黒猫亭の縁を繋ぐ者
この物語は、後を考えずに作られています。
意味が分からない描写があります。
軽い気持ちで読んでいってください。
コンコンコン
ビルの隙間に、扉を叩く音が響く。
ガチャ
扉が開き、中から一人の女性が現れる。
「ようこそ。黒猫亭へ。何をお望みですか」
その女性は、やはり不思議な人だ。
今日…私は、人生で後悔していることが三つに増えてしまった。最初の後悔は宝くじを買ってもらったこと。もう一つは、学校に自転車で行ったこと。そして…
「よっす、元気ないっすね。朝ご飯ちゃんと食べないとダメっすよ」
この目の前にいるチャラ男を助けてしまったことだ。ここ最近毎日話しかけられていて、ちょっと迷惑に感じている。
「ねぇ、邪魔なんだけど。どいてくれないかな」
「そう…すか…まだ諦めないっすよ。じゃ、また帰りに」
「……。(来なくていいよ)」
キーンコーンカーンコォーン
「はぁ、今日も校門に立って待ってる。どうしよう」
ニャーン ニャーン
「あれ、黒猫。どうしてここに」
黒い猫を無視して教室から出ようとすると、突然猫が鳴きだした。
ニャー ニャー ニャー テッ テッ テッ
「どっどうしたの。バレたら危ないよ」
走り出した黒い猫を追いかけ始めた途端、教室の扉が開きチャラ男が入ってきた。
「センパーイ、今日こそってあれ。いると思ったのになぁ」
(危なかった、そのまま出ていたら、チャラ男に鉢合わせる所だったな。この、猫ちゃんは、私を助けてくれたの…)
「自転車置き場で、待ってみるか。どこいったんだろ」
そう言って、チャラ男は教室から離れていったが
「どうしよう、このままじゃ。帰れない」
ニャーン
「猫ちゃん。もしかして、大丈夫っていっているの」
にゃーん
再び鳴いた猫は、心なしか喜んでいるように見えた。
テッ タッ テッ タッ テッ タッ
黒い猫を追いかけていくと、誰にも会わずに自転車置き場まで来ることができた。チャラ男が来る前に、自転車に乗って帰ろうと思ったとき、黒い猫が肩に乗ってきた。
「猫ちゃん、危ないよ。せめて籠に入ったら」
ニャーン
「そこがいいなら、いいけど…」
カッチャ カッチャ
黒い猫を肩に乗せた状態で家に向かって行く途中、何度か肩から猫が落ちそうになったが、そのたびに器用にバランスをとっていた。家に帰るには街中を通らなければいけないので、自転車から降りて歩いていると、肩にいた猫が急に飛び降りてしまった。
「ねっ猫ちゃん、どうしたの」
慌てて追いかけようとしたが、黒い猫はビルとビルの隙間に入り込んでしまった。
「どうしよう…どこの猫か分からないけど…飼い猫だったら、いけないし…追いかけよう」
自転車を置いて隙間に入ろうとしたとき、そばに看板があることに気づいた。文字は、掠れて読めないところもあったが、『―――の黒猫―』と読むことができた。
「…の黒猫。もしかして、家がこの先にあるってことかな。でも、やっぱり心配だな」
タン タン タン
光があまり届かない隙間に、ただ私の足音だけが響き渡る。無限に続くような隙間を進んでいくと、前に扉が現れた。
「…猫ちゃん」
よく見ると、扉には薄く『―――の黒猫亭』と書かれていた。そして、下には猫用の小さな扉もついていた。
コンコンコン ガチャッ
勇気を振り絞って扉を叩くと、中から一人の女性が出てきた。
「ようこそ。黒猫亭へ。何をお望みですか」
「あっあの、黒猫ちゃんの飼い主ですか」
「えぇ、そうですよ」
私の質問に答えてくれた女性は中に入り、一匹の黒い猫を連れてきて
「ほら、この子でしょ」
と言って、差し出してきた。その黒い猫は、今日学校で助けてくれた猫だった。
「猫ちゃん…あっ、今日この子に助けられたんです」
「この子が」
女性は少し驚いた後、私を見つめてきた。そして、驚くことを言ってきた。
「あなた、若いのにもう後悔しているのね」
「えっどうして」
(まだ、誰にも相談していないことをどうして知ってるの)
女性の言ったことに驚いていると、女性から「相談に乗ってあげる」と言われた。
(この人は…なぜか分からないけど安心できる)
そう思い、私の後悔を話してしまった。
「実は、私は三つ…ずっと後悔しているんです」
「それはどんなことですか」
「一つ目は、宝くじで二等を当ててしまったことです」
その言葉に、女性は怪訝そうな顔をして、
「いいことではないですか。なにか、不満でも」
と、聞いてきた。
「いいことでしたけど、よく詐欺の電話がかかってくるようになったんですよ。おかげで、お母さんがよく愚痴を言ってくるんですよ」
「そうなんですか」
「それで二つ目は、『宝くじで有名になってしまい、電車に乗っていくと不審者が近寄ってくるかもしれない』って理由で自転車で通学することになったことです」
すると、また怪訝そうな顔をして、
「何か問題があったんですか」
と、聞いてきた。
「それは、三つ目のことでもあるんですけど。前に帰り道で倒れている後輩を見つけて助けたんですけど…」
「いいことをしたじゃないですか…あっそういうことですか。もしかして、付きまとわれるようになりましたね」
「そう、そうなんです。偶然同じ方向に家があったので、毎日校門でまっているんですよ。あのチャラ男は――」
私が後悔している理由を話し終わると、女性は少し考えるそぶりを見せてからある提案をしてきた。
