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いびられ令嬢コリアンデ ~いじめフラグにメガトンパンチ~  作者: 日之浦 拓


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先輩悪女がやってきた

 コリアンデ達が悩ましくも楽しい時間を過ごしているのと同じ頃。寮の片隅では自室に引き籠もってただひたすらに不満を語る別の三人組の姿があった。言わずと知れたイジワリーゼ達である。


「最悪ですわ。最悪ですわ! 何故ワタクシがこのような目に遭わねばならないというのですか!」


「まーまー、落ち着けよお嬢様。騒いだって何にも変わらないだろ?」


「そうです、落ち着いてくださいリーゼお嬢様」


「この状況のどこに落ち着く要素があるというのですか!? たとえ何も変わらないとわかっていても、黙ることなどできるわけないではありませんか!」


 取り巻き二人に諭されても、イジワリーゼの機嫌が直ることはない。


 コリアンデ達が去った時、イジワリーゼ達は当然その場にそのまま放置されていた。すると流石に足止めの限界を超えて寮に戻ってきた生徒達は、大股をおっぴろげたり尻を突き出したりというあられもない姿で地面に倒れているイジワリーゼ達の姿を目撃することになり……その結果、イジワリーゼの権威はかつて無い程に低下することとなった。


「ワタクシが! イービルフェルト侯爵家の長女であるこのワタクシが! あんな有象無象の者達から蔑むような視線を向けられるなど、あっていいはずがないではありませんか!」


 別に侯爵家の令嬢という立場が変わったわけではないのだから、表面上の変化は無い。が、今までは畏怖や尊敬の込められていた視線が、あの日から何処か可哀想なものを見るような眼差しへと変わっている。


 生まれてからずっと強者であったイジワリーゼにとって、自分が格下だと思っている相手からの憐憫の視線など、到底受け入れられるものではない。そのためイジワリーゼは授業などの必要最低限の外出以外では、こうして自室に引き籠もって取り巻き二人に愚痴を言うという何とも不毛な日々を送っていた。


「許すまじ田舎娘! どうにか、どうにかして自分の立場をはっきりとわからせてやらねば気が済みませんわ!」


「その気持ちはアタシだって同じだけど、でも具体的にはどうしようもなくね?」


「そうですね。情けない話ですが、これといった作戦が思いつきません」


「ぐぬぬぬぬ…………」


 いきり立つイジワリーゼに、しかしミギルダとヒダリーは困った顔でそう呟く。どうにかしてコリアンデに復讐したいという思いはあっても、どうすればいいのかはどれだけ考えても思いつかない。


「……ミギルダ、貴方あの田舎娘をどうにかできませんの?」


「いやいやいやいや、いくらアタシでもゴリラは無理だぜ!? 兄ちゃん達が本気出せばわかんねーけど、流石にそんなこと頼めねーし」


 バカニシテルン家は、代々優秀な軍人の輩出している家系だ。ミギルダの二人の兄も当然王家に仕える騎士であり、その実力は本物だが……だからこそ一二歳の女の子を本気で倒してくれというのは、いくら可愛い妹からの頼みでも聞き入れてもらえないだろう。


「ならヒダリー、貴方はどうです? あの田舎娘をピーピー泣かせる素晴らしい作戦はありませんの!?」


「それは……」


 イジワリーゼに問われて、ヒダリーは言葉に詰まる。既に三度部屋に侵入しているので、これ以上コリアンデの私物に何かをするというのはもう難しい。かといってダンスの授業の時のように、直接的に「淑女教育」をしても通じないのは明白だ。


 そして何より、コリアンデの周囲の人間を攻撃するという最も有効な手段が完全に封じられてしまった。懐柔策が潰えた以上ベイダー伯爵家を完全に敵に回すのは得策では無いため手を出せるのはソバニだけなのだが、もう一度同じ事をしようとしても、コリアンデの強さを知ったソバニはあっさりと助けを求めるだろう。その結果がどうなるかは……もはや想像すらしたくない。


「一応、コリアンデの悪い噂を流してジワジワと周囲から嫌われるように仕向ける、という手段はあるのですが……」


「なら、何故それをしないのですか?」


「いえ、その……何と言うか、今より悪い状況にするのがなかなかに難しく……」


 コリアンデには、既に「男を弄ぶ魔性の女」と「学園で粗相をしたお漏らし姫」という二つの悪評がある。前者は浮名を流すような一部の男子貴族以外から、後者に至ってはほぼ全員から軽蔑されるようなもののため、これ以上に立場を落とすのは相当に難しい。


