伝説となりつつあった夢の新技術は人類を救えるのか?誰の功績?
博士と長官の2つめです。
「つ……ついに完成いたしました。とうとう念願の……。」
「おおそうか……ついに伝説ともいえる人類の夢の核融合技術が完成したのか。これで世界は救われる。すぐに地球連邦総裁に報告せねば……。」
息せき切って長官室へ駆け込んできた博士の報告に、科学技術庁長官も満面の笑みを見せた。
「まっまさか……核融合技術完成なんて恐れ多い……。勘違いしないでください、今回は核融合炉を設置する土台を固定するための、超硬質素材のネジが完成したという報告です。これで安定した核融合を継続させるための土台の目途が立ちました。これはすごい事なのですよ!
核融合炉の試作までは、まだあとおよそ千点の精密加工を施した特殊な資材が必要となります。まだまだ先は長いのですよ。」
喜び勇んで受話器を持ち上げた長官に対し、博士は大きく首を横に振った。
「はあ?ね……ネジの……たかがネジの完成報告をしに来たのかね?」
「たかがネジとは失礼な言い方ですね!プラズマ放出の際の振動を解消するために、スパコンの計算では超硬質素材を千分台の精度で加工を要求されているのですよ!それがどれほど大変な技術か分かりませんか?」
あきれ顔の長官に対し、博士は憮然とした表情に変わる。
「そんなこと言っても、開発に着手してから既に3年もの歳月が流れているではないか。その間何の途中経過報告もなしに……一体あとどれくらいで試作機は完成するというのだね?」
「はあ……先ほど申し上げましたように、千点の部品加工は今回のネジと同等の精度を要求されておりますからね……単純計算でこれまでの期間の千倍ほど……。」
「3千年か?君はずいぶんと長生きをするつもりのようだね!」
「まさか……部品が全て完成したとしても、それらを精度よく組み上げる技術を開発する必要性がありますし、試作機が出来てからようやく融合炉の実験が開始されるのですよ……軽く見積もっても3千年どころかその倍はかかりますよ!夢の技術なのですよ、人類の夢!その夢にようやく一歩近づいただけです!」
長官の皮肉めいた嫌味も通じず、博士は何度も夢の技術なのだと繰り返す。
「じゃあ君ぐらいの科学者が千人いれば、あと3年で完成できる事になるのかね?」
「はあ……私程度であればすぐに千人集まるでしょうが、千分台で精密加工できる技術を持つ職人は、私が知る限り地球上でたった一人しかいないから無理ですね。」
博士は胸を張って言い切った。