君への愛はこの海よりも広くて深い、なんて言わないけど
お互い休みが合った休日。
天気も良さそうだし、少し遠出でもしようかと向かった海。
近くのパーキングに車を停めて、砂浜まで歩く事にした。
そして、遮るも物がなくなり、視界いっぱいに海が広がった瞬間、足を止めた彼女。
「あー……海なんて久しぶりだなー」
両腕を目一杯広げて、満足気に微笑む。
風に髪がなびいていて、海に歓迎されているように見えた。
シーズンオフということもあり、ここにはカップルらしき男女が二組と、石段にレジャーシートを広げて昼食を摂っている四人家族の姿しかない。
俺達はもう少し歩みを進め、防波堤の真ん中辺りに腰を掛け、一休みすることに。
風に遊ばれている髪を時々整えつつ、目を閉じて波の音に酔いしれている彼女。
でも、どこか浮かない顔に見える。
「最近無理してない?」
「えっ?」
少し驚いた顔をこちらに向け、風になびく髪をまた整えた。
「何かちょっと疲れてる感じがする」
「んー……まぁ、疲れてるといえば疲れてるかな」
また海の方に顔を向け、ふふっと小さく笑う。
同じ職場じゃないから、彼女の頑張りも苦悩もわからない。
わからないけど……
疲れ切ってしまうまで溜め込んだりはしないで欲しい。
そっと手を取って、俺も海を見つめた。
そんな俺を見て、彼女が手に力を込めたのがわかる。
少し距離を詰め、繋がっている俺の手を両手で包み、肩に頭を乗せてきた。
弱いところも見せてくれていい。
こうやって甘えてくれていい。
頼りになるかはわからないけど、どんな君でも受けとめることは出来るから。
「ねぇ」
「何?」
「何でそんなに優しいの?」
「えっ……」
突然の質問に固まっていると、頭を離して顔を覗き込んできた。
「ねぇ、何で?」
俺が恥ずかしがっているのをわかっていて、わざともう一度聞いてくる彼女。
「しつこい」と言って顔を背けると、また肩に頭を乗せてきた。
「そんなに優しいと心配になっちゃうよ」
「何で心配なんだよ」
「言われた人からすれば、ちゃんと自分のこと見てくれてるんだなぁって、惚れちゃう要因になるから」
「何、今のでまた惚れちゃったの?」
さっきの仕返しとばかりに顔を覗き込めば、素直に頷いて見せる。
その瞬間、体中の力が抜けていった。
愛おしくて堪らなくなった俺は、そのまま顔を近づける。
そして、しばらくしてから顔を離し、また海に視線を戻した。
「心配するだけ無駄だよ」
「無駄?」
「疲れてるとかわかるくらい見てる女は、一人だけだし」
その答えに満足したのか、彼女は俺の手を包んでいる両手にさらに力を込めて、ふふっと小さく笑った。