「なら、後悔を…過去を変えてみますか」
「えっどういうことですか」
いきなり、想像もしなかったことを言われ、わけが分からなくなったが
(宝くじを買わなければ…もしかしたら、こんなことにならなかったかも。なら)
少し考えて、この状況が変わるならと思い
「でっできるんですか」
「えぇ、できますよ。どうなるかは分かりませんけど」
「なら、お願いします」
頼むことにした。女性は少し微笑んで言った。
「世界は現時点より書き換えられる…そして、今へと繋がる」
そして次の瞬間…世界が一周回ったかと思うと、体に力が入らなくなった。
(えっ、体が動かない…なんで)
「これは、宝くじを買わなければあなたは死ぬ運命だったってこと…かしら」
(嘘、私…死んだの…なんで)
ガチャ
校門にいつも誰かを待っている男がいた。見た目からして、とてもチャラい男…つまり、チャラ男。だが、とてもやさしい性格の持ち主だ。
そんな彼は、いつも誰かを待っている。正確には、本来ならいるはずだった誰かを待っていた。その誰かとは、過去を変えたことによって電車の事故に遭い死んでしまった先輩のことだ。
本来なら、『自転車で帰る途中の彼女が彼を助けて次の日に会う』という流れだったのが、助けた後に『電車に乗って、その電車の事故で死んでしまう』という流れに変わってしまったので、彼は誰が助けてくれたのかを知らないでいる。
俺はこういったバッドエンドは少し嫌いだ。とりあえず、真実を話すことにしようか。「そこの君、すこしいいか」とね。
「なんすか、今人を待っているんっすよ」
いきなり、知らない人が話してきたっすけど。俺はそんな暇はないっす。なぜなら
「命の恩人を待っているのだろう」
すると、いきなりその人は待っている理由を言ってきたっす。
(もしかしたら…知ってるのかもしれないっす)
と思い、聞いてみたっす。すると
「あぁ、知ってはいる…だが、その恩人は電車の事故で死んでしまった」
「そんな…そんなの嘘っす。俺は、ずっと待ち続けるっすよ」
(ひっどいことを言うっす)
と思いながら待っていたっすけど、その人は訳の分からないことを言ってきたっす。それは…
「だが、まだ助けられる。黒猫亭に行くんだ。じゃあな」
「それって、どういうことすか。まだ助けられるって」
しかし、振り向いたときにはもう誰もいなかったっす。
(一体どういうことすか。死んでいるのに助けられるって矛盾しているっす。黒猫亭…そこによく行ってるってことすかねぇ)
でも、気になったっすから、黒猫亭を探しにいってみたっす。そして…
「着いたっす。おそらくここが黒猫亭っす。んじゃ、失礼するっす」
ガチャ
突然、死んでしまったと聞かされ困惑していたとき、突然扉が開きそこから…
「すみませーん。ここが黒猫亭っすか」
チャラ男がやってきた。
(えっどうしてここにチャラ男が)
「えぇ、そうよ。黒猫亭にようこそ。何をお望みですか」
「そんなの決まってるっす。俺の恩人を探しに来たっす。で、どこっすか」
チャラ男は、私を探していると言って、女性に詰め寄った。
「恩人…あなたがチャラ男ね。ごめんなさい、彼女は死んでしまったわ」
(あなたが殺したんでしょ。あっでも、私がお願いしたのか)
私が私を殺してしまったと気づき、
(もういいや。諦めよう)
そう思ったとき
「なんで死んだんすか、ここに来れば助けられるんじゃなかったんすか」
「…名前も知らない人を助けたいのかしら」
「そうっす、俺の命の恩人にまだ何も返せてないっすから、まだ、生きていてほしいっす」
そう、チャラ男は泣きながら叫んでいた。すると、女性は立ち上がりチャラ男を見た。
「なら、いいわ。もう一度変えてあげる」
そう言って、
「世界は現時点より書き直される…そして、今へと繋がる」
世界が一周回り…
「センパイ、大丈夫っすか」
「ここは、黒猫亭…なんでチャラ男がいるの」
「あなたを助けに来たのよ」
女性がまた意味の分からないことを言ったと思った瞬間、すべてを思い出した。
「そういえば、一回死んだんだっけ。で、チャラ男が…チャラ男っ助けに来てくれて…」
「セッセンパイ、泣いてるんすか」
グスッ グスッ
「あのねぇ、そういうのはよそでやってくれるかしら。ほら、帰った帰った」
そう言って、私たちを外へ追い出して、扉を閉めてしまった。
バタン
「チャラ男…今日は助けてくれてありがとう」
「センパイ、俺…役に立ったっすか」
「うっうん、すごく役に立ってくれた。おかげで…どうしたの」
「おっ俺、セッセンパイの役に…センパイ、俺と―――
この話は、これで終わり。この先はまた別の物語だ。
「ねぇ、―――様…見ているのでしょ。あなたがハッピーエンドで終わるのが好きなのは知っているけど、私にもやることがあるのだけど」
そんなことを考えていると、向こうから話しかけられてしまった。「どうしようか」と思いながら覗いていた穴を閉じた。
今回は、後悔をなくすため過去を変える話だった。しかし、過去を変えたことによってとても小さなかさなりがなくなり、死んでしまうことになった。
まさに、「あの後悔があるから今の自分がいる」というやつだ。さて、もう時間だな。
世界がまた暗闇に包まれ、また眠りにつくことにした…
…うぅ、なんだかな。