表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いびられ令嬢コリアンデ ~いじめフラグにメガトンパンチ~  作者: 日之浦 拓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/40

友達先輩、紹介された

 ショーネがコリアンデ達の昼食に加わるようになって、おおよそ二週間。その日も授業を終え一人食堂へとある気進むアッカムに、不意に背後から声をかけてくる人物がいた。


「あーら、アッカム君じゃないのぉ!」


「あれ? 先輩?」


 名前を呼ばれて振り向けば、そこには笑顔で手を振るショーネの姿があった。そのままトテトテと歩み寄ってくるショーネに、アッカムは首を傾げて問う。


「何で先輩がこんなところにいるんだ?」


「ふふふ、ちょっと先生に頼まれ事をして、その帰りに通りかかっただけよぉ。でもせっかくだし、一緒に行きましょうかぁ?」


「おう、いいぜ!」


 ショーネの提案にアッカムが二つ返事で応じ、二人並んで廊下を歩いて行く。その途中にかわす雑談にて、ショーネが徐にアッカムに話を切り出した。


「そういえばぁ、アッカム君ってコリアンデちゃん達以外のお友達、全然いないわよねぇ」


「うぐっ!? な、何だよ突然!?」


 含みのあるショーネの言葉に、アッカムは思わず声をあげる。元々いたずら好きの高位貴族……つまりは「厄介なのに怒れない」存在であるアッカムは遠巻きにされがちだったが、いつも一緒にいるコリアンデの存在やイジワリーゼ達の関わりもあり、もう学園が始まって三ヶ月以上経つというのに、未だ知り合いより親しいと言えるような友人はコリアンデ達を除けば一人もいなかった。


「べ、別にいいだろ! 何だよ、先輩まで俺の事馬鹿にすんのか!?」


「まさかぁ! でも、そうねぇ……アッカム君に友達ができないのは、アッカム君じゃなくて周りにいる子に問題があるんじゃないかしらぁ?」


「……どういうことだ?」


 今まではいつも「お前が悪い」と言われてばかりだったために、アッカムがショーネの言葉に興味を示す。それを内心でほくそ笑みながら、ショーネはほんの少しだけアッカムに顔を近づけて話を続けていく。


「アッカム君にお友達ができないのはぁ、アッカム君の事を受け入れる余裕が周りの子達には無かったからだと思うわぁ。だからそんなお子様達じゃなくてぇ、もっと大人の殿方とならすぐに仲良くなれるんじゃないかしらぁ?」


「大人? 先生とでも仲良くなれってことか?」


「違うわよぉ。私達くらいの年頃なら、一つ二つ上になるだけでもグッと大人になるものよぉ。私のお友達にアッカム君と仲良くなれそうな子がいるから、もしよかったら会ってみなぁい?」


「先輩の友達……? まあ、うん。会うくらいならいいけど……」


「なら決まりねぇ! ふふ、きっと気に入るわよぉ」


 アッカムとの約束を取り付け、ショーネが上機嫌に笑う。そうしてその日の授業が終わると、校舎を出たアッカムを待っていたのは二人の年上の男子だった。


「お? 君がアッカム君か?」


「そうだけど……アンタ達がショーネ先輩の言ってた奴らか?」


「ハッ! 年上にその口の利き方! いい感じに悪ガキじゃねーか!」


 アッカムの物言いに、男子の一人が笑いながらアッカムの肩をバシバシと叩く。


「な、何だよ。アンタ達もやっぱり、俺の事を悪く言うのか!?」


「はっはっは、そんなことねーよ。なぁイツワール?」


「ああ、そうだとも。自分で言うのも何だけど、私達も少し前まで君と似たようなものだったからな。っと、まずは自己紹介しておこう。私は二年生のイツワール。で、そっちが……」


「同じく二年のダーマスだ。宜しくな、アッカム」


 スラリとした長身で理知的な顔つきをしたイツワールと、ガッシリとした体つきで自分によく似た雰囲気を持つダーマス。そんな二人に笑顔を向けられ、アッカムは若干緊張した面持ちで自分も名乗る。


