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とても仲良くなってみた

「うわー、素敵な夢じゃない! 平民の転校生が一生懸命頑張って、みんなから認められて最後は王子様と婚約するなんて、とってもロマンチック…………あれ? でもその夢がコリアンデちゃんがいじめられることに関係してるの?」


 うっとりとした表情で言うソバニが、それに気づいて問い掛けてきた。その予想通りの問いに、コリアンデは苦笑しながら答える。


「お姫様になった女の子が、いじめられている人を目撃してたでしょう? それが私なんです。彼女がいじめの存在を知るためのきっかけ……ほんの一瞬目にされるその時までずっといじめられ続けているのが、私なのですわ」


「えーっ!?」


 あまりと言えば、あまりの事実。思わず叫んでしまったソバニに、コリアンデは苦みを追加した笑顔を向けることしかできない。


「更に言うなら、私の存在はその後一度も夢に出てきませんでしたわ。なので場合によっては彼女が学園からいじめを無くすまで……六年近くの間ずっといじめられつづけることになるわけです」


「で、でも、それってただの夢でしょ!? それが本当になるなんてこと……」


「そうですわね。その通りなのですけど……ほら、私、今ここに居ますでしょう? 普通ならば入学できないはずのこの場所に」


「あうぅ、だけど……」


「ふふ、いいんですのよ。私だって夢の全てを信じているわけではありません。そもそもこの夢が本当に未来を見せてくれたのかどうかだって、どんなに早くても三年後にあの方が入学してくる姿を見るまではわかりませんしね。


 ですが、もし本当だったら? この未来を知ったことで、自分の運命を変えられるのであれば……?」


 泣きそうな顔で困り果てるソバニを前に、コリアンデはそう言って昔を思い出す。楽しい楽しい誕生日の夜から熱を出し、やっと体調が戻ったときに僅か六歳の自分を襲ったあまりにも理不尽な未来。それを素直に受け入れることなんて、コリアンデにはできなかった。


 当然と言えば当然だろう。六歳の子供が「君は将来酷くいじめられるけど、頑張って我慢してね」と神様に告げられたとして、それを受け入れるはずがない。


「なので、最初に考えたのは『どうやったらこれとは違う未来に辿り着けるのか?』ということです。具体的にはこの学園に入学しないようにすることですわね」


「……何をしたの?」


「イタズラです」


「い、イタズラ!?」


 驚くソバニに、コリアンデはニッコリと笑って答える。


「はい。選ばれた凄い子供しか入学できない学園だというのなら、とてもそこには入れない悪い子になればいい! と、当時の私は考えたのですわ。もっとも、すぐに失敗してしまいましたけれど」


「どうして? ご両親に怒られたとか?」


「いえ、私自身で嫌になってしまったんです」


 六歳の子供が思いつく限りの悪い事を、当時のコリアンデは全力で行った。だがそれに対して両親は突然豹変した娘の姿を「高熱のせいでおかしくなった」と嘆き、イタズラをしようと物陰に隠れていた自分に気づかなかった両親が、肩を抱き合い悲しげに泣いている姿をコリアンデは目撃してしまった。


「自分が嫌な目に遭わないために、両親を悲しませるのは違う……というか、当時の私の気持ちとしては、単に両親が悲しそうにしているのがどうやっても耐えられなかったのですわね。なので結局三日ほど大暴れをしてから、あっさりと悪い子になるのは諦めましたわ」


「そうなんだ……よかった」


 大声で泣きわめきながら「ごめんなさい」と繰り返すコリアンデを、両親は優しく抱きしめその全てを許してくれた。そしてその時点で、コリアンデのなかで「誰かに迷惑をかけるようなこと」が未来を変える選択肢から完全に消え去っていた。


「ただ、そうなるとどうしていいかが本当にわからなくなりましたわ。だってそもそもどうして未来の自分が普通なら入れない学園に入学しているのかもわからないんですもの。わからない条件を回避するための方法なんて考えたってわかるはずありませんわ」


