ!最初と最後の一人だ!どっちだ?どっちが勝利したんだ…」
「でも愛って何?なにかひっかるわ…」
愛によって勝利せし者。
確かに殺しあったのに愛によって、とはつじつまが合わない。
「これは、そうか!ひっかけだロット、レオミス!」
ハギウスが叫んだ。
水は膝上まで来ている。
「つ、つめたいよ。」
五人の中で最も背の低いミレットは、すでに太ももの辺りまで水につかっていた。
「勝利とはこの場合、勝つことじゃない。愛を得ることだ。ロットの言う最初と最後の一人は勝利していない!なぜなら、争っていないからだ。答えはこの中にはない!」
しかし、女の顔は一変して、まやうなり声をあげる。
「なんだと?違ってたって言うのか?最初の文は、愛を受けたが勝利していない。だが、最後の文も愛は受けていないが勝利した。それはつまり、最初の文同様に愛を得たんだ。これのどこが違うんだ!」
水の勢いは増し、彼らの腰のあたりまできている。
「ミレット!こっちに来るんだ!」
ロットはすでに胸のあたりまで水につかった彼女に手を差し伸べる。
「ちくしょう!どうすりゃいいんだよ!」
ハギウスのむなしい叫び声が、狭い空間に響く。
水没してしまえば答える事もできなくなる。
「私たち、死ぬのね…」
「まだだ!アレシア。分かったんだ。答えが!」
「何?」
ソルソティルダの顔が歪んだ。
「ロット、本当か?」
「ヒントは最後の文だ。死の反目で殺しあうとき、最後に愛によって勝利せし者は誰か?誰かと言っているだけで、八人の中から選べとは言ってない。愛に関係しているのは王と八人の娘。そのうち二人が生き残った。王と二人の娘。この二人の娘は、なぜ争わなかったと思う?それは王によってもたらされた愛があったからだ!つまり、本当の答えは二人に生きて仲を修復する機会を与えた者。王であるソルソポロンだよ。」
「ウ、ウワアアアアッ!おのれェ!こうなったら道連れにしてやる!」
ついに答えを突き止めた彼に、ソルソティルダの体が薄れていく。
しかし水は増える一方だ。
「このやろう!どういうつもりだ!」
「アッハハ、ハハ、ハーハハハハハハ!こういうつもりさ!」
その言葉とともに大量の水が流れ込んだ。
「ロット!ロット、やだ!足がつかないよ!けほ、けほっ!」
「ミレット!しっかりつかまってろ!」
彼らは合図とともに大きく息を吸い込む。
やがて洞窟は水没し、ミレット、アレシア、レオミス、そしてハギウスまでもがもがき、意識を失っていく。
だめだ、息が苦しい…
目の前の岩肌がぼやけて見える。
この向こうには空気があるのだ。
しかしそこまで行く気力はない。
「あなたに、光の導きを…」
どこからか声が聞こえ、彼は頬にあたたかい熱を感じた。
目の前には本心に戻ったソルソティルダ。
その彼女が彼の額に優しく接吻する。
透き通るような水は減っていき、彼女も薄れていく。
「あ、ありがとう。ソルソティルダ。」
彼が心の中でそう言ったのが通じたのか、彼女は微笑して消えていった。