地上より
ガクンと体が大きく揺れて目が覚めた。
最初に思ったことは、どうやら生きてるということだった。
体はどこも痛くなかった。死んだから痛みもないってことかと思ったが、それにしては感触がおかしかった。背中にはゴツゴツと何かが当たっていたし、体勢はひどく不安定だ。死んだのならば、もっとこうフワフワと柔らかい感触が欲しい。ということは生きているんだな、と日向子はぼんやり考えていた。
それと、この目の前の男は誰だろう。髪は長くて髭も生えている。教科書でよく見たキリストに似ていた。ということはやはり私は死んだのだろうかと一寸考えたが、男はどう見ても日本人だった。
「大丈夫、ですか……」
男が心配そうに覗き込んでくる。
失敗したんだという絶望と同時に、安堵している自分に腹が立ち、思わず少し泣いてしまった。何か言わなくてはと思っているのに、涙を止めるのに必死で声が出せない。気まずい沈黙を切り裂いたのは子供たちの声だった。
「ねえ!!!いま飛んでたよね?」
漂う雰囲気とはあまりにかけ離れた明るい声なので、二人してギョっとのけぞる。
「なんで飛べるの?!どうやるの?!」
「飛んでたっていうか、あれは浮いてたが正しいんじゃね?」
「どっちでもいいだろ!お姉ちゃんは魔法使いなの?何で飛べるの?」
子供たちは興奮してワアワアと質問をぶつけてくる。何か答えを聞かない限り、引き下がることはないだろう。
「私は、飛び降・・屋上から落ちたの」
「なんで怪我してないの?!お兄ちゃんが助けたの?」
「すげー!落ちてくるお姉ちゃんをキャッチしたってこと??」
「えー!じゃあお兄ちゃんはスーパーマンなの?ヒーローだ!ヒロインのピンチに現れたヒーロー!変身はしないの?」
「え、変身出来んの?お兄ちゃんも飛ぶの?みたい!」
「ねえ!ビームも出せる?」
ギリギリのところで飛び降りをソフトに言い換えたが、子供たちは全く気付かないどころかますます興奮していく。子供の口から飛び出すスーパーマンやヒロインというこっぱずかしい言葉に、二人は何故かあたふたしてしていた。
「変身は、できない……。でも、助けられたのなら、良かった、です」
「あ、あの、ありがとうございます」
モジモジ喋る二人を子供たちは少しだけ静かに見守った。今は邪魔しちゃいけない、と子供ながらに悟っていた。でも興奮は抑えられない。と、その中の一人がハッと気付く。この場を盛り上げつつ、目の前で起きたこの素晴らしい物語にちょこっと参加できる、とっておきの言葉を見つけたのだ。大きく息を吸い、声高らかに宣言する。
「めでたし、めでたし!」
その声があまりにまっすぐだったので、
二人は顔を見合わせて、思わず同時に笑い出しましたとさ。
おしまい