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君へのラブレター(仮)  作者: 時雨
恋の芽
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『恋の芽』



 黒田くんと初めてデートしてから、会社内で彼と話すときは少しだけ何かが変わった気がした。いや、彼はいつもどおりなのだが、私が少し変わった気がする。なんだか気持ちが少し高揚しているよう。まあ距離は確かに縮まったので、前より親しくなったのは間違いないのだが、なんだろう、この感覚は。少しもやもやしながら今日もまた仕事に取り組む。


朝、彼を見かけたから声をかけようと思ったとき、彼は私の後輩の女の子と話していた。後輩と言っても、入ってきたのが後からだっただけで、実は私と同じ27歳である。彼女とは何故だかとても気が合って、会社内で一番仲の良い同性の子だ。初対面でもほとんど人見知りすることなく人懐っこい性格。男性からは評判もよくモテていた。私と彼女は仲が良いこと、会社の中でもほぼみんな知っているので、私に近づいてくる若い男性は、ほぼ彼女目当てだったことも知っていた。


「南沢さん、今度中村さん紹介してよ。」

「はいはい。今度ね。」


ほらまた、こんな感じでニヤニヤしながら私に近づいてきて、同じ言葉を言う。本当気持ち悪い。自分で彼女に話しかける勇気もないくせにバカじゃないの?心の中でそう思いながら、いつも腹を立てていた。


「ねえ、海ー。私あの人からご飯誘われたんだけどどうしよう……」

「奈江が嫌なら断ったほうがいいよ。」

「うん、そうだよね。でも私って断ることができなくて……」

「一回くらいご飯おごってもらうのもいいかもしれないけど、本気にされて困るのは奈江でしょ?」

「そうなのー!やっぱり断ってみるね!」


奈江は、私に相談してよかったといつも言ってくれる。だけどもう27歳なのだから、少しは自分だけでなんとかする力も身につけなくちゃいけないのだけれど。

そこで話は戻り、黒田くんも、奈江に気がある男性の一人だということをここで説明しなくてはいけない。黒田くんも、ほかの男性と同様に奈江と初めて話したときから、ほぼひとめぼれしたらしい。(あくまで噂なので、本人から聞いたわけではないけど。)だけど、周りも黒田くんが奈江を狙っていることを知っているようだった。見ていればわかりやすいので、当然ともいえよう。


だけど最近、黒田くんも奈江狙いで私と仲良くなったのかな、なんてマイナス思考なことを少し考えていたこともあった。そんなとき、黒田くんと一緒に仕事しているときに、彼は言ったのだ。


「今度さ、南沢さんと中村さんと観劇に行きたいなぁ」


キーボードをたたいていた手が止まってしまった。言っておくが、私と奈江は実は演劇仲間でもあるのだ。お互い話してみたら、高校時代から演劇を始めたという共通点があり、速攻で仲良くなった経緯がある。そして黒田くんも、演劇を見るのが好き、という今どきの若い子としては珍しい趣味の子であった。そのため、黒田くんのことも、そのころから印象深い子になっていた。3人は演劇という共通の趣味があったのは間違いない。だから彼も純粋に3人で行ってみたいなと言ってたのだ。なかなか友人で演劇を見に行こうという人はいないから。それも十分理解していた。

だけどどうしても、自分の今までの経験から、彼の発言を聞いてから、このときは一度彼を軽蔑した。


「そういうの本当にいいから。」

「え?」

「行きたいなら奈江と2人で行って。私は絶対に行かないから」


少し不機嫌になりながら「絶対」と言葉を強調して言った。(我ながら今にして思うと、本当に自分勝手だったなぁと反省しているが)彼はどうして私がいきなり不機嫌になったのかも理解が追い付かず、戸惑っていた。


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