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君へのラブレター(仮)  作者: 時雨
恋の芽
7/17


「黒田くんも奈江狙いなんでしょ?」

「中村さん狙い?」

「私に近づいてくる男ってみんなそう。私じゃなくて奈江狙いなの。黒田くんも同じなんだと思って。」

「……確かに中村さんのことは少しいいなと思っていたけど」

「ほらやっぱり」

「だけど、南沢さんのことをそんなふうに思って誘ったわけじゃないよ!信じて」


彼の目を見た。彼は真剣な目をしていた。嘘などついていなことも、すぐにわかる。そのとき、ああ私少しひどい言い方したかもな、と後悔した。


「ごめんね。ありがとう。でも3人で行くのは私いやなんだ。」

「そっか。ごめん」

「ううん。私と黒田くん、二人でなら行ってもいいよ。なんてね」

「……2人で行くか。」


このときは、なんだか冗談でそんなことを言い合っていたと思っていた。だから後日、あの映画を2人で見に行かない?と冗談まじりで、いや……断られるだろうと自嘲もまじえて彼を誘ったのだ。

どうせ、「あんたと二人でなんて行くわけないだろ」って鼻で笑われると思ったから。ほら、早く、いつものようにほかの男どものように、あざ笑ってさ、それで「いや行くわけないでしょ」って罵ってごらんよ。そういうの私、慣れているから。ああ、また私自分で自分のこと傷つけて……、バカだなぁ。私。


だけどそんな予想とは裏腹に、黒田くんはあっさりOKを出したのだ。それでこの前初めてデートをしたのである。強がっているけど本当は全然男性経験がない私は、このときすでに無意識に浮かれていたのだ。

だから、私には彼がいるという安心感に包まれていたのだ。まだ付き合ってもいないし、彼が私を好きと確信づくことがあったわけでもないのに。だから一時だけ自信に満ち溢れていた私の目の前で、黒田くんは奈江と笑いながら話していたシーンを見て、言葉を失った。


私と一度デートしただけで、黒田くんが奈江のことを好きじゃなくなったわけじゃない。冷静に考えればわかることではないか。なぜそんな勘違いを、早とちりをしていたのか。本当にバカな私。だけど黒田くんが草食男子だということは、もうすでに知っているので、彼が奈江をデートに誘う勇気もないだろうから、そこまで心配しなくてもいいだろうと言い聞かせた。……いや、言い聞かせたところで、別に黒田くんが私のものになったわけでもないのに。心のもやもやはまだ残っている。



 そんなある日、仕事帰りに職場の仲間4人で、近くのアイス屋さんに寄り道することになった。もちろんメンバーは、私と黒田くんと奈江もいる。もう一人は私と黒田くんと同じチームの後輩の女性。(後輩と言っても、私より年上だけど)4人でアイスを食べに行くというか、寄り道するのは初めてだった。

彼は奈江のことを気になっているのに、奈江の隣の席に座る勇気はなかったらしい。そもそも奈江は、私ともう一人の後輩の女性の間に座った。奈江は片思い相手以外の男性に擦り寄られるのが苦手なので、わざと彼の隣を避けているようだった。それでも私は彼の思いを知っていたので、この前こんな私とデートしてくれたお礼として、2人の仲を取り持ってもいいか、と考えていた。(なぜこんなことを考えたのかというと、私には自嘲壁があることを忘れてはならない)だけど私が思っていたより手強かった。奈江は、ひたすら後輩女性の隣を歩き、後輩女性に色々話しかけていた。それを私は彼と2人で後ろから眺めていた。(黒田くん、本当は奈江と話したいんだろうなぁ。)


「黒田くん、奈江のこと好きなんでしょ?」

「はっ?別にそんなんじゃないし」

「照れなくてもわかるよー。私が仲を取り持ってあげようか」

「本当にそういうことしなくていいから!」

「なんだ、つまらないの」


彼は必至に抵抗した。人に仲を取り持ってもらうのは嫌なのだろう。ちょっとおせっかいだったかな、だけど、少し安心している自分がいることに気が付いてしまった。


これは彼のことを応援しようと見せかけて、実はそうではない。彼は奈江のことをもうあきらめて、私に少しでも気があるのか知りたかったからだ。なんとも腹黒いことを考えた私であるが、そんなことを考えている時点で、私は彼に恋をしてしまっているのであった。だけどこのころの私はまだその事実に気が付いていないのである。(いや、気が付いていないふりをしていたのかもしれない。)


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