表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

地上より

ガクンと体が大きく揺れて目が覚めた。


最初に思ったことは、どうやら生きてるということだった。

体はどこも痛くなかった。死んだから痛みもないってことかと思ったが、それにしては感触がおかしかった。背中にはゴツゴツと何かが当たっていたし、体勢はひどく不安定だ。死んだのならば、もっとこうフワフワと柔らかい感触が欲しい。ということは生きているんだな、と日向子はぼんやり考えていた。


それと、この目の前の男は誰だろう。髪は長くて髭も生えている。教科書でよく見たキリストに似ていた。ということはやはり私は死んだのだろうかと一寸考えたが、男はどう見ても日本人だった。


「大丈夫、ですか……」


男が心配そうに覗き込んでくる。

失敗したんだという絶望と同時に、安堵している自分に腹が立ち、思わず少し泣いてしまった。何か言わなくてはと思っているのに、涙を止めるのに必死で声が出せない。気まずい沈黙を切り裂いたのは子供たちの声だった。


「ねえ!!!いま飛んでたよね?」


漂う雰囲気とはあまりにかけ離れた明るい声なので、二人してギョっとのけぞる。


「なんで飛べるの?!どうやるの?!」

「飛んでたっていうか、あれは浮いてたが正しいんじゃね?」

「どっちでもいいだろ!お姉ちゃんは魔法使いなの?何で飛べるの?」


子供たちは興奮してワアワアと質問をぶつけてくる。何か答えを聞かない限り、引き下がることはないだろう。


「私は、飛び降・・屋上から落ちたの」

「なんで怪我してないの?!お兄ちゃんが助けたの?」

「すげー!落ちてくるお姉ちゃんをキャッチしたってこと??」

「えー!じゃあお兄ちゃんはスーパーマンなの?ヒーローだ!ヒロインのピンチに現れたヒーロー!変身はしないの?」

「え、変身出来んの?お兄ちゃんも飛ぶの?みたい!」

「ねえ!ビームも出せる?」


ギリギリのところで飛び降りをソフトに言い換えたが、子供たちは全く気付かないどころかますます興奮していく。子供の口から飛び出すスーパーマンやヒロインというこっぱずかしい言葉に、二人は何故かあたふたしてしていた。


「変身は、できない……。でも、助けられたのなら、良かった、です」

「あ、あの、ありがとうございます」


モジモジ喋る二人を子供たちは少しだけ静かに見守った。今は邪魔しちゃいけない、と子供ながらに悟っていた。でも興奮は抑えられない。と、その中の一人がハッと気付く。この場を盛り上げつつ、目の前で起きたこの素晴らしい物語にちょこっと参加できる、とっておきの言葉を見つけたのだ。大きく息を吸い、声高らかに宣言する。


「めでたし、めでたし!」


その声があまりにまっすぐだったので、

二人は顔を見合わせて、思わず同時に笑い出しましたとさ。


おしまい


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