「俺はアッカムだ。こちらこそ宜しく……えっと、ダーマス先輩と、イツワール先輩?」


「ハッハッハ! そう固くなるなって! せっかくこうして知り合ったんだし、まずはお互いの武勇伝の交換といこうぜ?」


「ぶ、武勇伝!?」


「そうだ。お前にだってあるんだろ? 入学早々女子にカエルをぶつけまくってたって聞いてるぜ?」


「そ、それは……」


「ちなみに俺は蛇だったぞ? まあ毒も無けりゃ噛みつきもしない大人しい種類の蛇を見つけるのが大変で、記録は大して伸びなかったけどな!」


「えっ!? ダーマス先輩、そんなことしてたのか!?」


「言ったろ? 俺達はお前と同じようなもんだってな」


 馴れ馴れしく肩を組んできたダーマスが、そう言ってニヤリと笑う。驚くアッカムが視線を横に滑らせれば、そこには気まずそうな表情で顔を逸らすイツワールの姿がある。


「……まあ、うむ。私も似たようなことをやりはしたな」


「ふっふっふ、イツワールの奴はもっと凄かったんだぜ? わざわざ早起きして蜘蛛を捕まえると、狙った相手の通る場所にそっと離すんだよ。そうするとこのくらいの時間帯に丁度巣が張られてて、そいつが顔やら髪やらにべちゃっと……」


「ダーマス!」


「す、すげー! ダーマス先輩はともかく、イツワール先輩までそんなことを……!?」


「オイこら、何だよ俺はともかくって!」


「フッ、そこは見た目の違いって奴だろ。私の方はあくまでも昔の話だが、ダーマスは未だにあの頃のままだからな」


「言ったなイツワール! おいアッカム、二人でイツワールをぎゃふんと言わせようぜ!」


「えっ!? ど、どうすれば……」


「へっへっへ、まずは――」


 そうしてアッカムは、二人の先輩達と日が暮れるまで遊び倒した。飾らない素のままの自分を受け入れてくれる同性の先輩達と過ごす時間はあまりにも楽しくて、ほんの数時間のことだというのに、アッカムはすっかり二人に懐いてしまう。


「あー、楽しかった!」


「だな! お前、なかなか見所あるぞアッカム」


「確かに私達の相性は悪くないようだね。もし君さえよければ、これからも仲良くしようじゃないか」


「いいのか!?」


「勿論。改めて宜しく、アッカム君」


「宜しくな!」


「う、うん! 宜しく!」


 差し出される手をガッシリと握り、アッカムが笑顔でそう告げる。たった二つ年上になるだけでこれほどまでに違うのかという衝撃と、学園に入って初めてできた同性の友達という存在に、アッカムは自分が思った以上に舞い上がってしまう。


「よっし、なら今度は昼も会おうぜ! てか、一緒に飯食おうぜ!」


「えっ……いや、昼は……」


「ん? 何だアッカム君。何か昼食時に用事でもあるのかい?」


「用事、ってわけじゃないけど……」


「ならいいだろ……って、そうか。お前確かあのコリアンデとかいうお嬢ちゃんといつも一緒に飯食ってたよな。何だよお前、あの子のこと好きなのか?」


「す、好きじゃねーよ! 誰があんな貧乏女なんか!」


 ニヤニヤと笑うダーマスに、アッカムはついムキになってそう叫ぶ……叫んでしまう。その言葉に一瞬だけ視線を交わしたダーマスとイツワールが、畳み掛けるようにアッカムに声をかけていく。


「そっかそっか。なら問題ねーな。まあ俺の見込んだ後輩が、女の尻を追っかけ回して『一人じゃ寂しくてご飯も食べられないよー!』なんて泣いてるような軟弱者のはずねーけどよ」


「事前に約束しているならともかく、ただ何となく食べていただけならば気にしなくても大丈夫でしょう。


 なに、男同士の友情を深める大切さを、そのコリアンデとかいう娘だってわかってくれますよ」


「う、うん。そうだよな……わかってくれるよな……?」


 笑顔の二人に迫られて、アッカムはまるで自分に言い聞かせるかのように、覇気の無い声でそう呟く。するとすぐにそれを後押しするように二人の先輩の言葉が続く。


「ああ、大丈夫大丈夫! つーか、そもそもお前がお前のしたようにして駄目だなんて文句言ってきたら、そんな女またカエルでもぶつけてやりゃいいんだって!」


「コリアンデにはショーネさんから伝えておきますから、アッカム君が気にすることは何もありません。相手の我が儘にアッカム君が付き合う必要はないんですよ」


「そ、そっか。俺の……好きにすればいい、のか……」


 話の流れが、何故か「コリアンデが自分を無理に誘っている」という風に切り替わっていることに、アッカムは気づかない。そうして話を押し切られ、翌日の昼。アッカムは初めてコリアンデ達との昼食をすっぽかすことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら星をポチッと押していただけると励みになります。

ツギクルバナー
小説家になろう 勝手にランキング 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