クワマンがおったら、バカ殿やないか!
オーケー、一旦落ち着こう。変なことが起きてる!はやく日常に戻りたい。その考えにばかりにとらわれていたら、後で後悔するような気がしてきた。子供の頃、公開放送を見に行きたくて仕方がなかったレジェンド様がいらっしゃるわけで。ここは前向きにコミュニケーションをとって、あとあとみんなに自慢するパターンではなかろうか。
「ゆっくりいってもらえれば、わかりますから。唇の形でわかりますからね。」
キター!例のやつだ。これ、うまくやったら、若い嫁さんもらった方のレジェンド様も出てくるやつだ。次出てくるレジェンド様も大好きなんだよなぁ。嫁さんとデートしようとしたら、心配した親友2人がかならず見に来ちゃう話、完全に実年齢は老人の域なのに、アオハルの匂いしかしない最高のやつなんだよなぁ。それから、あーこういうつながりがあるっていいなぁ、っていう憧れも追加されて、ますます好きになっちゃったんだよな。あ、若い嫁さんとのつながりじゃないよ。憧れてんの。
否定しつつも、若い女性のイメージが頭の中をぐるぐるしていたせいかも知れないが、なにやら天使のコスプレしてるみたいな、透明感と清楚さが感じられる若い女性が現れて、レジェンド様に何事かささやくと、レジェンド様はテーブルに魔法陣のようなものを書き始めた。意外な行動だったので、何を書いているのはは気にあったが、一旦会話が可能そうな、女性に確認をすることにした。
「突然、この部屋に入ってきてしまっていて、何が何やら分からない状況なんですが、ここってどこなんでですか。」
「こちらは、死後の世界の入り口で、エリア統括の地区神様の審議所になります。」
え?なんか、随分事務的な用語出てきたな。冒頭の衝撃がだいぶ薄まっちゃったなぁ。とりあえず、事務的な用語について聞いて見たところ、八百万の神の国ならではの回答が返ってきた。
この国の神様は、多くの人々の信仰を集めた魂が昇格して生まれるものらしい。菅原道真公の天満宮、徳川家康公の日光東照宮。祟り神も含め神格が生まれた後、後追いで社が作られることもあるらしい。また、格によっては祀られることもなく、地縛霊との中間みたいな存在になって、そのうち忘れられて天に帰る神様もいらっしゃるそうな。
その新米の地区神様達に、審議所のお仕事の説明をし滞りなく、輪廻転生を推し進めるのが、この清楚さんのお仕事とのこと。なお、審議所は所謂、閻魔大王の裁きをやるところで、よほどの大物でなければ、閻魔大王には会えず、地区神様がそれなりの裁きをして、天国なり地獄なりに送るものらしい。中央の神様とかいるのかも知れないが、その辺りは取り敢えず後でいい気がするので聞かなかった。
レジェンド様をリスペクトしてる人間の数は、パないからなぁ。徳川家康公時代とは人の数が桁違いだから、神格を得た時点での信者数は、ダントツな気がする。そういうのって、神様の力に影響するのか気になったので聞いてみたところ、さすがレジェンド様、規格外とのことだった。
普通は、神様になっても何もできなくて、死んだ魂の行くべき道を少しだけ明るくしてあげるぐらいしかできないとのこと。なんで我の強い魂は、強引に天国への道を進むのだけど、そのあたりは閻魔様がガツンとやるらしい。まあ、そもそも審議所は神域なので、悪いことは一切できない。導かれた道を違えることも本来できないのだが、思い込みの激しいイタイ人には、罪悪感が無いので制約が効かないってことらしい。
そんなモンスター成仏者も居るなか、並の神様は、担当地区の空いた社に入って、参拝客の運気をちょっとだけ上げたりして、徐々に評判を上げて、力をつけて…運がよくて、参道に出店が並ぶようになったら神様としては安泰でアガリって…、これって割にあってるのかな?
一般的な力の神様は、生前の人となりを覚えてる人が減って神格を失い、成仏するとのこと。さっき聞いた地縛霊との中間さんやね。うーん。死んでからももう一回働く羽目になるとは、偉い人は大変だなぁ。
一方、レジェンド様は、信者数が最初っから大量なので、かなりの無茶ができるところからのスタートとのこと。無意識に生前親交のあった人物を、この審議所に呼び寄せてる状態なんだが、担当地区に生前の知り合いが通りかからないので、わりと似た特徴の人物をうっかり呼び寄せるトラブルが何件か起きているらしい。
ここに呼ばれちゃったら、死んでるので元には戻れないため、どこか希望する異世界へ転移いただいています。と清楚さんは、申し訳無さそうに話してくれた。この地区には限らないが、大抵は、好きな映画かゲームの世界に転移するらしい。こういう業界が今大変盛況なことはネットで見てたので、とりあえず…。
「好きなゲームの世界にいけるのなら、楽しそうですね。」
「では、早速手配させていただきます。」
あれ?社交辞令8割なのに…。なんか、清楚さん、焦ってない?ものすごい勢いで、時代劇の宿帳のようなものをめくりったり、壁一面に広がった箪笥の引き出しを開け閉めしている。そんなに急がなくてもいいですよ?と声をかけると、レジェンド様の力が強すぎて、この審議所は結構危険な状態なので、こちらこそ慌ただしくてすみません、と返された。
手を止めずに話し続ける清楚さんによると、神様は力をつけてくると、現世での能力に応じたスキルが発動するとのこと。元農業経営者だった神様は審議所を見事な花畑にし、元料理人の神様は訪れる人に美味しいデザートを振る舞って喜ばれるとのこと。そんな神様のアシスタントになった人はアタリですけどね。とため息交じりに返された。普通に考えたらレジェンド様なら、メッチャ楽しい審議所不可避と思い、レジェンド様のスキルの詳細を聞いてみた。
「こちらの地区神様は、生前のお仕事の影響で、オールバックで髭をはやした男性が側にいる限りにおいて、セクハラをしても咎められない、というスキルをお持ちです。」
うーん、一般的に言って頭おかしいお話だが、世代的に何のことかはっきり解ってしまうのが悲しい。あれですよね。クワマンがいたらバカ殿という理論ですね。わかり味が深い。そして清楚さんの眉間のシワも深い。あと、そのコント、なにそれ、みたい。絶対おもしろいやつやん。
「でも、そのスキル、特定の人物がピンポイントで居ないといけないって、条件厳しすぎて発動しないですよね?」
「…この地区では神様ですので、時間さえあればスキルが発動できるように、呼び寄せた魂を改変してしまえるようなんです。」
ちょうどレジェンド様が、地区神様となられた瞬間は、俺も含めた信者のみなさんのテンションがマックスだったようで、地区神様パワー全開で、かなり遠くの魂も引き寄せたそうで…。
「外国の方なのですが、キム将軍というかたがお越しになってしまって…。髪型がオールバックである以外は全く地区神様の生前のお知り合いに似てはいなかったのですが、引き寄せてしまったようです。遠隔地になってしまって効果が薄まってたとはいえ、十二分に神格を持つべき地位の持ち主でしたので、なかなか移転先を決められずに居るうちに、服装が裃姿のお侍におなりでした。」
信者の方々が、将軍の顔の写真を部屋に飾って常に見ていたため、顔の形について地区神様の影響を受けにくく、幸いにしてヒゲは生えなかったとのこと。この理論で行けば、似てないと噂の影武者氏も、近日中に瓜二つまで行けそうですね。