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君へのラブレター(仮)  作者: 時雨
恋の芽
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「奈江が、黒田くんとデートしてもいいと思ってるなら、受けてもいいと思うけど」

「うーん、でも私黒田くんのことは恋愛対象には見れないから……」

「奈江がその気が全くないなら、黒田くんのために、ちゃんと断ったほうがいいと思うよ」

「やっぱりそうだよね!ありがとう海!私ちゃんと断るね!」


やはり奈江は、一人じゃ決められなかったようで、私に相談したとたんに顔色が良くなり、決心できたようだ。こんなのいつものことだった。相談されることも慣れていた。だけどその相手が黒田くんだとわかってしまうと、こんなにも胸が締め付けられるなんて……。だけど奈江は私の心の中の気持ちを全く知らないので、なんでもない顔で私に相談を持ち掛け去っていくのだ。彼女もなかなか罪な女である。平静を装って、お姉さんぶって冷静にアドバイスをしたつもりだった。だのに私の胸の鼓動は激しくなるばかりである。その後もほかの会社の人に声をかけられたが、上の空だった。奈江は黒田くんのことを好きではないことはわかっていたけど、そんなことより黒田くんが、まだ奈江のことを好きでいることが一番私にとっては辛かった。彼女でもないのに、こんなことを思うなんてどうかしている。黒田くんの立場に立ってみたら、ただの迷惑でしかない。それでも、黒田くんと2人きりでデートをした日のことを思い出すと、楽しかったことしかなかった。つまらないことなんて何もなくて、100円の安いお寿司もなんだかいつもよりおいしく感じたし、普段ならあまり進んでしない車の運転も、楽しく感じた。つまり私は黒田くんと一緒にいればそれだけで、日常が楽しくなっていたのだ。こんなに一緒にいて心安らぐのは黒田くんだけ。黒田くんも当然同じように思ってくれていると勝手に思い込んでいた。私は職場に戻る前にトイレへ駆け込む。我慢していたものが零れ落ちてしまいそうだったから。慌てて鍵を閉めて、声を押し殺して泣いた。こんな姿は誰にも見られたくない。ああ、私そうだったのか。私やっぱり黒田くんのこと、いつの間にかこんなに大好きになってしまったんだ。本当はどこかで気が付いていたけど、認めたくなかった。誰かを好きになってしまったら、きっとまた私は相手に思いが伝わらず、失恋するだけだと知っていたから。今までずっとそうやって片思いを失ってきた。一度も私の恋が叶ったことなどなかった。私が誰かに恋をしたときは、私の失恋が決まるということであった。(だってこんな私を本気で愛してくれる人なんて今までいなかったのだから)

 中学生のころ好きになった人が何人かいたけど、そのころは私自身が本気でその相手を好きになったわけじゃなかったので、カウントしなくてもよいだろう。高校生のころはアルバイト先の人に恋をしたが、すでに相手には彼女がいて、すぐにあきらめた。(すぐ諦められたくらいなので、本気度はそこまで高くなかったはずだ)そのあとは他校の演劇部の後輩に恋をした。(1つ年下だった)必死に片思いしていたが、結局途中で相手に彼女ができてしまった。あの頃は思春期だったこともあり、それなりに切ない恋だと言えよう。そのあとは大学生になったとき、アルバイト先のゲームセンターの若い店長に恋をした。(今思えばかなりイケメンだったので、ひとめぼれだろう)しかし店長にも既に結婚を前提にした彼女がいた。そもそも店長は5つも年上だったので、私のことは子ども扱いしかしてくれなかったが……。そのあとも転々と好きな人は変わっていった。(いわゆる惚れやすい性格だったため、恋多き女なのだ)思い返すと、だけど私にはたった1人だけ、本気の恋をしたと言える相手がいた。まぁここではこの話は置いておこう。ただ、本気の恋が破れたあとは、自暴自棄になって色んな街コンに参加しまくった。街コンだけじゃなく、婚活アプリなども使って、色んな男性とデートを重ねた。だが、デートは最低1回、多くても3回までしか続かなかった。その半分くらいが体目当ての男で、素性もほとんど知らない男に、危うく処女を奪われるところだった。(私が処女だと知ったら、処女を相手にするのは気が重いと言われたこともあったので、大丈夫であったが)今となっては、自分の体を安売りしなくて本当に良かったと思っている。周りの友人たちの中には、男と女の密の関係を早く経験しなよ、と焦らしてくる子もいた。正直それについての近況を聞かれるのが苦痛でたまらなかった。だから最近はだんだん同性の友達と会うのも嫌になってしまっている。その分職場の人間関係は、そこまでプライベートには踏み込まないので、とても気が楽である。

実際、私は男性経験はほとんど皆無だったが、1度だけ自分から誘ってしまったことがある。仲の良い同い年の男の人だった。しかし、彼は私のことを体目当てにしか見ていなく、恋愛対象にはならないことを聞いてしまい、体を重ねても、私は愛されることなんてないんだなぁと実感した。幸いなことに体目当てな彼とは最後までしていない。私は目を覚まし、もう今ではその彼とは会っていない。体目当ての人とずっと付き合っていても、自分が不幸になるだけだから。


だから、そんな誰からも愛されなかった私に、黒田くんは女としての自信を少しずつくれたのだ。(彼はきっと無意識だったと思うけど)黒田くんは、私にくれる言葉一つ一つに、下心もないし、私を女性として見てくれていることもわかった。確かに今まででも私に好意を持ってくれる男性は少ないが、いたにはいたのだ。だが、私がその相手を好きになれなかった。好きになれない相手とデートをしても全く楽しくなくて、ひどいときは吐き気を覚えるときもあった。一緒にいることがつまらなくて、「レポートやらなくちゃいけないの」といって下手な嘘をついて早々に逃げ出したこともあった。

だけど、黒田くんは私を女性として見てくれて、私も彼を最近は異性として見始めるようになった。(最初はもちろん異性としては見ていなかったが)だから、私たちは自然にうまくいくと信じていた。もう恋人になるのも時間の問題だと。


だが、現実は違ったのだ。彼は奈江が好きなのだ。その事実はひっくり返しようもない。私はどうする?彼の恋を応援する?だけど奈江の気持ちを私は知っているので、応援したところで、奈江を裏切ることにもなってしまう。だけど黒田くんは、失恋してしまう。失恋の痛みは誰よりもわかっていると自負しているので、かわいそうだと思ってしまった。だけど、黒田くんを応援するということは、私のこの気持ちを殺すことになる。まずは、彼に本当のことを聞いてみよう、そう思って、涙を拭いて職場へ戻った。



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