物語の始まり
俺はオタクだ。ゲームはもちろん、漫画やアニメも一般人が見る量を遥かに超えている。幸いなことにこんな俺にも友人がいる。昔からの腐れ縁ってやつだ。そんなやつらと今は神社で年が変わるのを待っているところだ。
「もうすぐだね〜」
「今年は特に何もなかったつまらない年だったな〜」
「それはお兄ちゃんが家でずっとゴロゴロしてたせいでしょ!」
そんな会話をしているのが、葵、春人
そして春人の妹の桜だ。
「翔は一人で何してんの?」
神社の隅でスマホゲームをしていた俺に話しかけてきたコイツが優馬だ。優馬はなにかとみんなを気遣ってくれる、いわゆる優男だ。
「後2分くらいで年越しだな」
ゲームの片隅に見えた23:58という数字から、ようやく年越しモードに切り替えた俺はみんなが集まっている場所に移動した。
「なにしてたのよ、どうぜゲームでもしてたんでしょ!」
そんなこと言われつつもまた携帯に目を向けると23:59分になっていた。周りもざわついてきた。そして誰かが大声を出すのに続いて他の人も声をそろえた。
『年越しまで後10秒〜』
『10』『9』『8』『7』『6』『5』『4』『3』『2』『1』
『ハッピーニューイヤー!!』
やっと年越しだ。来年も頑張ろう、そう少しだけ思えた。
「この瞬間が何気に一番好きなんだよね〜私」
「私も葵さんと同じで年越しが好きだし、なにより頑張ろうって思えるんですよね〜」
女子トークが盛り上がっている中、ふと優馬が気づいて口に出す。
「今気づいたけど、もうこの神社に俺ら以外居なくなってない?」
優馬の言う通り、年が明けてまだの5分程度しかたってないのにこんなにすぐ人がいなくなることってあるのか?そう不思議に思っていると、
「ほんとだ〜じゃあ私たちもそろそろ帰ろ〜」
葵は何も考えてないらしい。少し変に感じながらも、こんなことぐらいある、と思いこんでみんな着いて行った。
帰り道の途中葵が変な事を言い出した。
「ねぇねぇみんな、帰り道なんだけどこっちの道から帰ってみない?」
そう言われ葵の指差す方を見ると、道ともいえない獣道のようなものがあった。
「まぁ新年だし新しい事にも挑戦してみるか!」
と春人が葵に賛成する形でみんなその獣道から帰ってみることにした。
流石に迷うことはないかと思いつつ歩いていたが、案の定道が分からないと言い出し迷ってしまった。それどころか僕らを家に返さないと言わんばかりに濃い霧がでてきた。
しばらくして霧が薄くなってくると、正面に古びた旅館のような建物が見えてきた。
「私さっきからトイレ我慢してたの。ちょっとあそこの建物に行ってくるね〜」
「あ、俺も俺も」
「私も〜」
金魚のフンのようにみんな葵について行きトイレをしに行った。こんな夜道に一人でいるわけもなく俺も着いて行くことにした。
「すいませ〜ん、誰か居ますか〜?トイレを借りたいんですけど〜」
返事は聞こえてこなかった。 この旅館は意外にも玄関が広くて普通に綺麗だ。なのに人の気配がしない。少し不気味だ
少し怖くなった俺は気を紛らわすためにゲームしようとした。だか電波が悪く、時々圏外になることがあったので一旦外に出て電波の届くところでゲームをしようとおもった。
「俺ちょっと外でゲームしてくる」
そう言ってドアを開けようとした俺はより怖くさせられた。
「ガチャ、ガチャ」
ドアが開かないのだ。そのことにみんなも気づき少し不安がったがよほど漏れるのだろう、「壊れているだけだからそれは後だ」と言って気にしなかった。
「とりあえず誰かスタッフさんを呼んで、トイレを貸してもらおう」
「そうね、。誰かいませんか〜?」
そう言いながらみんな中に入って行ってしまった。
俺は(これよくある脱出ゲーム系の展開に似てるな)と思いながら、靴を脱いでスタッフを探しに行くことにした。
これがこの旅館での物語の始まりだった。
そして俺は廊下の壁に飾られている一枚の絵に目をがいってしまった。
その絵には、薄暗い池の真ん中に髪の毛のようなもので全身を覆っている、巨大な物体が描かれていた。後にそいつは髪おばさんと呼ばれるようになった...