「田舎の下級貴族らしく、学園生活で人脈を築こうとしているのであればそれを邪魔するということもできたのですが、コリアンデにはそのつもりも無いらしく……先日の暴力行為が証明できればどうにでもできたのですが」


「マジでかすり傷一つなかったもんなー」


 苦しげな顔で言うヒダリーに、ミギルダが自分の体を見返しながら言う。


 コリアンデの宣言通り、あれだけの打撃を受けたというのに、イジワリーゼ達の体には小さな痣の一つも存在してはいなかった。心に刻みつけられている恐怖がなければ、自分達ですら「あれは夢でも見ていたのではないか?」と疑ってしまうほどだ。


 となれば、当然それを他人に証明などできない。それでも侯爵家の威光を使えば数日程度の謹慎処分は与えることができるだろうが……


「そして何より問題なのが、私達が直接何かを仕掛けたとコリアンデに知られた場合……その、またウホられるのではないかと……」


「ヒィィ!?」


 ヒダリーの漏らした言葉に、イジワリーゼが思わず身をよじる。いくら怪我をしないからといって、ウホウホ叫ぶゴリラ娘に殴られまくるのは途轍もない恐怖だった。あんな思いをもう一度させられたら、今度は自分が「お漏らし姫」の称号を賜ることになってしまうだろう。


「そ、それは駄目ですわ! ウホられるのだけは……っ。何か、何かありませんの!? あの田舎娘に気づかれることなく、こちらから一方的に仕掛けられる『淑女教育』を、どうにか――」


「あらあら、随分と面白いことになってるわねぇ」


 と、その時不意に三人とは違う声が部屋の中に響いた。ミギルダとヒダリーが素早くイジワリーゼの前に立つが、招かれていないその客人は悠然とイジワリーゼに声をかける。


「フフフ、お久しぶりねぇ、リーゼちゃん?」


「貴方は……ショーネ様?」


 ショーネ・クサットル。イービルフェルト侯爵家とは代々の付き合いがあるクサットル伯爵家の娘にして、自分に「淑女教育」の何たるかを教えてくれた二つ年上の女性の登場に、イジワリーゼは怪訝な表情を浮かべる。


「どうされたのですか? 学園では声をかけないというお約束だったはずですが……」


「そうねぇ。リーゼちゃんがどんな風に成長したかを見るには、私の存在は邪魔でしょぉ? だから当分は黙って見ているつもりだったんだけど……随分と面白い事になってるみたいじゃなぁい?」


「そ、それは……」


 ショーネの問い掛けに、イジワリーゼが苦しげに顔を歪める。本来ならば、イジワリーゼはここで独自の派閥を作り上げ、それを以てショーネとの再会を果たすつもりでいた。


 だというのに、今の自分は昔からの取り巻き(ともだち)を二人引き連れるだけで、部屋に引き籠もって愚痴を言っている始末。そのことに強い羞恥と無力感を感じ、イジワリーゼが俯いてしまう。


「も、申し訳ありません、ショーネ様。せっかくショーネ様の教えを存分に生かせる機会だったはずですのに……」


「フフフ、まあ確かに、今までリーゼちゃんの周囲に集まるのは、侯爵家にゆかりのある人達ばかりだったものねぇ。その権威から離れた学園では、ちょっと勝手が違うのも仕方ないわぁ」


「はい…………」


「でも…………失敗するのが仕方ないことと、失敗しても構わないって事は違うわよねぇ? 私が見込んだリーゼちゃんは、こんなところで文句を言っているだけの負け犬だったのかしらぁ?」


「ヒッ!? ち、違いますわ! い、今もあの田舎娘をどうやって教育しようか考えていたところで……」


「田舎娘ぇ? どういうことか、詳しくお話を聞かせてくれるかしらぁ?」


「わ、わかりましたわ。ヒダリー、お茶の用意を」


「畏まりました、お嬢様」


 慄く体を押さえて言うイジワリーゼに答え、ヒダリーが素早くお茶の準備を整える。そうしてお茶を飲みながらイジワリーゼが全てを語り終えると……


「フフフ、いいわぁ。そういうことなら、この私が『淑女教育』のお手本を見せてあげるわねぇ」


「よ、宜しくお願いしますわ……」


 可憐な毒花の如きショーネの笑みに、イジワリーゼは頼もしさと恐怖の両方を抱いて引きつった笑みを返すのだった。

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[気になる点] 動詞と化しているウホ [一言] >ショーネ・クサットル 定期震撼 父ちゃんはヒトガ伯爵で母ちゃんがタマシー伯爵夫人とか そういう感じなのだろうかw
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