「わからないのがわからないから、どうしていいかわからない……? うぅ、何か頭がぐちゃぐちゃになっちゃいそう……」


「ふふ、当時の私もきっと今のソバニと同じような気持ちだったと思いますわ。なので、考え方を変えたんです」


「どうしたの?」


「それはですね……」


 ためを作るコリアンデに、ソバニがベッドから身を乗り出して続きを待つ。そんなソバニの方にそっと近づき、ベッドの下からまっすぐにソバニを見上げると……


「いじめられるのが避けられないなら、いじめられても大丈夫なくらいに心と体を鍛え上げればいいのですわ!」


「…………えぇ?」


 コリアンデの言葉に、ソバニの頭が今日一番の混乱を来す。何故そうなるのかソバニには全く理解が及ばない。


「えっと、いじめられないようにするんじゃなくて、いじめられても平気になるってこと?」


「そうですわ! その為に私、森に籠もって修行しましたの!」


「修行!? ごめん、ちょっと話についていけないかも……」


「構いませんわ。自分が普通じゃないことくらいは、私も理解しておりますもの。でも、当時の私はそれが一番いい方法だと思った……思ってしまったのです。


 ほら、恋愛物語などで障害に負けずに頑張る主人公っているでしょう? あんな感じでいじめに耐えきるのは格好いいんじゃないかって思ったんですわ」


「ああ、それならわかる! なるほどー、だからコリアンデちゃん、ドレスを泥だらけにされたのにあんまり辛そうじゃなかったってこと?」


「そうなのです! 元々覚悟しておりましたし、その為に努力もしました。実際修行中はもっと全身泥だらけでしたし、お腹だってキュウキュウなってましたし、先生は優しいけれども厳しくて…………今思い出してもちょっと怖いですわ」


(森で修行って、一体どんなことをしたんだろう……?)


 自分の肩を抱いてプルリと振るえるコリアンデの姿に、ソバニは内心そんなことを考えて首を傾げる。自分よりも小さく華奢に見えるコリアンデはとても強いように見えないだけに、その様子を想像しようとしても全然形にならない。


「まあとにかく、大自然の中で心と体を鍛えた私からすれば、あの程度のいじめなんて、全然へっちゃらへのへのぷーなのですわ!」


「へのへのぷー?」


「へのへのぷーですわ!」


「へのへのぷーかぁ……凄いんだね、コリアンデちゃん」


 小さな体で力説するコリアンデに、ソバニはベッドの中に体を戻すと、寝転がって随分と近い天井を見上げる。


「私だったら、きっと泣いちゃってたんだろうなぁ」


 自分の将来が何年もの間いじめられるだけだなどと言われたら、たとえ夢であっても我慢できる気がしない。だからこそ感心するソバニだったが、予想より近くからできたばかりの友達の声が聞こえてくる。


「あら、そんな心配をする必要は、もうありませんわよ?」


「え?」


 ギシッと音がして横を向くと、そこにはハシゴを登ってすぐ側までやってきたコリアンデの姿があった。物珍しそうにベッドの上を軽く見回してから、コリアンデが細い腕を曲げて力こぶを作るような仕草をする。


「だって、ソバニさんがいじめられたりしたら、私が何とかしますもの! 何せお友達ですから!」


「そっか。ありがとうコリアンデちゃん」


「まだ何もしてませんけどね」


「はは、そりゃそうだ!」


 受けてもいないいじめを心配する自分と、それを今から何とかすると宣言する友達。その不思議なやりとりに、二人はまたも笑い合う。


(いきなりお尻を見られたのはアレでしたけど、まさかいじめられるだけでなく、こんないい方とお友達になれるとは……やはり学園に来ないのではなく、来ても大丈夫なように頑張ったのは正解でしたわ)


 コリアンデが話していない秘密は、まだある。それによってはやはり嫌われてしまうかも知れないが……それでもこの出会いが幸せだと思う気持ちはきっと永遠に変わらない。


「ねえ、ソバニさん? 夕食が終わったら、今夜は二人で夜通しお喋りしませんこと? 私、とっておきのお菓子と紅茶をご用意しますわよ?」


「うわ、それ楽しそう! なら私は……ど、どうしよう? 急すぎて何も思いつかないや」


「ならお話の間は、上のベッドにご招待いただけませんか? 実は私もちょっとだけ興味があるんですの」


「あはは、勿論! 今夜が楽しみ!」


「ええ、本当に」


 約束を取り付けた二人の少女は、その晩月が顔を隠すまで語り合うことになる。そして翌日、初めての授業にお揃いの寝ぼけ顔で出席することになるのだが、仲良く可愛くあくびをする二人に、教員のご婦人は苦笑いを浮かべることしかできないのだった。

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